最近、ハルヒの機嫌がよろしくない。
テスト期間に入ってから、教師に部室の鍵を取り上げられたせいだろう。
SOS団の活動がそんなことで妨げられるはずもなく、放課後はハルヒの号令のもと5人勢揃いしているんだから、それでどうにか満足してくれないもんかね。朝比奈さんと長門をどこに行くにも連れ回してるんだ、フレストレーションが溜まる理由がわからない。ちなみに俺はよくその場で待機を命じられる。だったら帰らせてくれと思うが、何かあった場合の荷物持ち要員として数えられているらしい。
授業中もイライラと、ずっと窓の外を睨みつけている。
まったく授業を受ける気がない姿を見せているけれど、教師に当てられると人を小馬鹿にしたような態度でそっけなく答えを返す。当たり前のように正解しか出てこないから、教師としてもそれ以上叱るに叱れない。
どう考えても授業は聞いていないし、塾にも通っていないし、家で勉強するような殊勝な性質ではないというのに、どうして成績は抜群にいいんだろうな、あいつは。
今日も一日、ハルヒの機嫌は悪かった。
昨日も悪かった。きっと明日も悪いんだろう。
そしてそうなると一番の被害を被るのは、俺と一緒に何もない公園で待機を命じられている男が所属している機関である。
あれだけストレスフルですって顔をしたハルヒに振り回されるなんて、本当にお気の毒さん、と思う他ない。
「古泉くん、なんか顔色悪いからそこで休んでなさい」
そう言い置いて、どこかへ行ってしまったハルヒ達をただ待っている。
こういう時にSOS団の部室であればボードゲームでもしながら時間を潰すこともできるけれど、公園じゃ何もないからな。
人一人分くらいの距離をあけて、横並びでベンチに座っている。それが俺たちの距離感だ。
ちらりと横目で見遣ると、なるほど、ハルヒの言うとおり顔色が少し悪いように思えた。というより、寝不足なんだろうか。うっすらと目の下に隈が浮いているように見える。いつものように浮かべた穏やかな笑顔も、どこか覇気がないと感じるのは、ハルヒの言葉のせいで引き摺られているだけなのかね。
ふっと、目が合った。
「どうかしましたか?」
「いや、別に」
労わってやればいいのか? あいにく俺が古泉相手にそこまでしてやる義理はない。
沈黙が苦になる相手でもなく、なんとなしにお互い話すこともなく黙りこんでいた。
ぼんやりと人の流れを目で追う内に、どれくらいの時間が経っていたんだろうか。ふと隣の空気の流れが変わる。
目を向けると、世にも珍しいものを見た。
古泉の目が閉じられていて、僅かに顔を傾いでいる。僅かにあいた口元から、穏やかな寝息が滑り落ちていった。
うたたねしている古泉なんて、初めて見る。口を開けて寝てる間抜けな姿さえ、妙に整った顔が崩れることはないのはどういうことだろうな。
それにしても、よっぽどハルヒに振り回されているらしい。
「お疲れ、古泉」
ねぎらうつもりはなかったのに、あまりに弱った姿を見せるからつい、そんな風に声をかけてしまった途端、古泉の口角が僅かに上がって見えた。