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    kemuri

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    天使のはらわた、人魚のむくろ/フロリド

    「金魚ちゃんはいいこだよ」
    そう言って頭を撫でる彼の手のひらがむず痒かった。こんな時に言う言葉がよりにもよってそれなのか、キミは。

    ***

    辺り一面は焼け焦げていて、吸い込む空気も燻っている。まだ何人か残っているのだろうけれど、今ここにいるのはボクとフロイドだけだった。そのフロイドも息を浅くして地面に背をつけていた。
    「早く皆と合流しよう。きっと生き残ってるはずだ」
    フロイドの方を見ないようにして次の行動を口に出す。皆がいる方角を探るために探知の魔法を投げた。距離がどこも遠い上に散り散りになっているが、心配のない人数が残っているのが感じられホッと胸を撫で下ろした。
    「一番近いのは西の棟だったよ、行こう」
    「金魚ちゃん一人で行きなよ」
    そう言われてようやくフロイドの方へ目を向けた。両目を横薙ぎに一閃、腹部にも一閃、四肢はどうにか揃っているが何箇所か折れてるだろう。そんな状態の彼は焼けた地面の赤黒い血溜まり染みの中に転がっていた。視認して眉間にシワを寄せる。
    わかってたさ、ああわかってた。フロイドはもう動けるような状態じゃない。それに気付いた時手当てをしようとしたのに彼は「そんな事するくらいだったら周り見るか自分のためにやって」と睨みつけて言うものだから手を出せなかった。仕方がないから無茶をしないかだけを気にして周囲へ迎撃をずっとしていたのだった。
    彼のことだからどうせしばらく休めば動けるようになるんじゃないか、って思ってた。思ってたけれど過信でしかなくて、結局この場には手負いの魔法士しかいないのだと思い知らされた。
    「ああもう!これからはキミの言うことなんか聞くもんか。ほら傷口を見せるんだ、止血して、イカれた内蔵と骨を少しはマシな状態にしてやる。そしてボクと一緒に行くんだ」
    どうせユニーク魔法を使う余裕もないだろう。杖を握りしめて強く念じる。少しでも長くフロイドが生き延びられるように。舌打ちが聞こえる。それが出来るなら上出来じゃないか。
    「っ!金魚ちゃん後ろ!」
    見えてないだろうに匂いで気付いたフロイドの叫び声と同時に自身も気配に気付いて防御壁を張る。まだいたのか、と絶望で背に汗が滲む。けれどもそれどころではない。正面に杖を突き立てて防御の魔法を広く出現させ、少しの間の時間稼ぎをしているうちにもう一つ別の呪文を唱え始めた。これが何の呪文かなんてフロイドは知ってるに決まっている。ほら、動けないはずのフロイドが身じろいでいる。
    「……さっきも言ったようにキミの言うことなんか絶対聞いてやらない。キミはそこでおとなしくしているんだ」
    膝をつき、しゃがみこみ、それでも杖から手を離すことなく呪文と念を強めていく。
    「……聞かなくていいし、それでも金魚ちゃんはいい子だよ」
    ギリギリの状態。疲れ俯いてしまっていた頭に手が乗せられ撫でるフロイドの手のひらがむず痒い。キミはこんな時にそう言ってくれるのか。
    「西南の棟、まだ倒壊してないし防衛魔法の得意な生徒が揃ってる」
    「ん、わかった」
    呪文を唱え終わり杖を振るう。瞬間、フロイドの姿は消えた。転送魔法を使ったのだった。
    その瞬間、パリンと乾いた音が響く。防御魔法が突破された。
    身構える前に腹部に手を当てる。裂けてはみ出る自身の内蔵を押し込む。映画でポロポロとこぼれている様子を見たことがあるが、実際は教科書で学んだようにそう簡単にこぼれはしないんだな、と妙なところでなるほどとなる。
    匂いに敏感なフロイドのことだ。目が見えていなくたってボクの血の匂いくらいわかっていただろうに、その上でいい子だなんて言うんだから。馬鹿馬鹿しい。
    「……嘘つきは天国になんて行けないと知ってるかい?」
    残念ながら先に行くのはボクだよ。
    向かってくる脅威を正面に、口から零れる血泡を焼け焦げきった手袋で拭うのだった。
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