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    blackberryO7I5

    @blackberryO7I5

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    低速でジャンルを反復横跳びします。

    いまは呪の五七/悠七/猪七/灰七
    時間ができたらknprカケミナなども投げるかも。


    pixivにおんなじような話ばっかり上げてるのが
    心苦しくなってきたのでしばらくpixiv断ちします。
    そのかわりめっちゃポイポイしちゃうぞ☆

    マシュマロ:ひと言でも頂けたら嬉しいです
    https://marshmallow-qa.com/blackberry0715?utm_medium=url_text&utm_source=promotion

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    blackberryO7I5

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    キスの日の五七
    五条サイド

    #五七
    Gonana

    「……七海?」

     授業を終え、苦手な事務作業も終えて、ふっと気を緩めたと同時に愛しい呪力を感知して五条は伸びをしかけた身体をぴたりと止めた。

     基本的に五条の持っている能力値は多方面に亘って非常に高い。だから書類仕事が溜まりに溜まっていたのは、単に面倒という理由だけで放置していた結果だった。頼むから提出してくれと泣きつかれて、ようやく着手したのだ。その作業に思いのほか集中していたらしかった。おそらく少し前から訪れていただろう恋人の気配に気づかなかったとは。帰ってしまう前でよかった、と五条は勢いよく椅子から立ちあがった。

     気配は昇降口に向かっている。彼ももう帰るところなのだろう。その前に捕まえて、食事にでも誘いたい。あわよくばそのままお持ち帰りを……などと考えながら五条は恋人──七海の呪力を軽い足取りで追いかける。きょう七海が高専に来るとは聞いていなかった。面倒なことを片づけた自分へのご褒美のようで、五条の心は自然と弾む。

    「?」

     昇降口を挟んで対極の棟からこちらへ向かっていた七海の気配が、とつぜん進行方向を変えた。もうすぐそこの角を曲がれば逢える、と相好を崩していた五条はその不自然な七海の挙動に首を傾げる。七海のほうも五条の存在には気がついているはず。だとすれば……これは、もしかして五条から逃げようとしているのか。だがその理由に思い当たるものはなかった。

    「ちょっと待ってよ、なんで逃げるの。っていうかどこ行くつもりだよ」

     慌てて後を追う。長い脚をいかして一気に距離を縮めると、反対方向へ行きかけていた七海の腕をつかんだ。どう考えても帰ろうとしていた七海が、昇降口とは逆のどこかに用があるとは思えない。腕を振り払われる前に彼の身体を抱きこんで拘束した。いっしゅん今いる場所のことが脳裏をよぎったが、構ってはいられない。恋人が理由もなく自分を避けようとするのに平常心でいられるほど五条の七海に対する感情は軽くなかった。

    「そんな睨むなよ」

     腕のなかで七海が不機嫌そうに眉を顰める。グラスの奥の眦がきゅっとつりあがった。この反応は想定内のことだ。常日ごろからスキンシップ過多な五条に対して七海は、時と場所と場合を考えろと繰り返し注意しているのだから。

    「なら離してください」

     言葉といっしょに、仄かな甘い匂いがふわっと香って。七海の口のなかに飴玉があることに五条は気がついた。あまりふだんの彼の嗜好にはないそれを意外に思いながら五条は、腕から抜け出そうとする七海の腰を抱く手に力を入れる。

    「だってオマエが逃げようとするから」

     せっかく逢えたというのに、どうして七海がこんな態度をとるのかがわからなかった。五条の胸のなかに小さなわだかまりが広がっていく。

     ……逢えて嬉しいって思ってるの、僕だけなわけ?

    「逃げたわけではありません。避けただけです」

    「いやいやほとんど一緒だよね!?」

     考えてみれば、来ていたのならばひとこと声をかけてくれてもいいはずだ。五条が気がつかなければ七海はきょう高専を訪れたことを告げもしなかっただろう。逢いたいと、すこしでも顔を見たいと──七海が思ってくれていないという事実は五条の心を重くした。それを気取られぬよう大袈裟に声をあげて五条は、七海の顔を覗きこむ。なにか怒らせるようなことをした記憶も、避けられる原因も、五条には全くないのだ。彼の、この振舞いの理由を探りたかった。

    ──七海と、視線が絡む。
     本来は視線を遮るために覆っている互いの目許だが、それらを通してもどういうわけか七海とは感覚で“眼が合っている”ことがわかった。

    「……七海、オマエ」

     絡んだ視線に混じる違和感。
     それで、七海の態度の原因はわかった。わかってみれば、なるほど彼が纏う呪力にも確かにかすかな揺らぎがある。七海らしい、と思う反面でこういうときに頼ってもくれないのがひどく寂しい。おそらくこれが七海なりに五条への負担を気遣ったものなのだろうと、理解はできるけれど。……それを、負担だと思われることが、五条にとっては歯がゆくて仕方なかった。

     さらに深く探ろうと五条は目許を覆う布を取りさり、七海のグラスも奪う。肉眼で七海を見据える──と。居心地が悪そうに視線を逸らして身じろぐ七海から、べつの誰かの呪力を感じた。ほとんど消えかかった淡い残穢に眉を顰める。

    「もう帰るところですし、明日は休みなので」

     七海が口を開くと、呪力の残り香がすこし強くなった。

    「だからなに?」

    「ご心配なく。一晩眠れば回復します」

     恋人の身体に残るだれかの呪力と、突き放すような七海の言葉。
     その両方が、五条の神経に嫌なとげを刺す。

     飴を口に含んでいるというのに淀みない滑舌で器用に話す七海が言葉を零すたびに、残滓がわずかに濃くなる。……原因は、あの飴玉か。当たりをつけた五条は大きく息を吐いた。

     そうやって自分のなかに凝る、どろどろとした感情を散らさなければ、とんでもないことをしそうだった。体調の悪さを押して仕事をこなし、ようやくいまから休もうという七海に対して、決してしてはいけないことを。

    「そういうことじゃないんだけどなあ」

     七海が五条を疎んでいるわけではないことも、彼は彼なりに気遣っていることも、理解はできても納得ができない。頼られたい、と思うのは過ぎたことなのだろうか。声に鬱屈とした色が混じってしまったことは知覚したが、出してしまったものは取り戻せない。
     七海が何かを言おうと口を開くのを見とめた五条は、これ以上彼から自分を拒む言葉を聞く前にと、その唇を塞いだ。

    「んンっ!」

     驚きに七海の眼が見開かれるのを間近で見ながら五条は七海の口内に残る残穢の塊──甘ったるい飴を奪いとる。七海の唾液が絡まる飴玉が歯に当たってから、と鳴った。

    「んぁ、ふ……ッ、」

     自分以外のだれかの呪力がほんのわずかであったとしても七海の体内に入るのは許せなかった。舌のうえで融かして五条の呪力で上書きした飴を七海の咽喉の奥に流しこんでいく。七海がぎゅっと目蓋を閉じた。

    「んく、ん、んッ、」

     押し戻すことも吐きだすこともせず七海がそれをすべて飲み干したところで唇を離す。乱暴な口づけに咳ばらいを落とした七海の首許に、五条はほとんど無意識で指を伸ばした。そこに感じる五条自身の呪力。七海の身体のなかに自分の色が落ちていく感覚に、五条のほのぐらい征服欲が満たされる。
     とつぜん人体の急所に触れられた七海がびくりと震えたが、五条はそれに構わず彼の喉許を指さきで辿った。……外側からも自分の色を塗りつけるかのように。

    「ちゃんと夜までに治しといてね。明日休みなんだろ? だったら今夜もイイ声いっぱい出してもらわなきゃいけないし」

     出し抜けな行動に意味を持たせるために五条は、口先だけの虚言を吐く。この醜い感情は、一生七海に知られるわけにいかないのだ。きっと、彼はこんなものを見せたら──。

    「ぶん殴っていいですか?」

    「冗談だよ。まあでも今夜オマエんち行くから」

    「待ってください、きょうは、」

     言い募ろうとする七海の言葉をキスで遮る。駄目を押すようにもう一度たっぷりと七海の咽喉へと唾液を落とした。彼がすなおに飲み下したことで歓喜に震えそうになるのを抑え五条は、七海と額を合わせる。至近距離で触れあう睫毛どうしがキスを交わし、くすぐったい感触を生んだ。

    「体調悪いときくらい甘やかさせろって、七海」

     頼られたい。それは五条の率直な欲求だ。七海を慈しむことは負担でも何でもないのだと彼に理解してほしい。むしろ五条にとっては彼氏冥利に尽きる喜ばしいことなのだから。そんな願いをこめて七海の眼をみつめると彼は、戸惑ったように目蓋を閉ざしてしまった。ちいさく震える七海の身体をぎゅうと抱きしめる。

    「わかった?」

     かたく目蓋を閉じたままの七海の唇を食み、言い聞かせるような気持ちで何度も啄んだ。ちゅ、とわざと音をたてて唇を離すと、ようやく眼を開けた七海に向かって五条は笑みを浮かべてみせる。

    「今日は七海は何もしなくていーよ。僕が勝手に世話焼くからさ」

     意図して耳の奥にからみつくような甘い声を落として七海の身体を解放した。後ずさって距離を取りながら七海は、濡れた眼で探るように五条を見ている。

    「警戒すんなって。僕ももう帰れるからさ。ちょっとだけ待ってて。家まで送ってあげる」

     こうして五条が我儘を装って何かを断言するとき、七海は口では何かしら苦言を呈したとしても最後には結局それを受けいれた。ここで五条を置いて帰ることはもちろんできるだろうに、彼はそうはしない。五条が物事を“確定事項”として告げれば七海はいつも受容する。現にいま、彼が纏う空気は既に五条を容認するものになっていた。七海がそれに気づいているかはわからないけれど。

     置きっぱなしにしてきてしまった荷物を取るために職員室へ急ぎ足で戻りながら五条は、唇に残る蜂蜜の甘さをぺろりと舌で確かめた。この味は嫌いではない。だがやはり他人の呪力がからみつくものをごくわずかでも七海の身体に残すのは許しがたかった。


    ──この、浅ましい感情。


     七海を大切にしたいと思うのと相反する、それなのに確かに五条のなかに共存する醜悪な独占欲と征服欲。これだけは彼に見せることはできない。こんなものを見せれば七海はきっと。

     ……きっと、五条から離れられなくなるから。

     彼は否定するだろうが、七海はどこまでもやさしい。
     この歪んだ愛情を目の当たりにしたとき、きっと七海ならばそれを怖れたり厭うたりしないだろうと五条は思っている。それすらも受けいれ、包みこんで、きっと憐れんでくれる。そうなると、やさしい彼は五条を二度と突き放せなくなる。

     それはとても甘美で……絶対に避けたい未来だった。
     七海とは、対等でいたい。対等な立場で愛し、愛されて、添い遂げたい。

    ──今夜はとことん七海を甘やかして、彼に刻まれた残滓をすべて上書きしよう。
     そう心に決めて五条は、口許を歪めた。


    ●END●
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