巨人の肉①夜になり白い街スヴォルにあちらこちらに灯りが灯る。ホテル『ミスティル』を後ににし、とある男の住む家へ向かった。
ドアを開けると目的の男はタイプライターで紙に文字を打ち付けている最中で、こちらに気づく様子がない。代わりにドアを手の甲で2回ノックしてみせると動かしていた手を止めた。ウエスタンハットのチリチリ髪の男がこちらを向く。
「老けたネ。ディーゼル」
「それはお互い様だろ。」
「昼間、芸術売ってるお前見て吐き気がしたヨ。」
頭をボリボリ掻きながらまたタイプライターに手を伸ばす。
クマが濃いまん丸でギョロリとした目を動かしていく。
「女。女。女。女!!!女の木彫りに女の絵!!」
「そりゃ、俺がスケベだからってわざわざ言わせる気か?」
ポケットから箱が潰れてよれている煙草を取り出す。そして、タイプライターの音だけが室内に鳴り響いた。
紙を切りとって横に置いてある数枚を纏めるとディーゼルに差し出す。
「今回多くない?」
「この街は多い方だネ。いつだって、悲劇は起きる。狡賢い悪者は生き残り、心優しい弱者は消えてイク。」
男は席から立ち上がる。長い手足を伸ばす。
そして紙をパラパラとめくるディーゼルを見る。
「悪人にも家族がイル。ディーゼル、お前達がやっていることは...」
「そうだよ。悪役を殺す理由のために俺は正義を謳ってるだけの。ただの悪さ。」
そう言い捨て部屋に出る。それ以降男は何も言わなかった。ドアの前で暇そうに待たせたセリカが木の枝で虫を転がしていた。
「なにしてんの?」
「虫ひっくり返ってたから、元に戻してやろうかと思って」
「バラバラじゃない」
「あー、もうダメかー」
諦めたように立ち上がり、セリカは木の棒を投げ捨てた。
「仕事だろ?ディーゼル。」
「ああ。」
そう返事をしてタバコの吸い殻を靴で潰す。
セリカはそれを慣れた手つきで拾い持ち歩きの灰皿の中にしまった。