巨人の肉③激しい駆動音と共に少女の身体が動き出す。
繋がっていた電気コードが次々外れていく。
彼女は「んんー!」と声を上げて腕を伸ばしている。
天井が高くても彼女が立ち上がるには少し狭い様だ。
背中を丸めたままお怯えた子供のようなそれはキョロキョロと大きな瞳を動かした。
「こんにちは。お嬢さん」
ディーゼルがそう声をかけるとようやく少女が二人を捉える。
「わきゃっ、あわわわ!に、人間だぁ...挨拶しなきゃ...まずは第一印象だよ!」
少女は早口で何やらブツブツと慌てた様子だ。見た目からして童顔だったが、声が思ったよりも幼く知能もそこまで高くなさそうだ。
そこで摩訶不思議といった顔をしているセリカの背中を軽く押す。
「え、これと話すのか!無理だろ!?」
「馬鹿。傷ついてるだろ。」
「ええー」
セリカとディーゼルのやりとりが聞こえていた少女は
半泣きになり細長い指をもじもじさせている。
「お名前をもらっても?」
そこでディーゼルが愛想笑いを浮かべ声をかける。少女はパァと目を輝かせた。
「え、えと、あのあの、あのね。私の名前、は、アリアっていいます!よろしくね!」
「おじさんはディーゼル。で、こっちのちっさいのがセリカちゃん。」
そしてもう一度軽くセリカの背中を押すと、
おずおずとセリカも小さく会釈する。
それが嬉しかったのかアリアは満面の笑みを浮かべていた。
「そういえば、君記憶があるのかな?だとしたらここの事とか君のこと教えて欲しいんだけど」
「あ、えっと、ね。アリアを作ってくれた人達のことは、なにも、知らないの。ごめんなさい。」
「何も?」
「うん...アリアが分かるのは。ここの人達はみんなアリアに優しかった事だけ、だよ」
「...そうか。いや、ありがとう。」
ディーゼルにお礼を言われ、また嬉しそうにアリアは笑みを浮かべる。
ディーゼルは懐から煙草を出してジッポライターでカチッと火をつけた。
「外に出たいか?アリア。」
声をかけるとアリアはそれを俯きながら答える。
「え、え、でも、人間さんみんな怖がっちゃうと思う。街も人もうっかり、怪我させちゃったら怖い、な...」
「大丈夫だよ。あの街は君より怖い奴がいっぱいいるから。」
「え、怖い、の?」
「おじさんとセリカちゃんがいれば怖くないでしょ。大丈夫だよ守ってみせるから。」
ディーゼルの優しい声にこくこくとアリアは頷いてみせる。目は少し潤んでいる。
明日迎えに行くとだけ告げ、ディーゼルとセリカは明日の準備をしにホテルに戻ることにした。アリアを一時置いていくことになるがあの様子では勝手に出ないだろうし、念のため監視カメラを自分のスマートフォンに繋げているが、アリアは嬉しそうに歌を歌っているだけだった。
その歌はとても子供が歌うような歌だった。