偏食の男②異物が喉を通る。
あまりの不味さに咀嚼を止めて、無理に呑み込むことにした。
いつも思う。人が異端を嫌うなら、その異端はどう生きればいいのだろうか。
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古時計の音だけが鳴り響く。徐々に頭が覚醒していき、古い時計に視線を向ける。時計は夕方を指していた。
扉が開く。コーヒーの匂いが室内に広がった。
カフェ店員のバニラが、起きたことを知っていたかのように丁度良いタイミングでコーヒーを持ってきた。
「相変わらず。君は私のことをよく知っていル。」
「オーナーのことですもの。」
バニラは甘い笑みをキールに向けた。
コーヒーを一口飲み、皮でできた椅子の背に体重をかける。上を向くとステンドグラスの天使と目があった。
「ディーゼルは異常を理解できナイ。」
「私の目には彼も大概かと思いますが。」
きっぱりと言い捨てた後数秒、ショコラがミートパイを持ってきたことで短な沈黙は破られる。パイを切り静かに口に運ぶ。ミートの香りが部屋に広がる。
「アリアの残りですか?」
「そ、食べたくてディーゼルに殺しを依頼したんでしょ?ならもっと食べなくちゃ。持ち帰れたのは一部分だけなんだから。」
バニラの問いかけに大袈裟に手振りをしながらショコラは答えた。靴をならし、スカートをひらつかせてみせている。
「ディーゼルにはコレが人間に見えるらしい。」
「ミートパイが?」
「いいえ、巨人のことでしょう。彼には街にいる獣人も人に見えるのでしょうね。」
「私は共食いはシナイ。」
「人は意思疎通出来るモノに感情移入する傾向にあります。」
「味が違ウ。こんなにも違うというのニ。」
「理解できないのよ。」
ショコラの言葉にキールは停止する。ミートパイを静かに見つめる。
「じゃあ、あいつにとってのセリカはなんなんだ?」
重く静かな声が出る。そこでバニラが白く細い手をキールの肩に添えて、優しい声をかける。
「知っていますか?オレンジジュースって肉を柔らかくするそうですよ?」