偏食の男⑤薄暗い祈祷室。キールがまだ、小さな教会の神父だった頃の話だ。
異端は異端を抱えながら、生きていた。
毎日懺悔をした。
いつだって食事の時間は地獄だった。
そんな時、真っ白な女が冷たい手で頬に触れてきた。
「貴方は何も悪くないわ。」
これ以上ない美しいモノを魅た。
......。
目の前に見慣れた天井が映る。
ブラックブラウンの天井の木目がこちらを笑っているように見ていた。
そこにバニラがコーヒーを持ってくる。
またタイミングの良い時に来たと革製のソファに預けていた身体を起こす。バニラは小さく笑ってまだ出来立てのコーヒーを差し出した。ソーサーを持ちコーヒーカップを手に取る。口をつけようとした時、バニラが口を開いた。
「セリカを殺さなかったのですね。」
「友人が嫌がったからネ。」
「友人ですか?」
心底意外そうな顔をする。バニラがこういう表情をするのは珍しい。
「私はネ。そう思っていル。」
「何故?」
「私はネ。食べる物も、人間も何もかもが偏ってるんダ。だからこそ、あのディーゼルの歪さには好ましいとすら感じてイル。
これは同族愛なんてものジャナイ。互いに囚われているものがアル。全部失ッタ。それでもあいつは壊れきることができナカッタ。」
心底哀れだ。と言うようにキールは吐き捨てた。バニラに視線を送ると、小首をかしげる。
「貴方は壊れることが出来たんですか?」
「ああ、どこからかは分からんがネ。」
しばらくの沈黙の後、バニラが手を叩く。
「そういえば、今日食材を買いに行く際に、グリィ様に美味しいカツサンドの作り方をお聞きしたんです。マスタードも新しいものにしようと思って、味見していただけませんか?」
バニラとショコラはキールの数少ない理解者だ。人外を嫌うのには理由がある。
喫茶店にもたまに獣人や、人から離れたものが来るが、それを表にあまり出さない。だからこそ自分を使って
小さな腹いせをしてるに過ぎないのだろう。
可愛らしい甘い笑みを向けるバニラにキールは笑う。
「店に出すもので味見なんてデキナイが?」
「大丈夫ですよ。マスタードの感想だけいただければ。」