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    はるち

    好きなものを好きなように

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    はるち

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    甘いものの過剰供給に限界を感じる博のお話。

    #鯉博
    leiBo
    #リー博
    leeExpo

    囁くあなたの甘い舌 ラテラーノは確かに楽園だった。滞在三日目までは。
    「もう向こう半世紀は甘いものを見たくない」
     ソファに崩れ落ちるように座り込んだドクターの台詞に、リーは苦笑した。
     ラテラーノ人の甘いもの好きについては知っていたが、まさかここまでとは。路地には甘味を販売する露店が立ち並び、三歩と行かない内に別の甘いものに行き当たり、アイスクリームを売り歩くワゴンとすれ違う。極めつけはジェラート供給所だ。何故あんなものが街中に常設されているのだ。
    「ドクターだって甘いものは好きでしょう」
    「限度があるよ、限度が」
     確かに仕事で疲れている時は自分だって甘いものが恋しくなる。しかし連日のようにそれを口に来続ければ話は別だ。朝食にフレンチトースト、昼食と夕食にはデザートがつき、任務の合間に街へ行こうとせがむオペレーター達を連れて三時のおやつを食べに行く。それだけならまだやりようもあったのかもしれないが、甘いものに合わせる飲み物さえも甘いのだ。一体何が悲しくてザッハトルテと一緒に蜂蜜がたっぷり使われたカフェラテを飲まなければならないのか。無闇矢鱈と砂糖を使った暴力的な甘さではなく、繊細な味わいのする上品なスイーツだからこそ今日まで耐えられたが、しかしそれもそろそろ限界だ。ニェンが振る舞う火鍋が恋しい。
     何故ラテラーノ人はこの甘味の暴力に耐えられるのだろう。あの光輪と羽が常時エネルギーとして糖分を消費しているからなのだろうか。ラテラーノ人の体質を解明すれば糖尿病の治療薬が開発できるかもしれない、とぐったりとソファの背もたれにもたれかかりながらドクターは思う。血糖値が上がり過ぎたせいかやけに頭が重く、痛い。
    「リー、お茶を淹れてくれないか」
     自分が何も言わなくても、執務室で茶を用意している人間だ。贈答品としていただいたはいいものの自分で淹れるのも億劫で、仕舞いこんだままになっていた茶葉は今ではすっかり彼のものになっている。うっかり眠ってしまった時に、彼の淹れた茶の香りで目が覚めたことも一度や二度ではない。
     しかし。
    「生憎と用意がないんですよ」
    「は……? 嘘だろ。君、戦場でもいつも飲んでるじゃないか」
    「丁度切らしちまいまして。こんな時間だと店も空いてませんからねぇ」
     どうもラテラーノの食文化とは水が合わない人間は自分一人ではないらしく、砂糖の入っていない茶を求めて任務の後に彼の元を訪れるオペレーターはそれなりにいるらしい。千客万来なんですよ、と嘯くリーにドクターの表情がみるみるうちに曇っていく。今その頬を舐めれば、さぞかし苦いことだろう。
    「参ったな……。じゃあ煙草でいいや。一本ちょうだい」
    「禁煙したんじゃなかったんですか」
    「苦いものがほしいんだよ。ラテラーノから帰ったらまた禁煙する」
     まるっきりニコチン依存症の台詞だ。ともあれ、ドクターの言い分もわかる。リーは内ポケットから煙草の箱を取り出し、ドクターの方へと差し出す。助かる、と。ドクターがそれを受け取ろうと腕を伸ばし――、その手が箱へと届く前に、煙草の匂いを纏った彼が、ドクターへと覆い被さる。
     喫煙者の舌は苦い、という俗説は事実だと理解したのは、果たしていつのことだったか。
     月のような、琥珀のような、蜂蜜のような瞳から視線を逸らせない。鼻先まで漂うその香りに目を閉じたのは、そうすることがもう癖となっているからだ。目を閉じた方が味わい深いのは、料理も口付けも変わらない。
     ――しかし。
    「期待、しました?」
     思わず目を見開くと、金の瞳は可笑しそうな色を湛えて揺れていた。――いつからそれを与えられることが当たり前になっていたのか。それを当たり前のように享受することが。一体いつから、自分にとって、水を飲むように自然なことになっていたのか。頬が紅潮し、彼の笑い声が頬にかかる。人をからかうのも大概にしてくれ、という言葉が喉元まで迫り上がり――ふ、とドクターは息を吐いた。
    「期待、してるよ」
     だから。くれないのか、と。甘えたようなその言葉に。リーはぱちりと瞬きをして、ゆるゆると眉を下げた。
    「……仕方のない人だ」
     煙草の香りが染み付いた舌は、確かに骨を溶かすように苦いのだけれど。
     触れる唇は、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして、恋のように甘かった。
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
    1754

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