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    はるち

    好きなものを好きなように

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    はるち

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    どうして人間は、愛情と所有欲を区別できないのだろう?

    #鯉博
    leiBo
    #リー博
    leeExpo

    月が降りてくる 例えば愛情と性欲を区別して考えるべきであるように、何かをうつくしいと思うことと、それを自分のものにしたいという欲求は本来は分離して存在するべきなのだろう。美術館で美しいと思った絵画や彫刻を家に持って帰ろうとはしないだろう。そういうことだ。
     つまりは。
    「ドクター、酔ってます?」
    「たしょうは」
     困ったものですねえ、とリーは呆れたような表情になったが、しかし自らの頬に添えられた手を振り払うつもりはないようだった。ドクターはリーの両頬に手を添えて、自らの方へを顔を向けさせていた。酔っている、という自己申告の通りに、ドクターの手のひらは随分と熱い。じい、と。瞳を逸らすことを許さないというように、自らの顔を覗き込むドクターに、彼はただ穏やかに苦笑して答えた。
     彼の言う通り、今の自分は酔っているのだろうとドクターは思考する。全身を巡るアルコールは、理性を司る領域、すなわち大脳皮質から脳を浸していく。代わりに大脳辺縁系という、本能や感情を司る用意機の活動が活発になるため、泣き上戸や笑い上戸が生まれるのだ。そこまでは想起できるのに、しかしこの手を離そうという気にはなれないのだから困ったものだ。
    「リーのめはきれいだねえ」
    「そりゃどうも」
     自分から目をそらさずに、彼は酒盃を遠ざける。これ以上飲むのは危険だ、と言外に伝えるようだった。代わりに水の入ったコップを手元に持ってくるのだから、彼は本当に器用だ。
     うつくしいな、と思う。彼の瞳を。月のように優しく、琥珀のように煌めく鬱金色の瞳。けれどそれを自分のものにしたいと願うことは、やはり愚かなことなのだろう。空が落ちてくることが有り得ないように、月が人間の元へと降りてくることはない。
     彼の言うとおりだ。自分は酔っている。だからもう、こんなことはやめなければ。こうして手の触れる距離にあるから錯覚してしまうのだ。ドクターが手を離そうとした時に、けれどもそれを阻むものがあった。リー自身の手のひらが、ドクターのそれに重なる。
    「あなた、おれが欲しいんですか?」
    「――、は」
     逸らさないでくれと願った金色が、今度は自分に目を逸らすことを許さない。手のひらから伝わる彼の体温は冷ややかで心地よいのに、心臓が嫌にうるさく、顔から火が出るようだった。彼は人の心を読むことが得意だと、自分は知っていたはずなのに! アルコールに浮かされた脳は、どうしてこうも都合よく、肝心なことを忘れてしまうのか。
     ねえ、と彼が囁く。それは悪魔の囁きに似ていた。伸びた前髪の向こうで金の瞳が幻惑的に揺らめき、かかる酒精混じりの吐息がドクターを誘惑する。
     それは望めば手に入るのだと。月は、あなたの手の中へと降りてくるのだと。
    「……対価は」
     脳にこびりついた理性の欠片が、かろうじて口からでる。そうですねえ、と彼は親指の腹でドクターの手のひらをなぞった。
    「あなたは、何を差し出してくれるんですか?」
     思考を焼くのは巡る酒か、それともこの金色の鮮やかさか? わからない。唯一つ言えるのは、これが月に手の届く、最後の機会かもしれないということ。
     沈黙が耳に煩い。リーはただ、浅く呼吸を繰り返すドクターの言葉を待つ。
     やがてドクターは震える声で、その問いに答えを返した。
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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