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    はるち

    好きなものを好きなように

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    はるち

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    リー先生の不在時における寂しさのお話。
    詩及び日本語訳はwiki(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E6%81%A8%E6%AD%8C)より引用しました。

    #鯉博
    leiBo

    比翼連理の貴方 在天願作比翼鳥 在地願為連理枝  
     天長地久有時尽 此恨綿綿無絶期  
     
     それはちょっと、と筆を手にしたウユウの視線が泳ぐ。
    「扇子を拵えてくれるって言ったのはウユウだろう」
     執務室でのうたた寝から覚めると、ウユウは筆に無地の扇を広げて私を見ていた。面に好きな言葉を書きましょう、と言って。座右の銘でも好きな漢詩の一節でも、ドクターの望むものを書きましょうと彼が言うものだから、答えたのだけれど。
     私は、先程の言葉を繰り返す。
    「比翼連理、良い言葉だろう?」
     比翼とは、左右一つずつの翼しか持たず、それを共有する事でようやく一対となる羽獣。連理は、別々の根をもつ二本の木の枝がつながった枝。炎国の古い詩に由来する、離れ難い関係性の比喩表現だ。
     ドクターはご存知ないかもしれませんが、とやけに深刻な表情で彼は言う。初対面で私を主人と呼び、揉み手で肩を叩こうか、それとも足を揉んで欲しいかと尋ねた時は、少し入職試験について考えたものだけれど。胡散臭いという言葉の似合う彼は、けれども炎国の人間らしく義理堅く情に厚い。思い浮かんだ面影に、今は気づかない振りをする。
    「――在天願作比翼鳥、在地願為連理枝」
     私が口ずさんだ詩の一節に、ウユウは目を丸くする。
    「天長地久有時尽、此恨綿綿無絶。……で、あっているかな」
    「……ドクター」
    「もちろん私だって知っているさ」
     天にあっては、比翼の鳥となり。
     地にあっては、連理の枝となりたい、と願うこの詩は。
    「だからこそ、相応しいと思わないか?」
     現世では、最期まで共にある事が叶わなかった恋人が、来世を願う歌だ。
    「……ご存知でしたか」
    「まあ、ね。今のロドスにはリィンもいるし、君が苦手としているシーも、気が向いた時には話をしてくれるし……。レイズも、高官だけあって教養が深いからね。私がいつ炎国の役人と会話をすることになっても恥をかかないようにと、色々教えてくれるよ」
     意図的に口にしなかった名前に、ウユウも気付いたのだろう。炎国の歴史や文化芸術の話をする時には、瞳を輝かせる彼のことを。
     しかしウユウは何も言わなかった。私はただ、手元にある玉佩に触れる。不在が一番場所を取る。彼がいないこの場所に、いつでも私は彼の影を探している。
    「色恋にうつつを抜かして国を傾けた暗君と美姫の歌――ふふ、炎国には興味深い物語が多いね」
     ウユウは好きな言葉を書きましょうと言った。座右の銘でも詩の一節でも、私が望む言葉を。
     であれば、警句であっても良いだろう。
     彼の前では出せない自虐と皮肉だ。彼がロドスにいない今しか、こうして人に見せられない。
    「……はあ、ドクターの頼みであれば断れませんね」
     ため息の後、ウユウはさらさらと扇子に筆を走らせる。私の方に差し出された、白地に流れるような筆致で書かれたその言葉は。
    「……注文と違うんだけど」
    「どうかお許しを。例えドクターの頼みだとしても、リー兄さんの雷が落ちるのは私の方ですから」
    「リーの名前を出すなよ」
     およよという泣き真似がわざとらしい。
    「この言葉の意味は? 君は代わりに、何を書いたんだ?」
    「戻ってきたリー兄さんに尋ねてみては? きっとドクターの頼みであれば喜び勇んで解説してくれるでしょう」
    「だからリーの名前を出すなって」
    「いやはや、ドクター、寂しい気持ちはわかりますが、あまり拗らせないように」
     深刻シリアスな雰囲気は、ウユウのせいで――おかげ、と言う方が正しい表現かもしれない――、三文芝居コメディへと変わっていた。扇子を手にしてじとりと睨みつける私に、ウユウはぱちりとウインクを返す。
    「ドクターが暗君と美姫、どちらの役回りをご所望なのかはわかりませんが――しかし、このウユウ、一つだけ劇の行方に口を挟むとしたら。お二人の物語は、違った結末を迎えると思いますよ」
    「へえ、その心は?」
    「国を傾けるには、貴方は賢過ぎるからですよ」
    「……」
     定時を告げる時計のアラームが聞こえた。もう帰ってよろしい、という私に、慇懃なほど礼を尽くしてウユウは執務室を出て行った。
     もうすっかり墨の乾いたその言葉をなぞる。――琴瑟相和、と書かれているようだった。意味はわからない。
     扇子を閉じ、それを握りしめる。彼が戻ってきたら話したい事が、また一つ増えた。
     ぽつりと、言葉が溢れる。
     それは、彼にも、誰にも見せられない弱音で、一人きりの時にしか口にできない言葉だった。誰にも届く事なく死に絶えていく言葉で、この部屋が満たされて私が窒息する前に、どうか、早く。
    「……会いたいなあ、リー」
     
     天にあっては、願わくは比翼の鳥となり
     地にあっては、願わくは連理の枝となりたい
     天地はいつまでも変わらないが、いつかは尽きる時がある 
     しかしこの悲しみは綿々と、いつまでも絶えることがないだろう
     
     引用:長恨歌 白居易
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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