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    はるち

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    はるち

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    リー探偵事務所アニメ見ました?私はあれで気が狂って二話書きました

    #鯉博
    leiBo

    リー探偵事務所へようこそリー探偵事務所で起こった爆発事故については、ロドスにも一時間と立たずして連絡が入った。仮にも業務提携先であり、あの事務所は龍門における緩衝材、国家権力とアンダーグラウンドのバランサーだ。報告を聞いたときには、すわ敵襲による爆破かと緊張が走ったものだが、よくよく話を聞いてみれば調理中に起こった事故なのだという。リーとウンがその手のミスをするとは考えにくいから、おおかたワイフーかアが厨房に立っていたのだろう。
    そうして一夜にして職場と家の両方を失ったリー探偵事務所の面々が転がり込んできたのが、ここロドスだった。
    「なんとかなりませんか、ドクター」
    「そうは言われてもなあ」
    私たちはロドスの廊下を歩いていた。無機質な空間で、二人分の足音と話し声が反響する。屋根と壁があって雨風を凌げることがこんなにありがたいとは思いませんでしたよ、と彼は隻腕の狩人のようなことを言った。
    以前事務所を訪れたときに彼が見せてくれた年代物の茶器や骨董の類も、今回の事故で焼失してしまったのだと言う。形のあるものはいずれ失われるのが世の習いだとはいえ、寂しいものだった。いつだって飄々と、浮草のような余裕と掴みどころのなさを纏っている彼にしては珍しいことに、その目の下には色濃い隈が刻まれている。
    「所員全員の住居、ねえ」
    当面の活動拠点――仕事と生活、ワイフーの場合は学業も――を四人分用意する。それが私がリー探偵事務所所長から受けた依頼だった。
    以前からロドスのオペレーターとして在籍しているワイフーとウン、そしてアの居住スペースは既にある。問題は彼だった。
    「君も知ってはいると思うけど、ロドスは感染者と鉱石病のための施設だから、受け入れの優先順位としてはそちらが高くてね。手頃な空き部屋となると、少し確保が難しくて」
    タイミングが悪かった。先日、難民となっていた感染者の一団を受け入れたばかりだったから。
    「アとウンは元々同室でこれ以上人を増やすのは厳しいし、ワイフーと二人部屋、というのも難しいだろう」
    義理とは言え、ロドスであてがわれている部屋は父と娘が二人で暮らすにはいささか狭い。
    やや待ってください、と彼が声を上げる。
    「じゃあこの前送ったおれの荷物はどこにあるんです?相部屋になるとは聞いていましたが、あいつらじゃないとすると一体どこの誰で?」
    まさかリィンさんなんていうんじゃありませんよね、と彼が釘を刺す。私は苦笑した。彼女ならば気にしないかもしれないが、彼女がいつでも霧のように漂わせている酒の匂いに彼のほうが参ってしまうだろう。
    「着いたよ」
    彼の疑問には答えずに、私は彼がロドスに滞在するにあたっての拠点、彼の荷物を運び込んだ部屋の扉を開ける。中には段ボールが三箱、そして部屋の片隅には水槽が置かれている。いずれも奇跡的に焼け残った彼の私物だ。それ以外にはベッドと本棚、クローゼットがあるが、私物で言えば彼のものの方が多いほどだった。生活感のある空間とは言い難い。
    「ここは……、空き部屋、ってわけじゃないんですよね。この部屋の住民は長期任務で不在なんですか?」
    「うーん、そういうわけじゃなくてね」
    部屋の中を見渡している彼を置いて、私は一歩中に入る。部屋の中は少し埃っぽい。イつ人が来ても恥ずかしくない場所だとは思っていたが、しかし掃除が行き届いていない点は改善の余地があった。
    彼は探偵だ。放って置いても時期に解答に辿り着くだろう。探偵を揶揄する機会に恵まれたことに感謝しながら、私はこれから彼の同居人となる人物の名を告げる。
    「私」
    「は?」
    「私の部屋なんだよ、ここ」
    その瞬間の彼の表情と言ったら見ものだった。ぽかんと口を開け、呆然とこちらを見つめている。私は込み上げる笑いを噛み殺しながら説明を続ける。
    「ああ、ロドスの機密事項に当たるものはこの部屋にはないから気にしないでくれ。好きに過ごしてくれて構わない」
    「いや待ってください、ちょっと待ってくださいよドクター。ここがあなたの部屋?ここで一緒に暮らすんですか?あなたと?」
    「残念だけど空き部屋がないんだ。これで許してくれ」
    「許してくれってあなたね……」
    帽子を押さえて彼がしゃがみ込む。具合でも悪いのかと近寄ると、帽子のつばの隙間から覗く瞳と目が合った。
    「空き部屋ができたらそこに移すから、それまでの辛抱だと思って。それに私は同居人としては悪くないと思うよ。何せ滅多に帰ってこないからね。戻ってきたとしても寝るだけだ」
    「そんなことはこの部屋を見ればわかりますよ」
    ようやく立ち上がった彼は、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえていた。決して悪い話ではないと思うのだが。
    「ドクター」
    「気に入らなかった?ケルシーと相部屋の方がいいかい?」
    「勘弁してくださいよ。おれと一緒に暮らすっていうんなら、この部屋をもっと人間の暮らす環境にしてみせますんで、そのつもりで」
    彼は右手を差し出す。私はそれを掴んだ。握り返す感触は優しいが、しかし手放す意志はなかった。こちらを見つめる瞳に、先程までの動揺はない。
    「今後ともご贔屓に、ドクター」
    「……よろしく頼むよ」
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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