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    はるち

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    はるち

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    リー先生が言うところのお上品な嗜みに嫉妬するドクターのお話。

    #鯉博
    leiBo

    Private eye/secret eye三日前はファントム。一昨日はシルバーアッシュ。昨日はエンカク。
    「……ドクター」
    「何かな?」
    この聡明な人は、自分が何を言わんとしているのか、十全に理解しているだろうに。何も知らない振りをして首を傾げると、冬の日差しに似た色の髪がさらりと流れた。しかし笑みを灯した唇は、十二月の真夜中にこちらを見下ろす月光めいて冷ややかだ。
    「秘書のローテーションを決めているのはドクターなんですよね」
    「それが?」
    「おれがロドスに戻ってきてからのローテにはどういう意味が?」
    ようやくドクターの自室で二人きり、ソファに並んで座り、ここ数日胸の奥にわだかまっていた疑問を言葉にしてこの人にぶつけることができた。吐き出してしまえば少しは胸のつかえがとれるかと思ったが、しかし今度は軽くなった胸の裡が空寒いばかりである。
    初めの二日間は偶然かと思っていたが、今日の秘書はへラグと来ればもうこれは当てつけであり当てこすり以外の何物でもないだろう。しかし、何故?自分の知る限り、この人に見目麗しい男性を侍らせて喜ぶような趣味はなかったはずだが――
    「別に不自然なことでもないだろう、美を鑑賞してるだけだよ。一種のお上品な嗜みさ」
    「……」
    ドクターにそんなことを吹き込んだ心当たりは、残念なことに三人しかいない。恐らくは末の子どもの仕業だろうが。思い出すのは先日の社員旅行、あるいは家族旅行とも言うべき浜辺でのとある一日で、あのときの邂逅がこんな形で余波をもたらすとは。
    なるほど。つまりドクターは。
    「何にやにやしているんだよ」
    「してませんよ」
    どうだか、と苛立たしげに眉をひそめたその人は、結局何も言わずに視線を逸らした。しかし頬に差す赤色が、ともすれば人形めいて無機質に見えるこの人に、人間らしい情をもたらしている。
    だから、その人の頬を両手で掴み、自分の方へと向けさせた。
    驚いたその人の瞳いっぱいに、自分の顔が映る。可愛い恋人の可愛らしい嫉妬に、自分の頬はだらしなく弛んではいないだろうか。
    「な、何?どうしたの?」
    「いえね、おれも美しいものを鑑賞しようと思いまして」
    ぐ、とその人の呼吸と言葉が喉で詰まるのがわかった。ドクターが視線を逸らさないのは、肉食獣に遭遇した際の対処法と同じ理由だろう。目を逸らすことは、負けを認めることだから。瞬きさえ拒むように見開かれた目は、ただ自分だけを見つめている。
    「……どうだか、私がいないところでは、そうやって他の人も――」
    唇が触れたのは一瞬で、それだけで十分だった。百の言葉よりも、時として一つの行為は雄弁だ。
    「信じてくださいよ、ドクター」
    小さな羽獣がささめき交わすようなリップノイズに、頑なだった瞳の光も和らいでいく。今回だけは許してあげる、と、ドクターは呆れと共に深々と息を吐き――そのままソファに引き倒されて、一瞬、呆然とこちらを見上げる。
    「ええ、と。リー?」
    この人はまだ気付いていないのだろうか。頬を撫でると、わずかに身体が震えた。他人を見ている自分に嫉妬して、それへの当てつけのためにここ数日の秘書を選んでいたのだとすれば、この人の作戦は成功だ。大成功と言って良い。ただ、自分の嫉妬は、生憎と、この人ほど可愛らしくもいじらしくもないのだと、まだ理解していないのだとすれば。それが今回の敗因だ。
    ドクター、とこの人を呼ぶ声は、自分でも驚くほどに甘ったるくて不自然だった。
    「せっかくなんです。もっとあなたの美しさを鑑賞させてくださいよ」
    見るだけではなく。触れて、暴いて、もっと深いところまで。
    そんなのお上品な嗜みとは言えないよという反論は、口付けの一つで掻き消える。先程よりもずっと深く、素直ではない舌を絡め取ってその柔らかさを楽しみ、唾液の甘さを味わって。
    嗚呼、この人の美しさを確かめるのに、視覚だけでは足りやしない!
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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