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    はるち

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    ロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね

    #鯉博
    leiBo

    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
    「じゃあ、始めようか」
    ドクターがレコードに針を落とすと、流れ出す旋律が二人きりのダンスホールを満たした。こうして深夜にこの場所を貸し切れるのは、ドクターという役職の特権だ。ダウンライトとワルツが静寂と暗闇を遠ざける。差し出された手を取り、腰と首に手を添えて、リーとドクターは踊りだす。
    「手慣れているね」
    「あなたこそ」
    「私はよく誘われるから」
    そんなことは知っている。多くのオペレーターに慕われているドクターが、なんとか仕事の都合をつけてダンスパーティーに参加した日には、会場が騒然としていた。一瞬ここが武闘会だったのではと錯覚するほどだ。ドクターと踊ることは、ある意味ではグレイディーアを誘うことよりも困難なのではないだろうか。
    「……鼓動が」
    「はい?」
    「鼓動が、変わらないんだな」
    ステップの合間、ドクターは足音にかき消されそうな声で囁く。
    そりゃあ、まだ息を上げるような歳じゃありませんよ、と。冗談めかした言葉は、しかしドクターの心を逆撫でるだけだったらしい。テンポも変わらない、ステップも変わらない。鼓動が変わらないと言うのなら、ドクター自身もそうだろう。ならばこの肌を張り付かせるものは、何だ。
    「ある人に言われたよ。ダンスのときの振る舞いに、人の本心が現れる、って」
    「……はあ、それは」
    互いの吐息さえかかりそうな距離だ。リーはドクターの顔を覗き込む。そこにある表情は至っていつも通りに。フードもフェイスシールドもないが、今のドクターもそれに近しい仮面をかぶっていることは明らかだ。全く、ダンスの練習に付き合わされているのかと思ったが。ここはいつから仮面舞踏会になったのだろう。
    「おれの気持ちが知りたかった、と?」
    答えがわかっていて聞くのは野暮だ。ドクターは唇を引き結び、答える気はないことを伝える。リーとて、まともな返答を期待していたわけではない。完璧に近い仮面はよりその完全性を増し、窓硝子越しの月光を反射して白く輝く。けれどそれは次の瞬間には、砕け散っていた。
    「――、っ」
    ドクターが薄く息を呑む。強く手を引かれれば、ドクターはリーの腕の中に倒れ込むしかなかった。飛び込んできた駒鳥を逃さないように、リーは腕だけでなく尾を腰に絡ませる。顎の輪郭を耳までなぞりながら、リーはそうっと言葉を旋律に乗せた。
    「聞こえませんか?ほら、こんなに高鳴っているでしょう」
    昂揚を乗せて心臓は拍動し、期待を乗せた鼓動は全身を巡る。
    ちゃあんと聞いてくださいよ、と。リーは抗議の言葉ごと閉じ込めるように、ドクターを抱きしめた。耳を寄せれば、ドクターの鼓動さえ聞こえてきそうで。肌の下で脈打つこれは動揺だろうか、それとも?
    レコードの回転が止まる。ダンスはまだ終わらない。互いの真意を知り尽くすには、まだ。
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    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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