Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    はるち

    好きなものを好きなように

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐉 🍵 🎩 📚
    POIPOI 165

    はるち

    ☆quiet follow

    ルナカブの戦闘終了台詞を受けて。
    作戦後にご飯を食べるお話。

    #鯉博
    leiBo

    Dinner is ready.「ふぁ……疲れたぁ。お前が言ってたことは全部片づけたぞ、もうご飯食べていいか? 今日のメニューはなに?」
     
    「今日は油淋鶏ですよ」
     同じ隊に編成されていた男の言葉に、ルナカブは大いにはしゃいだ。先程まで疲れたと言っていたのが嘘のように明るい表情で、兎のように男の周囲を跳ね回る。
     あれは数えて七つ前の任務の時だった。おれも同行必須ですかあ? とげんなりとした表情で隊列に加わり、はいはい行きますよ、と嘆息して天を仰いでいた。ルナカブが隊長らしく、一生懸命やらないやつに獲物は分けん、と宣言すると、男は苦笑した。
     その態度に反して男は優秀な狩人で、そして料理人だった。ルナカブは調理といえば焼く、といった素朴なものしか知らなかったが、男はそれらを魔術のように組み合わせて奇跡的な料理を作っていた。男が現れる時の食堂が祝祭のように沸き立つのも納得だ、とルナカブは男特製の、赤くてたっぷり肉とトマトの入ったもの――ミートソーススパゲッティ、というらしい――を食べながら深く頷いた。こんなにおいしいものは、エクシア達が言う「パーティ」に参加したときに食べた植物の種を爆発させてできた丸いやつや、甘くてなめらかなミルクのふわふわしか――いや、それよりもっと美味しいかもしれない。
    「ゆーりんちー? それはなんだ?」
    「羽獣を揚げて香味野菜とソースで食べるんですよ。ま、口で説明するより実際に食べたほうが早いでしょうよ。さっさと帰りましょう」
     やった! と跳ね回っていたルナカブはロドスに帰還するルートを駆け出そうとし、そこではたと気がついた。
    「ドクター」
     背後に呼びかける。手元のPRTSを覗き込んでいたドクターが、顔を上げた。
    「ドクターも食べたいものを言うのだ」
     一生懸命やらないやつに獲物は分けない。ならば、一生懸命やったものにはきちんと分け前を用意するのが、群れのボスの務めである。そして今回の作戦でボスを任されたのは、ルナカブだ。
    「私? いや、いいよ。ルナカブの食べたいもので」
    「いーいーかーら! 言うのだ!」
    「ええ……。いや、本当に」
     ドクターが助けを求めてリーの方へと視線を滑らせる。先に口を開いたのはリーの方だった。
    「なんでも良い、は駄目ですよ」
     今回の作戦中よりも余程困った表情で、ドクターは眉をひそめる。からからと快活に笑い出した。
    「なんでも良いですよ、ドクター。何だって作りますから。言ってみてくださいよ」
     リーは歩く速度を落とし、ドクターに歩幅を合わせる。いやだって砂虫って言ったら君は怒るだろう当然ですよもっとマシなものを食べてくださいこれ以上痩せたらどうするんですか、というやり取りを聞きながら、ルナカブはじい、と二人を見ていた。
     ――二人は番いなのか、とルナカブがリーに尋ねたのは、数えて四つ前の作戦の時だった。
     リーは動きを止め、あたりを見渡して自分たちしかいないことを確かめてから、困ったように笑った。その笑い方はドクターのものと良く似ていた。
    「それ、他の人には聞かないでくださいよ。勿論ドクターにも」
    「何故だ?」
    「ルナカブ嬢ちゃんとおれだけの秘密にしてください。今日の夕飯、嬢ちゃんのものだけ特別にしますから」
     求めていた答えが得られなかったことに、むう、とルナカブは唇を尖らせたが、夕食に免じて許すことにした。そもそも、答えなど聞くまでもないのだ。リーはいつも、食事をよそうときはドクターのものを一番に取り分けて、一番美味しい部分をドクターに用意するのだから。それが番に向けるものでなければ、一体何だというのだろう。
     けれど。二人はそう言ったりしないし、他の人達にもそうとわかるように示したりもしないのだ。何故、とあの日の疑問を繰り返そうとして、頭に蘇る声があった。
     ――ルナカブ、人間らしさとは何だと思うかい。
     ベン、と名乗る男だった。痩せぎすで顔色も悪く、ルナカブにあの雨の多い街を案内した男。言っていることの半分も分からず、男もこちらに理解させようと思って話しているわけでもないのだろう。半分は独り言のようで、だからルナカブも返事をせずに言葉の続きを聞いていた。
     ――それはね、矛盾だよ。君たちは嘘をつかず、また誤魔化すこともない。好きなものは好きと表現するし、嫌いなものは嫌いという。本音と建前の使い分けもない。しかし人間は違う。愛しているものを憎み、好きだからこそ壊す。大切に思っているからこそ、遠ざける。
     あの二人もそうなのだろうか、とルナカブは二人を見た。好きだとわかっているのに、好きだと知っているから言葉にしない。手を伸ばそうとしない。番のように、互いを思っていたとしても、それ以外と変わらないかのように取り扱う。
     少なくともドクターの方はそうなのだろう。リーを特別扱いすることはない。他のオペレーター達と同じように、ルナカブと同じように扱う。ならば、リーは?
     向けられた視線に気づいたのか、リーがルナカブの方を見た。しい、と唇に人差し指が充てられる。それはあの日の約束を覚えているか、という意味なのだろう。けれど、ルナカブの目を引いたのは、それではなくて。あの鬱金色の瞳だった。
     狩りにおいて最も大切なものは、我慢だ。弓を放ちたい衝動を、獲物を追いかけたい本能を、喉笛に噛みつきたい衝迫を。最後まで抑えて、そして最善のタイミングを逃さないのが一流の狩人で――ルナカブの知る限り、リーは優秀な狩人だった。
     それに、とルナカブは思う。空腹が一番のスパイスで、狩りを終えた後の獲物が一番のごちそうであることは、ルナカブだって知っている。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🍳🍶🍚🍕🍲🍜🍝💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
    1754

    recommended works