(渋谷事変はあったけど死滅回遊は行われていないご都合主義ねりねり)
心霊スポットと化した廃ビルの調査及び低級呪霊の祓除。それが今回、釘崎野薔薇に与えられた任務だった。
報告では確認されているのは四級の低級呪霊が一体だけ。数々の任務をこなし、実力は三級呪術師よりも上だと見られている為か単独でも大丈夫だろうとの事で釘崎一人での任務に当たっていた。
上層部の本意はどういうものかは知らないが、実力が認められているのならばそれは喜ぶべきだと言い聞かせ、若干の不安を抱きながらも釘崎は任務を行う場所へと赴いていた。
渋谷事変と呼ばれた出来事。そのせいで昇級の話はどこかへ行ってしまったと小耳に挟んだのを思い出しながら、釘崎は廃ビル内の探索を続けた。
コツ、コツと地面を歩く度に響く己の足音。
一人で任務に当たっているせいか気持ちが何処と無く沈んでいく感覚を味わった。
歩き続けながら脳裏に過ぎるのは渋谷事変での事だ。
連日続いたニュース。新聞の記事も暫くはそれらの事ばかりを語っていた。
死者の数は数え切れないし、渋谷の街並みも変わり果て、今でも大きな傷跡となって消えないまま。
呪術師をしている以上、いつ死ぬか分からないとはいえ、実際に死にかけた身としては死ぬ思いをするのは二度と御免だ、と思った。
だが、それでも釘崎は呪術師としての道を歩み続ける道を選んだ。
呪術師を辞めるという選択肢は存在していなかった。
渋谷での事件で失った左目は家入の反転術式をもってしても戻る事はなく、左目周りの肌にも傷跡も残ったまま。
生きている証だと、今ではこの傷は誇らしいものに思える。
視界不良ではあるものの虎杖や伏黒と共に何件か任務をこなす内に視界が半分無いという事に大分慣れてきた。
呪術師は万年人手不足である。
慣れるまでは一人で任務に行くなと担任である五条や先輩達。そして級友に激しく怒られ、軽めの任務であっても必ず虎杖か伏黒、はたまた二人が着いてきていた。心配して貰えるのは有難いし嬉しいとは思うが彼等は過保護過ぎる。
いつまでも虎杖や伏黒におんぶに抱っこでは居られない。
そもそも一人でもこなせるであろう任務ばかりを回してもらっているのに、二人も呪術師を巻き込んでいる事実に正直胸が痛い。
今回に限っては、野薔薇は一度一人でも任務をこなせるという証明をしなければ、と躍起になっていた。
廃ビルの調査、及び住み着いた四級の雑魚呪霊数体を祓う。これが野薔薇に与えられた任務だった。やる事は何時もと変わらない。違うのは今回は一人だという事、ただそれだけだ。
実力も十分に有る。雑魚の呪霊だけならばそう手間取ることも無いだろう。その時はそう思っていた。
一体の呪霊を祓った瞬間に感じた浮遊感。
ぞわりと肌が粟立つ瞬間、釘崎の足元はコンクリートの地面ではなく黒い影のような物が浮かびあがり、沼に引きずり込まれるが如く釘崎はそのまま影の中へと吸い込まれてしまったのだ。
この感覚には覚えがあった。
少年院の時、そして八十橋の時。
過去に経験した感覚を想起させるが回避のしようがない。
為す術なく釘崎はそのまま影に飲まれていった。
*
「——っ痛ぁ!」
変な浮遊感を覚えたせいか受け身を上手く取れずごん、と鈍い音をたてながら盛大に地面に背中を打ち付けてしまった。
じんわりと広がっていく痛みに耐えながら身体を起こし、辺りを見渡す。
影に引きずり込まれ辿り着いた先は当然、先程とは異なる場所だった。
嫌な呪力が身体に突き刺さる。
薄暗く淀んだ空間。辺りを見渡すがこれといって目立つ物がなく、高い壁に囲われた空間と言い表す他無い。
帳を下ろして外で待機している補助監督が異変に気付き救援を呼んでくれる事を願いながら、釘崎は足を動かす事にした。
何もせずに突っ立っている訳にはいかない。
救援を待つと言っても本当に来る保証は無い。
自分自身の力で何とかする方法が一番手っ取り早い。
「…ほんと、面倒な事になったわね」
この空間が呪霊によって作られた領域ならばその呪霊本体を祓ってしまえばいい。言葉にするのは簡単だが実際に祓えるかどうかは別問題なのだが。
呪力の残穢を辿り、呪霊の居場所を探る。
そして漸く呪力の大元を見つけ、呪霊の姿を視認した。
暗闇で光る目玉。それらはぎょろり、と動き釘崎の姿を捉えた。
目の前に居る呪霊は一体所の数ではない事に気付き、報告と異なる現実に舌を打ちながら慣れた手つきで腰に携えたポーチから釘を数本抜き、それらを空に放つ。
双眸を細め、眼前に迫る呪霊へと向かって釘を穿つ為右手に持っている金槌を振りかざした。
「——簪ッ!」
かん、と甲高い金属音と共に釘崎の呪力が纏った釘が呪霊に穿たれ、凛とした声と共に爆ぜる。
汚い叫び声を轟かせながら霧散していく呪霊を尻目に辺りを見渡す。
祓っても祓っても湯水のように湧き出る呪霊の数に苛立ちを覚えながらも冷静さを欠かさぬように、釘崎は祓っていく。
時間の感覚も無く、どれ程の時間が経過したか分からない。
未だ出口も見つからずただ呪力と体力だけが消耗されていく。
出口の無い迷路に閉じ込められたかのような感覚に一抹の不安を覚え、ひゅ、と息を飲んだ。
(だめだ、最悪な事態の事なんて考えるな。しっかりしろ、釘崎野薔薇!)
暗く淀み始めた思考に蓋をして、釘崎は再度前を見据えた。
此処に居たのが雑魚ばかりで良かったと思いながら口元を三日月に吊り上げ、再度術を繰り広げる。
「お前ら全員、片っ端から呪ってやる」
息を整えながらどう打ってでるか思考を巡らせる中、耳に届いた馴染みのあるような、ないような声。そして呪力。
足音共に現れた人影に釘崎は息を飲んだ。
脳内の片隅に眠っていた記憶が一気に溢れ出す。
忘れるはずもない怨敵、特級呪霊、真人がその場に現れたのだ。
一気に血の気が引くのを感じた。
背中に嫌な汗が伝い、ぞわりと全身が粟立つ。
渋谷で対峙した時の事が鮮明に蘇り、奥歯をぎり、と噛み締めた。
正直、現れるまで真人の事などすっかり忘れていたのだ。
眼帯の下に隠された傷跡が疼き、仄かに痛みが走った。
「最悪」
態とらしく舌を打ち、釘崎は釘を数本抜く。
ポーチの中入っている釘の数は残り僅か。それに加えて呪力も底を尽きかけている。
未だに呪霊はぞろぞろと気味の悪い笑みと声を放ちながら湧き出てくる始末。
どんだけ呪いの吹き溜まりなんだよ、と内心で悪態をつきながらこの場をどうにかして切り抜けなければならない。
一歩も引けない状況。
少しでも隙を見せれば簡単に殺されてしまうこの状況でどう立ち回るのが最適解か。
「ねぇ、助けてあげよっか?」
思考を巡らせている時、鼓膜を震わせたのは予想外の言葉だった。
「——は?」
ずい、と顔をこれでもかと近付けてくる真人。
下手すれば口と口がくっついてしまう程の距離に詰め寄られ、息を飲むと同時、釘崎はすかさず金槌を顔面に向けて振りかざした。
まぁ、避けられたのだが。
「……何が目的なのよ」
敵同士。しかも釘崎は一度真人に殺されかけた。
そんな相手がどうして命を助けるような真似をしようとしているのか理解ができない。
疑念を込め、尚も睨み続けていれば真人はにたりと口元をつり上げた。
「君、もう呪力すっからかんだろ?呪具を扱える訳でもなさそうだし、今の君に戦う術は無い。そんな君に選択肢をあげようかと思ってね」
「何が言いたいの」
「俺からの施しを受けてうじゃうじゃ湧いてる呪霊を祓うか、このまま雑魚に殺されるかどっちがいいか選びなよ」
*
このあと呪霊が迫ってくる瞬間にンノバラチャンが真人さんとキスして唾液から真人さんの呪力貰って呪霊倒して〜みたいな展開。体液接種して呪力を供給できるのめちゃくちゃえちでいいよね🤤
今後真人さんは野薔薇ちゃんのstkになる。
真人さんは羂索を裏切って〜みたいなご都合練りこんだ。
まひくぎ吸いてぇ〜〜〜