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    ナナメ

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    ナナメ

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    豪雨で風邪引いた八を大が館で看病する話(大八)。雰囲気が一瞬微エロかもしれない 誰か大八かいてくれ

    狡猾傘を持ってくるべきだった。次から外出する際は携帯用折り畳み傘を鞄に入れて行こう…と考えながら、遠雷が響く中びしょ濡れになりながら人気の無い道を走り続けた。
    館の扉を開け、中に入るなり聞き慣れた男の声が耳に飛び込んで来た。

    「や、八敷君!?この雨の中走って帰って来たのかい!?」

    大門は驚いて持っていた書類を床に落とし、慌ててタオルを取りに行った。その間、自分は己の体を抱きながら奥歯を鳴らしその場で待つしかない。ここから動いたら床まで濡れてしまう…

    「ほら、急いで着替えて…!今お風呂を入れて来たから、早く暖まっておいで。風邪を引いてしまうよ」
    受け取ったタオルを頭から被りながら、促されるままに服を脱ぐ。まるで子供の気分だ。

    風呂から上がり、大門に渡された乾いた服に袖を通す。もう大丈夫だと思っていたのだが、大きいくしゃみをしてしまった。

    「…熱は出ているかな」

    大門の手が自分の額に触れる。
    ひんやりしていて、少し気持ちが良い。
    「…うーん…少し熱い…部屋で安静にしているしかないね。薬を取りに行こうにも、館に置いてあった薬は切らしてるし…この天気じゃ無闇に外出できない。…症状は?喉は痛い?寒気は?」
    「…喉は変わり無し、寒気と倦怠感が酷い…」
    「分かった。とりあえず部屋に行って、横になって」

    処置の手際の良さはさすが医者だ。

    ゆっくりと階段を登りながら、自分が今身に付けている服の「香り」に気が付いた。
    大門の匂いがする。ふとすれ違う時、談笑中にふわりと香る優しい柔軟剤の匂い。

    途端に、意識してしまう。
    駄目だ。こんな気持ちを抱いては。
    彼はそんなつもりで俺に服を貸したんじゃない。
    だが、やはり…想い人の香りを自分が纏っている…そう考えてしまうと、胸の高鳴りが収まらない。

    悶々とした気持ちでベッドに横になる。程無くして、大門が部屋に入って来た。

    「それにしても本当に、酷い雨だ」「すまない…迷惑を掛けてしまって」「そんな事言わないでくれ。朝はすごく晴れていたし、傘を持っていこうなんて思わないさ」
    大門はベッドの横に椅子を置き、花瓶を置くような小さな棚の上に水を張った洗面器を乗せて、静かにタオルを浸けた。

    外に目をやると、強い風で窓が軋み、大量の雨水が打ち付けている。止む気配は全く無く、むしろ強くなる一方だ。

    「この世界に…俺達だけが取り残されてしまったみたいだ」

    ぼそりと呟くと、大門が控えめに笑った。心配になる程細い腕で濡らしたタオルを絞り、俺の額に乗せた。

    「二人きりだよ。実際」「……」

    どんな心情で、意図でそれを言ったのか分からない。大門はいつも通り、涼しい顔でこちらを見下ろしている。
    それがまた、俺の心を乱す。

    数秒後、頭がはっきりしなくなってきた理由が、目の前の男に見とれているだけではないと気付いた。

    「熱が上がってるね…呼吸も荒くなってきた。吐き気は…無いね。…タオルを取り替えよう。失礼するよ」

    曖昧に頷き返す。
    既に喋れるほどの思考が回らなくなっている。

    苦しい。熱い。寒い。あたまがぼーっとする。

    自分の心臓の鼓動と雨音に誘われ、いつの間にか深い眠いについていた。




    ──目を覚ますと、倦怠感や悪寒は消え去っていた。すぐ横で大門が床に座り込み、ベッドにもたれ掛かって眠っている。

    外を見ると雨は止んでいて、雲一つ無い青空が広がっていた。
    小さく呻き声を上げ、大門が起き上がる。

    「ん、ああ…すまない、寝てしまっていたようだ…体調はどう?少しはマシになったかな」「すっかり元通りだ。大門がいてくれて助かったよ」「何と言っても僕は現役の医者だからね。単なる風邪と侮ったらいけない。拗らせれば命に関わる。手早く処置が出来て良かった」

    再び額に手を当て、熱が下がった事を確認して安心したように大門が微笑む。
    その笑顔に、何度狂わされて来た事か。

    印人として館で出会い様々な危機を乗り越えてから、段々とプライベートでの交流が増え…今では「資料を読みたい」と大門が定期的に九条館に通うようになっている。
    それなりに大きなクリニックを経営しているにも関わらず、こんな所で油を売っていて良いのか?と聞くと、「どうせあまり客は来てないから良いんだ。急患の電話が入ればすぐ戻らなきゃいけないがね」と少し自虐的な返答をされた。

    正直、好きな相手が自分の元に会いに来てくれるのは…素直に嬉しい。「ずっとこの時間が続けば良いのに」と思う反面、「この気持ちを知られたくない」と思う。
    今の関係が崩れてしまえば、きっと大門はもう…俺に会わなくなる。
    今の、ぬるま湯のような関係を終わらせてしまいたくない。

    俺のこの気持ちも、大門に伝わる事は無く…雨に溶けて消えて行くのだと、そう考えて、少し胸が傷んだ。




    ────────1時間前─────────



    「ごめんね。……八敷君」

    全部分かっている。
    そう、全部。

    先程まで苦し気に呼吸を繰り返していた相手は、打って変わって静かな寝息を立てている。

    「君の気持ち、気付いてるんだよ、僕」
    「それだけじゃない」

    慣れた手付きで、八敷のシャツのボタンを外す。
    一つ、また一つと外していくうちに、少し筋肉質な上半身が露になった。
    タオルで汗を拭き取り、…そっと指を這わせる。
    胸部を滑る指に反応し、寝ている八敷の体がぴくりと動く。

    「君の弱い部分だって知ってる」

    ぎしりと軋ませながらベッドに上がり、八敷の体に重圧が掛からないようにしながら馬乗りになる。

    「八敷君、…君はいつだって狡くて…、僕を大いに惑わせてくれる」

    己の髪を掻き上げ、熱の籠った吐息を吐き出す。

    「その可愛らしい寝顔。他にも色んな表情……僕だけじゃない、誰にでもそんな顔を見せているのかい」

    「僕と長い時間を過ごしているのに、僕に好意を持たれているかもしれない…と言う考えは全く無いんだね?」
    「…それでこそ、君と言う男だがね」

    「変な所で律儀で謙虚、それに臆病者。」

    八敷の眼鏡を外し、頭を優しく撫でる。

    「そんな所が大好きだ」



    「君は狡くて、酷い」
    「でも…」

    右横に片手を付き、ゆっくりと顔を近付ける。


    「──僕も狡い男だね」



    何を考えているのか掴めない微笑を残し、
    愛しい相手の額にそっとキスを落とした。






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