馴致と役得(ジェイアシュ) 驚いた。
飛んできた物がなんであったか、ジェイは視認する間もなく豪速球で眼前に迫ったそれを掴んだ。頭で考えるより前に右の義手は正常に動作し、飛来物との接触により硬質な音を立てる。恐る恐る確認すると小型のアラーム時計だった。手中のそれはセットした時間まであと一二分と一四秒ある。おそらくセットしてからそれほど時間が経っていない。
「ああ、てめぇか」
どうやら投げ付けたアッシュ本人も判別出来ていなかったらしい。半身を起こし片肘をつくその姿勢はアンバランスだ。盛大に舌打ちしてからドサリと再びベッドへ沈んで、溜息にも深呼吸にも聞こえる長い呼気を吐いた。場の緊張が緩和された事を確認して、ジェイはアラームを停止する。STOPと書かれたボタンを押すだけで良い単純構造で、助かったな、とジェイはひそかに安堵した。
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