※未来軸(多分10年後くらい)の話です。ジェイ引退済、パイセンはメジャーヒーローになって違うチームのメンターになってる設定。
※付き合ってますが同棲はしてません(パイセンはまだタワー住み)
※新年の話なのに新年感はほぼ皆無
1月1日 朝7:00
目覚ましの音ですぐに目が覚めた。ベッドから上半身を起こして、1度軽く伸びをする。昨日飲んだ酒の名残はない。まだカーテンは開けていないが、隙間からこぼれてくる光で快晴なのがわかる。1日の始まりは上々だ。
そのままベッドの上で軽くストレッチをする。暖房をつけているとはいえ、寒い季節は体が固くなりやすい。意識的に解してやるのとやらないのとではかなり違いが出る。こうした体のケアは現役の頃から染み付いた習慣だった。
顔を洗って髭を剃っている間にトーストを焼く。歳のせいか、ここ数年は朝食に好物のドーナツを食べるのは厳しくなってきた。こんな気持ちのいい朝はきちんとコーヒーを淹れたいところだが、あまりのんびりもしていられないので、インスタントで済ませることにした。
ジャムを乗せたトーストをかじりながら、テレビで朝のニュースをチェックする。現役の頃は街に何か異変があればすぐに司令部から知らせが来たが、今はこうして意識的に得ようと思わなければ、情報は入ってこない。テレビも新聞も、以前より熱心にチェックするようになった。
テレビから先日のクリスマスリーグの映像がダイジェストで流れてきた。各ヒーローの短い紹介と、それぞれの見せ場がセクター毎にコンパクトにまとめられている。ついこの間生で見たばかりだが、思わず見入ってしまう。
「引退した後でまでわざわざ見に来る必要ねえだろ」と言われたこともあるが、後輩たちの成長を見られる貴重な機会だと、毎年欠かさず行くことにしていた。引退や異動で見なくなった顔ぶれを思い出して、感傷に浸ることも増えた。
クリスマスのようなイベント事を2人で過ごすのは諦めていた。ヒーローをやっている限りそれは仕方がないし、それが原因で離婚した身としては分かりすぎるくらい分かっている。まさか何年も後になって、自分が「待たされる側」になるとは思ってもみなかったが。
「この様子だと、引退はまだ大分先だろうなあ」
画面を見なながら、つい独り言が漏れた。一人暮らしを初めてからひどくなる一方で、毎回「お前一人で会話してたぞ」と呆れられているが、無意識なので簡単には治らない。
一緒に過ごせないのは寂しいが、それよりも「少しでも長くヒーローとして活躍したい」というあいつの望みが着実に叶っていることの方が嬉しかった。2人で過ごすクリスマスは、もう少し先の楽しみに取っておくことにしよう。
───────年末年始はそっちで過ごす。俺が来る前に大掃除を終わらせておけ
そう言われたのは、引退してから初めて迎えるクリスマスの少し前だった。引退したばかりでまだ色々と声をかけられることも多かった当時、結局大掃除は間に合わず酷く怒られた。次の年は12月に入るとすぐに尻を叩かれ始め、当日までになんとか及第点をもらえるところまでこぎつけた。
それ以降試しに別荘やホテルで過ごした年もあったが、出かければどこも混んでいるし、新年早々観光地を貸切にするのは(俺の)気が引けるし、別荘にこもってゴロゴロするだけなら家にいるのと変わらないしで、結局俺の家で過ごすのが定着しつつあった。
この部屋を決めた当初は「もっと広いとこはねえのか」「どうせなら一軒家にすりゃいいだろ」「金はあるんだからいっそ新しい家でも建てろ」と散々言っていたくせに、今ではすっかり気に入っているらしいことが態度で丸わかりなのが可愛い。
「おっと、もうこんな時間か!」
時計を見ると、思ったよりも時間が経っていた。慌てて皿とコーヒーカップを流しに運んで、軽く洗う。
来る前に掃除機をかけておかないと。昨日の夜緊急で入った仕事のせいできっと疲れているだろうし、来たらすぐに寛げるようにしておいてやりたい。昨日一昨日と丸2日かけて大掃除したお陰で、今朝は最低限で済みそうだ。こうして掃除をする度に、「大きすぎる家は掃除が大変だから」と避けた当時の自分を褒めてやりたくなる。
ピンポーン
ちょうど掃除機をかけ終わったところで、玄関のチャイムが鳴った。余裕があればフローリングの水拭きもしようかと思っていたが、それは間に合わなかった。大掃除は頑張ったことだし、そのくらいは大目に見てくれないだろうか。
そんなことを考えながら玄関に向かい、ドアを開けた。
「あけましておめでとうアッシュ!疲れてるだろう?中に入ってくれ。今年もよろしくな」