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    付き合っている&吸血鬼に転化した二人の数十年後のお話

    これからも「ハッハッハッー!無様だなぁロナルドォ!」
    「うるせえ!」
     半田桃は、目の前の光景を見ながら大声を上げて笑っていた。楽しくて仕方が無いという表情を浮かべ、手に構えたカメラで何枚も写真を撮っている。そんな半田の被写体になっているのは、五、六歳位の少年だ。悔しそうに叫び、半田を睨みつけている。壮年の男性が少年を嘲り笑いながら撮影しているという警察沙汰になりそうな図だが、二人を知る人物から見ればいつもの事だと呆れられるだろう。それに赤い瞳と尖った耳を持つ二人は、見た目よりも大分長い年月を生きている立派な大人だった。吸血鬼としてはまだまだ若者の部類ではあるが。

     
    『じゃあ俺も吸血鬼になるわ。今すぐにって訳にはいかないけど』
     これは、紆余曲折あって恋人になった時、既にダンピールから吸血鬼に転化していた半田に対してロナルドが言い放った言葉だ。
     最初はあまりの軽さに言っている意味を理解出来ず、何度も頭の中で言葉を反芻した後、ようやく理解した時に半田が感じたのは怒りだった。人間から吸血鬼に転化する事への難しさ、種族が変わる事で起こる生活の変化、寿命の違い、それらをロナルドがあまりにも軽く考えていると思ったのだ。しかし話を進めていく度に、ロナルドがそれらも考えた上で吸血鬼になろうとしていると分かった時、半田は喜ぶのと同時に不安になった。恋人と過ごす時間が長くなるのはとても嬉しい事だ。だが、そんな自分の幸せの為にロナルドは自分の未来を犠牲にしたのでは無いだろうか。どうしてもそんな考えが拭いきれなかったのだ。
     そんな半田の考えを見抜いたのか、ロナルドはそれまで見た事が無い程の怒りをこめて半田を睨みつけた。
    『いいか、俺が、お前とずっと一緒に居たいから、吸血鬼になるって決めたんだからな。そこを間違えんじゃねえぞ』
     その言葉を聞いて、半田は自分の考えを恥じ、頭を下げた。そしてそんな恋人を大事にしようと心に決めたのだ。

     
     だからこそ、吸血鬼に転化したばかりのロナルドから『変身の練習をしていたら失敗した。助けて欲しい』と連絡があった今日はそれまでの予定を全て後回しにして急いでロナルドのもとに駆けつけたのだ。そこからの行為は大事な恋人に対する扱いとしては酷いものかもしれないが、半田にとっては普通の愛情表現である。ちなみにカメラは友人のカメ谷から薦められた物を使用しているので、ロナルドの姿もしっかりと写っている。
     「くっそ、何でこんなにもバカにされなきゃいけねえんだよぉ……」
     暫く高い声で喚いていたロナルドだったが、次第にその声が弱々しくなり、赤い瞳に涙の膜が張ってくる。どうやら不安定な変身のせいで精神も幼くなっているらしい。その様子を見た半田はそこでようやくからかうのをやめ、カメラをしまう。半田だってこの状態のロナルドを放っておこうとは考えてもいない。ぐずつくロナルドの前に膝をついた半田は目を閉じ意識を集中させる。なりたい姿を強く思い描き、目を開くと今にも涙の粒を溢しそうなロナルドの顔がすぐ眼の前にあった。手を伸ばし目元を拭ってやると、ロナルドは半田を見て疑問の声を上げた。
    「はんだ?何で、お前までちっさくなってるの?」
     今のロナルドよりも少しだけ年長の姿になった半田は、目元を拭っていた小さな手で同じ位小さなロナルドの手を優しく握りこんだ。
    「この方がお前を元の姿に戻しやすいと思ったからだ。ほら、ちゃんと手伝ってやるから、もう泣くな」
    「……うん」
     泣かせた張本人の励ましにロナルドは素直に頷き、潤んだ瞳で半田をじっと見つめた。
    「よし、まずは能力を安定させる事に集中しろ。今お前の姿を変えているのは、紛れもなくお前自身の力だ。扱いきれない筈はない」
    「でも、ドラ公とかへんなのとかはいつも扱いきれてないけど」
     ロナルドの不安気な言葉を聞いて、知り合いの吸血鬼達の様々な姿が頭をよぎったが、半田はそれらを無視する為に首を軽く振った。
    「あいつらは特殊な例だ。いいから深呼吸して、心を落ち着かせろ」
    「わ、わかった」
     ぐずつくロナルドの手を握り、きっぱりと断言しながら半田は言葉を重ねる。そんな半田に頷き、ロナルドは大きく息を吸って吐く事を繰り返した。暫くして、赤い瞳のゆらぎが収まった後で、半田はゆっくりと言葉を紡ぐ。
    「俺たちは今、子供だ。見た目だけだがな。だからここから大人になる想像をするんだ」
     変身に必要なのはなりたいという強い欲望となりたい物の明確な姿だ。だから空想上の生き物になるのは至難の業だし、逆に良く観察している姿、もしくは今までに一度は経験した事のある姿には変身しやすい。徐々に体を成長させるという過程を踏む事がロナルドにとっては想像しやすいだろうと半田は思ったのだ。
    「大人に、なる」
    「ああ。昔を思い出しながら想像するといい」
     そう言いながら半田は目を閉じる。
    「俺は――この頃、早く大きくなりたかった。お父さん位大きくなって、お母さんを守れる様になりたかった」
     幼い頃の日常の思い出。大好きな母親は顔を見上げながら話しかける小さな自分に、いつも屈んで目線を合わせてくれていた。父親はせがむ自分の身体を軽々と持ち上げて、何処へでも連れて行ってくれた。それに嬉しさや憧れだけでなく、恥ずかしさや悔しさを覚える様になったのはいつからだっただろうか。半田の言葉を聞いてロナルドの声が少し明るさを増す。
    「お、俺も!早く大きくなりたかった。妹や俺を守ってくれる、にいちゃんみたいなハンターに早くなりたかった」
     思い出を含んだ言葉は明確な意志となって二人の姿を変えていく。小さな手は柔らかさを残したまま大きくなり、少年特有の少し荒れの目立つ掌へと変わっていった。半田は目を開き、下に向けていた顔を少しだけ上げてロナルドの顔を見る。今二人の外見は人間でいう中学生頃だろうか。初めて出会った時よりも幼さを感じさせるその顔に半田は少しだけ興味を抱いたが、今すべき事を思い出してまたすぐに視線を落とした。
    「――俺達は今、小学校を卒業して中学生になった。このまま続けるぞ」
    「う、うん」
    「この頃から俺は将来吸対に入りたいと、はっきり思う様になったな。お母さんだけじゃ無く、困っている人や吸血鬼も助けられる、格好良い大人の姿だと憧れたんだ」
     そう言いながら半田は昔、夜の河川敷で起こった事件の事を思い出す。容姿に精神が引っ張られているからか、恥ずかしくて今までロナルドに話した事の無い思い出がスルリと口から出てきた。だがロナルドの方も自分の事で手一杯な為、半田の話を特に深く追求する事も無く、自身の事を話し始めた。
    「へぇ……凄いな半田は。俺、中学生の時だって、とにかく兄貴みたいになりたい!しか思って無かったから。図体は大きくなったのに全然兄貴に近付けてる気がしなくて焦ってた」
     そう話すロナルドの指に力がこもる。
    「いつまでも子供扱いする兄貴に勝手に苛ついて、自分だってもう守られてるだけじゃないんだって証明したくて、それで一人で突っ走って……それで」
    「焦るな、馬鹿が」
     恐らく無意識なのだろう、半田を追い抜いて先に成長しようとするロナルドの手を、強く握りしめる。皮膚が更に固くなり、節くれが目立つ様になった青年の手は不安げに震えていた。
    「昔を思い出せとは言ったが、そこに執着し過ぎるな。過去は過去でしかない」
    「……わりい」
     申し訳なさそうに謝るロナルドは、もう既に高校生を通り越して、成人した頃の姿へと変わっていた。
    (情けない顔は昔から変わらないな)
     そう思いながら半田は再び自分の外見をロナルドと合わせ、話を続けた。成人男性が二人向かい合って手を繋ぎながら、昔話に花を咲かせている姿は他人から見れば不思議な光景に見えただろう。しかしそれを指摘する者は無く、半田とロナルドはゆっくりと、しかし確実に年月を重ねていった。
    「――そろそろいいだろう」
     お互いの見た目が人間でいう三十代になった頃、ロナルドが最初に目指していたという年齢に差し掛かった時、半田は一言断ってから繋いでいた手を離した。精神を安定させる為の方法だったが、多分今のロナルドにはもう必要無い筈だ。予想通り、ロナルドは先程までの様に子供に戻る事も無く変身を続けられている。
    「すげぇ!ちゃんとうまくいってる!あ、鏡で見られるかな」
     自分の掌を見つめ感動を露わにするロナルドは、そのまま洗面所に向かおうとする。
    「やめておけ、鏡に姿を映すのにもコツがいる。慣れない事を同時にするとまた暴走するぞ」
     また俺に手間を掛けさせる気かと脅せば、申し訳無さが勝ったのかロナルドは気まずそうに洗面所の方から戻ってきた。それでも滲み出る嬉しそうな様子に半田はずっと気になっていた事を訊ねる。
    「そもそも貴様は何がしたくて能力を使ったんだ」
     能力が暴走したから力を貸して欲しいと呼ばれた半田だが、そもそもロナルドはどんな意図があってこの姿を目指したのだろうか。半田の言葉にそれまで嬉しそうだったロナルドは表情を一転させ、気まずそうに目線を反らす。その様子は半田の加虐心を大いに誘い、ロナルドに詰め寄る。最初は渋っていたロナルドだったが、半田に迷惑をかけているという自覚もあるせいか、暫くすると顔を赤らめて小声で呟いた。
    「半田と、また同い年になりたくて」
    「は?」
     なりたい等言わなくても、今もその筈だ。言っている意味が分からず、半田が首を傾げると、吹っ切れた様にロナルドが言葉を重ねた。
    「お前、吸血鬼に転化した時からずっとこれ位の見た目だろ。友達だった時は何も思わなかったんだけど、恋人になって、段々と俺だけおじさんになってくの感じる度にやっぱりちょっと寂しくてさ。俺も吸血鬼になれたら、こうしようってずっと思ってたんだよ……これなら半田の隣に居ても恥ずかしく無いし」
     あ、別に誰かに何か言われた訳じゃ無いからな!俺が勝手に思ってるだけだから!最後に慌てた様子でそう付け加えるロナルドを半田は呆然と見ていた。恋人になって、もう数十年の時が経っているというのに。この男はずっとそんな想いを抱えながら半田の傍に居たのだ。言わなかった事への苛立ちと、気付けなかった事への後悔で乱れる心を落ち着かせながら、半田は頭を抱える。半田の心の内など何も気付いていないロナルドはそんな様子を見て首を傾げるが、不意に体を硬直させ短い呼吸を繰り返す。
    「へっくし!」
     そして、盛大にくしゃみをした。
     瞬間、ロナルドの姿は一気に二十年程の月日を重ねた姿へと変化してしまう。人間でいう所の五十代位、つまり実際の年齢とさほど変わらない姿になったロナルドは、鼻をすすり、その自分の手を見て何が起こったか理解したらしい。
    「あー、やっぱりまだ慣れねえなぁ」
    「……」
     もっと練習しねえと。そうぼやくロナルドを前に半田は目を閉じ意識を集中させる。目指すのは今までに自分がなった事の無い姿だ。
     目を開くと、目を丸くしたロナルドが半田を見ながら震える声で呟いた。
    「おっさんだ……」
    「貴様もだろうが」
    「おっさんの半田だ!うわー、年取るとこんな感じのおっさんになるんだなぁ。あ、白髪発見」
     嬉々としておっさんを連呼するロナルドに怒鳴りかけるが、続いた言葉につい黙ってしまう。
    「やっぱりおっさんになっても格好良いなぁ半田は」
    「……」
    「あ、写真撮ってもいい?さっきのカメラ貸して……あー!」
     ロナルドの要望を無視して、半田はすぐに変身を解いた。そして名残惜しそうなロナルドに向かって話しかける。
    「おい、馬鹿ルド。これだけは言っておくぞ」
     一度言葉を区切ってから、半田ははっきりと言い放った。
    「お前が人間だろうと吸血鬼であろうと、子供になっても老人になっても、俺にとってはどうでもいい。貴様である事に変わりは無いからな」
     半田の精一杯の本心は少し言葉足らずではあったが、目の前の恋人にはきちんと伝わったらしい。何度か目を瞬かせたロナルドは、頬を赤らめながら照れ臭そうに頭をかき、呟く。
    「えっと……半田」
    「なんだ」
    「これからも、よろしくな」
    「今更か」

     そう返す半田の頬も赤くなっていた事に気付いたロナルドは目尻の皺を更に深くして、嬉しそうに笑った。

     
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    r0und94

    INFO【アンソロ寄稿のお知らせ(サンプル付)】
    2022/12/11 半ロナオンリーにて半ロナ学生アンソロジー「放課後の運命論」に参加させていただきました!
    ◯は夏を担当させていただいております〜。高1の頃のまだ距離感が掴めきれてない半ロナだよ! 全年齢で初々しい感じの二人だよ!!
    よろしくお願いいたします〜
    おれたちの夏はこれからだ!!(冒頭サンプル)「お前らはもう高校生になったんだから分かってるだろうが、休み中は羽目を外しすぎるなよー。ああそれと、期末で補習になった奴は特別課題を出すから職員室に各自取りに行くように」
     今日はここまで、と担任が話を切り上げたのを合図に教室から一斉に同級生たちが引き上げていく。明日からの予定について騒ぎ立てる声は、一夏を謳歌する蝉時雨にどこか似ていた。
    (どいつもこいつも、何でこんなに夏が好きなんだ?)
     級友たちがはしゃぎ回るのを、半田は窓際の席に座ったまま他人事の様に眺めていた。
     昔から夏は得意になれない。体質のせいで日に焼けると肌が火傷したみたいに痛むし、夏場の剣道の稽古は道着のせいで軽い地獄だ。それに、夜が短くなるせいで母と過ごす時間が少なくなってしまう。嫌いとまでは言わないが、好きになれる要素が少ないからどうしても気が重たくなる季節だ。
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