半ロナワンライ「水族館」「水族館に泊まれるイベントがあるらしいぞ。ナイトアクアリウムというらしい」
何気なく口にした言葉へのロナルドの反応は、「えっ!?なにそれ!?行きたい!行こうぜ!半田!」だった。
小さな水槽が並ぶ前をロナルドはキョロキョロと見回しながら歩いていく。その小脇には寝袋が抱えられている。
ロナルドが足を止めたのは、ひときわ大きな水槽の前だった。
「俺、ここがいい!」
「さっき貴様が美味そうに食べていたタカアシガニの前でなくていいのか?」
体長1メートル以上もある大きな脚の長いカニが詰め込まれた水槽を指さすと、ロナルドはギョッとした表情を浮かべて気まずそうに水槽から目を逸らした。
「お、お前だって食ってただろ!」
必死に言い返すロナルドを尻目に俺は目の前の大きな水槽に視線を向ける。高さは俺やロナルドの身長の3倍はあるだろう。たくさんの魚が泳いでいる中で俺の目が吸い寄せられたのは、アクリル板に写ったロナルドの姿だった。
大水槽の前に寝袋を敷いて横になると、見上げる水槽は昼間とは違い暗く静まっているように思えた。水面が輝くような昼間の明るさには日光が役立っていたようだ。夜の海中は、きっとこんな感じなのだろう。
「暗くてなんも見えねえな…」
夜の水槽の中も、それを見ようと目を凝らしているロナルドも、吸血鬼ほどではないが夜目が効くダンピールの俺にははっきりと見えるが、人間の瞳には光量が十分ではないらしい。
「……大きなエイがゆっくり泳いでいる。群れになった小さな魚は昼間に見たイワシだろう。昼はキラキラしていたが、今は夜の海に溶け合っているように見える。貴様の頭の上にデカいサメがいるぞ。ああ、通り過ぎて行ってしまった」
「すげえ…そんなに見えるんだな」
「ダンピールだからな」
俺には日暮れ頃のように見えるこの海の中も、ロナルドには大きな暗闇に見えているのだろうか。
吸血鬼のお母さんとも人間のロナルドとも、同じものを見ることができないのをさびしく思うこともある。
けれど、暗い中でもすぐ隣にいるロナルドの眠たそうな青い瞳の色までもはっきり己の目に映るのはうれしかった。
「もう寝ろ。俺も寝る」
「ん。おやすみ、半田」
「ああ、おやすみ。ロナルド」
ロナルドの重たそうなまぶたがゆっくりと伏せられる。
暗い夜の水族館で、俺はじっとその寝顔を見つめ続けていた。