吸血鬼すぐ死ぬパロ オリケロ×「キッドナップ・エレジー」前回のあらすじ。マテテ、市内フットサル大会へ↓帰りに今川焼きを買う↓川に流される↓下流↓宇宙鉄道
↓ゲロン星↓ペコポン行き特急↓六つ先の駅↓ケロン星↓ガチ誘拐(今ココ)
と言うわけで、明らかに何かあったと確信したマテテが、へたり込みながらもテンパって防犯ブザー(ちゃんとしたやつ)のヒモを引こうとする。
「──おっと、馬鹿な真似は止めろ」
「──ッ!!」
ヒモを引こうとした直前で、防犯ブザーが蹴飛ばされしまう。次いで、マテテに銃口が向けられた。
「間抜け面め……『イカズチのケロン人』のガキだな?」
一筋の傷が入った左手のサイコガン、首もとまで覆われたマントから覗く、赤いボディスーツ、そして……その上に乗っかった、蛙を一飲みするような迫力の、蛇──コブラの顔!
ケロン人なら知らない者はいるまい、彼らの天敵、ヴァイパー(こいつは脱走犯のヴァイパー)である!
「奴に屈辱を味あわされて数十年……捕らえられた俺様は、刑務所で一番凶悪な囚人としのぎを削り合い、更なる力を手に入れた……もう同じ轍は踏まない、今度は必ずや勝つ!!」
怒りで震えるヴァイパー脱走犯。どうやらマテテを誰かの子供と勘違いしているようだが、今のマテテにそんなことを考える余裕は無かった。というかぶっちゃけとんだはた迷惑でしかなかった。
「まずはお前を餌に奴をおびき出してやる、今こそヴァイパーとしての誇りを取り──」
取り戻す、と言おうとした時、路地裏の隙間から数人のケロン人が通りすぎるのが見えた。
「マテテー!! どこだー!!」
「おのれ誘拐犯! 許さない!」
「児童失踪の件と同一犯か?」
「犯人は敵性宇宙人だそうだ!」
「探知のできる奴にこの辺も調べさせろ!」
「ケロン軍各小隊・警察本部、総員合同調査だ!」
「夜明けまでケリをつけるぞ!!!」
……それは、あっという間の出来事だった。
若いケロン人が見えたと思ったら、次に武器を持った者たち、軍服、軍帽を身につけた者たちと、続々と集まっていき、最終的にかなりの人数がこの場に集ったのだった。
「…………あれ……?」
この予想もしなかった展開に、ヴァイパーは顔を青ざめさせた。何せマテテを拐って2分くらいでとんでもない包囲網が敷かれたのだから。
「ふ、ふざけるな! このガキは総理大臣か何かか!!」
詳細はよくわからないが、前回の轍どころではないのは明らかだろう。捕まったら、やられなければいけない気がするでは済まない。確実に死ぬかもしれない。命の危機にさらされたヴァイパーは、思考を巡らせて打開策を練り始める。
そもそも、ヴァイパーの狙いは因縁の相手だ。対してあのケロン人たちの目的はマテテ。彼女を置いて逃げれば、彼女に注意を向けているうちにここから離れられるだろう。
だが! と自らのプライドがそれを否決する。一度ならず二度までもケロン人に屈することなどあってはならない、何のためにここまでやって来たのかわかりやしない。
「ふ、フン! そうだ、今さら貴様らに怯む俺様ではない! 精々探し回って消耗するがいい……」
呟いて移動しようと振り替えると、またマテテが防犯ブザーを鳴らそうと、ヒモに手をかけているのが目に飛び込んだ。
「──何してんだお前ェーーーーー!!(焦) やっ奴らが集まってきたらどうする!! 殺す気かーーーー!!」
さっきと言ってることが逆になってる気がするが、なんとか救援を阻止する。怒鳴られた彼女は、びくびくと震えながら、持ってたおみやげを差し出した。
「いや、ういろうでご機嫌取れると思うなァーーーーー!!」
「──! 誰だ!?」
声を張り上げまくっていると、表の方から声が聞こえてきた。それに気付き、マテテを抱えながら一緒に物陰に身を隠した。
「クソッ……この俺様がケロン人相手にコソコソするなど……!」
「……いっぱいひときたしな」
「何だあの人数は! 奴らにとってお前は何なんだたかがガキが!!」
「こどもはたからだって、なんかのめいげんできいたことある」
「やかましいそんなことは聞いとらんわーーー!!」
いつ見つかるかヒヤヒヤしているヴァイパーに対して、マテテはなんか余裕が出始めた。そのせいで余計にヴァイパーを怒らせたが、マテテはあんまり怖がらなくなった。
「……待てよ」
ケロン人たちのあの慌てようを見て、ヴァイパーはあることを思い付く。
「それだけ大事なガキなら、人質に使えるな?」
「あっ(察し)」
冷や汗だらけの顔は、悪人らしい怪しげな表情へと変わる。サイコガンをマテテに向けて、ヴァイパーは不吉に笑う。
「ケロン人共が何人いようと、人質がいれば何もできまい。犠牲が何人か出れば奴も出てこざるを得まい……そうすれば──」
「──オラァーーーーー!!!!どこだ誘拐犯がァーーーーー!!!!!」
突然背後から鳴り響いた轟音に、二人同時に思いっきり肩を震わせた。本能に従い、揃って奥の方の十字路の影へ逃げ込んだ。こっそり覗いてみると、さっきまで隠れていた場所の近くにあった換気扇やダクトが、見るも無惨な姿に変わっていた。さっきの大声量で破壊されたとでもいうのか、と考えていると、声の主がその近くに現れた。サングラスをかけた黄色いケロン人。そしてもう一人、青くて手足に何かを巻いているケロン人である。
「何かいたかヴォイイ!?」
「うんにゃ、声がしたと思ったが……空耳か……?」
身を隠す方が早かったらしく、彼らには見つからずに済んだが、ヴァイパーは破裂しそうな程心臓をバクバク鳴らしていた。
「Shit! 何でマテテが拐われたんだ……!」
「軍に対する人質とかじゃ?」
「そんなDespicable(卑劣)な真似する奴ァ、Goldenball(キン○マ)粉砕してやるぜ……!」
ケロン人二人が去って、ふとマテテを見ると、何やら暖かい眼差しを向けているのがわかった。どうやら憐れんでいる様子だ。
「そんッ──……(大声)
そんな目で見るなァーーーー!!!(小声)」
ムキになって声を小さく張り上げた。もはやヴァイパーに対してマテテは恐怖しなくなったどころか、ほぼ警戒を解いていた。
「ぅおのれガキ俺様を誰だと思っている!!(小声)」
「じじょうはしらんが、おまえにもかぞくがいるだろう」
「何の立場で言ってんだお前! お前俺の何なの!?(小声)」
全く動じなくなった人質に苛立ちが募る。ならばとヴァイパーはマテテを抱えて別の出口へ向かう。
「舐めるな! 問題なのは数だけだ……! 騒ぎに紛れて一人ずつ……!」
「これはダメなやつだな」
「うるさいバーカ黙れ! やるっつったらやる──」
なんか意地になってきたヴァイパー。路地裏から出ようとして、次はリボンで髪のようなものを括った青いケロン人と、袴を着た紫のケロン人と出くわした。
「いたーーーー!! 誘拐犯だーーーー!!」
「皆さん来てー!!怪しい人がマテテちゃんをーー!!!」
「う……うおおおーーー!!!」
それぞれ持っていた法螺貝とシンバルを鳴り響かせ、他のケロン人たちを呼び始めた。見たところ非武装(?)だったので強行突破しても良さそうだが、そんな考えが浮かばなかったヴァイパーは、Uターンして全力疾走、再び路地裏の闇の中へ消えた。
* * * * *
見つかりはしたものの、追っ手を撒くことができたヴァイパー。だがもう余裕が無くなってきた。
「クソ……ッ、油断した! このままでは袋のネズミだ……!」
さっきから足跡が絶えず聞こえてくる。捜索範囲がかなり搾られてきたのだろう、見つかるのも時間の問題と思われた。
「……かくなる上は……」
歯噛みしながら呟くヴァイパー。まだ何か策があるのか、とマテテはちょっと期待してると、ヴァイパーは口を開いた。
「……適当な所にガキを置いて逃げる……」
……秤に乗ったプライドと身の安全が、身の安全の方へガシャンと音を立てて傾いた。策は保身の方向へシフトしたようである。仕方ない、あの人数を相手によくやった、と言わんばかりにマテテは無言でヴァイパーの頭を撫でた。
「慰めるなァーーーーーー!!!」
「だれもわるくないさ、ただ……『ま』がわるかったのだ、おまえは」
「この場に置いては全てお前が悪いわァーーーーー!!!」
今日一番ブチ切れて叫んで、ヴァイパーはマテテを置いてズカズカと歩きだした。
「クソッ、こんなガキ拐うんじゃなかった!」
「きをつけてかえれよ、ぶっそうだからな」
「まんまと誘拐されたヤツに言われたくねェェェェェ!!!」
怒鳴りながらばっと振り返って──ヴァイパーは我に帰った。こちらを向くマテテの後ろから──かなり大きめの鳥が近づいていたからだ。
「!? 宇宙生物!?」
「?」
マテテがそれに気づく前に、大きめの鳥はくちばしでマテテをくわえると、素早くそこから飛び去っていった。まさかあの大きさで、ここまで近づかれて気付きも出来なかったとは。しかも子供とはいえ、ケロン人一人を軽々と運んでいた。あの生物は一体……。
「! ……そう言えば奴ら妙なことを……」
はっとなって思い出す。児童失踪の件、と誰かが言っていた気がする。あの生物も、自分は特に襲ったりはせず、マテテを拐っていた、ということは、あの大きい鳥がその誘拐犯と見て間違いないだろう。
だが、ヴァイパーは自分には関係ないとわかると、フッと笑う。
「なんだ、丁度いい厄介払いだ。後はこのままほっとけば……」
────ほっとけば、ガキを返すこともできずに俺様は袋のネズミ。下手すればガキ拐いの罪まで着せられて死ぬのでは?────
と、何故か最悪の状況になるビジョンが、頭を過った。
いや別に、そうなる保証はないだろう。もしかすると、他の誰かがあの鳥を見つけることが出来て、そっちへ注意が向いてる隙に逃げることが出来るかもしれない、しれないが……ケロン人たちが犯人を把握しきれてないのを考えるに、気づく可能性はかなり低い上、あの鳥を確認出来たのは、恐らく自分だけ、つまり、
────今俺様は、とんでもなくピンチなんじゃ……?────
当たり前だが、その場からはもうすでに鳥も、マテテも、姿は見えなくなってしまっていた。
* * * * *
──市内の工業地帯、廃工場。
その一室に、先ほど連れてこられたマテテと、行方不明となっている子供たちが、鎖で縛られて宙吊りになっていた。マテテ以外に意識は無く、時々うめき声をあげていた。そして彼らの下を、ここへ連れてきた張本人がうろうろと歩いていた。
この生き物は、『宇宙モズ』
地球のモズとは体格も生態もまるで別物の鳥類。他の生物を捕らえ、くちばしの奥にびっしり生えた大量の針で、ジワジワと体液を吸う宇宙生物。隠密性に優れ、時に小型の宇宙人まで拐って餌にする恐ろしい存在である。
「っ……」
今回ばかりはまじめにピンチだった。あのヴァイパーの誘拐がグダグダになったばっかりに、油断してしまっていた。今の自分の力では鎖がほどけない。どうすれば……。だんだん怖くなってきて、彼女の目に涙が溜まっていく。
「う……」
隣から、既に捕らえられていた子供のうめき声が聞こえた。マテテより幼い、小さい子ばかりが吊るされている。失踪事件が起きてからどれほど経っただろうか、この子たちは、ずっとこうだったのだ。マテテよりも怖い思いをしてきたハズだ。
「……!」
マテテは意を決した。私が何とかしなければ、と。幸い、さっき連れ去られた場所からそう離れていない。この場所を知らせることができれば、マテテを探している誰かが気づくかもしれない。でもどうやって? いや──考えている暇は無い。何でもいい、何か行動をするべきだ。無我夢中でもがき始めるマテテ、やがてじゃらじゃらと鎖が音を立て、彼女は前後に揺れる。
不自然な音に気付き、宇宙モズがマテテの方を見た。だがマテテはなりふり構わず揺れ続けた。そして一番大きく揺れた時──防犯ブザーのヒモが何かに引っ掛かり、反対方向へ揺れ、思いっきり引っ張った。瞬間、ブザーの甲高い音が部屋中に鳴り響く。
『!!』
一瞬驚いた宇宙モズだったが、すぐにマテテに飛びかかり、鎖を食い違って床に落とすと、足で押さえつけて、くちばしの奥から一際大きいトゲを伸ばし、マテテに迫った。その時──
「見つけたぞ、化け鳥」
高い位置にある窓から、あのヴァイパーが現れた。死角からの敵に、宇宙モズが慌ててヴァイパーの方を向き、くちばしのトゲをヴァイパーに飛ばした。ヴァイパーは窓から飛び降りてトゲをスレスレでかわし、落ちる勢いのまま、サイコガン本体を宇宙モズの頭に叩きつけた。宇宙モズはけたたましい鳴き声を上げながら、床に倒れ付した。マテテも特にケガを負うことなく、宇宙モズは退治された。されたのだが、ヴァイパーの様子がおかしかった。
「クソッ……クソッ……、この俺様が……『シップウのヴァイパー』が……、保身の為にケロン人を助けるなど……クソッ!!」
シップウ? このヴァイパーはそう呼ばれているらしい、そう言えば、探していた相手も『イカズチ』という名だったような、とマテテが考えていると、ヴァイパーはサイコガンを突きつけて脅してくる。
「いいか!? あのケロン人共の目をくらますためだ! お前を助けた訳じゃない!!」
「あ、う、うん」
「俺が退治したなどと話したら蜂の巣にするぞガキ!!」
「うん、いわないいわない」
そうこうしているうちに、他のケロン人たちの足音が近づいてくるのがわかった。騒ぎを聞き付けてやってきたらしい。
「不審な男がこっちに来たって!?」
「きっと犯人よ! マテテは無事なの!?」
「ユセセ──!」
「グッ……! もう嗅ぎ付けてきたか……!」
マテテはここにいて、危うく被せられそうになった子供の誘拐事件の犯人もとっちめた。ここに注意が向けば、何とか逃げ切れるハズだ。
「捕まってなるか……」
「ねえ、まって」
「何だガキ! 邪魔だ!」
マントの裾を掴んでから、マテテは風呂敷を開けて中身をヴァイパーに見せた。ヴァイパーは訝しげに眉を潜めたが、その中身を一つだけ受け取ってから、暗闇へと紛れて消えていった。
* * * * *
程なくしてマテテの元に、アムムとユセセを初めとした捜索隊が駆けつけてきた。他の子供たちも無事救助され、ブチのめされて気絶していた宇宙モズも捕獲された。こうして誘拐事件は解決したが、誰が宇宙モズを退治したのかは謎のままで、真相はマテテの胸のうちのみ秘められた。
その後マテテは色んな人たちに抱き締められたり、ちょっぴり怒られたりしたが、ようやく愛しの宿舎へ帰ることができた。
「あれ、今川焼き二つだけ? 残念、ユセやんの分はないねぇ」
「違うし! マテテは私に買ってきたのよ!」
二人はケンカになりかけたが、もう一つあったおみやげのういろうを分け合って、なんとかおさめることができたのだった。
* * * * *
「…………。冷めてるな」
何でもないような声で文句を垂れ、フッと笑いながら、シップウのヴァイパーは、今川焼きを頬張っていた。