吸血鬼すぐ死ぬパロ オリケロ×「超新人研修!!教えるのは俺だ」ケロン軍第52区画研究所──
『Gaaaaaaaa──!!!』
「バイオソルジャーの暴走だーッ!!」
「大変だ! まだ研修プログラムの入力が完了していない──!」
「まっさらの新人が放たれてしまった──!!!」
培養液水槽を破り出てきた『バイオソルジャー』は、警報の鳴る研究所を闊歩し始めるのだった──
* * * * *
「──っていう奴なんだけども」
「ココに連れて来んな!!!」
訓練所で教官キャノノに呼び出されるなり、思いっきりシャウトするユセセ。キャノノのうしろには、先日研究所から抜け出した、というより、出てきてしまったバイオソルジャーがいた。
見た目は獣の耳が頭に、耳元にはヘッドホンのような機械。両腕に蟹のハサミ、尻尾が鯨かイルカの形をしていて、目を包帯で覆った姿をしていた。
「口調荒くなっちゃった! なんでそんなの連れてきたんですか!!」
「いや、お前らんとこ連れてったら面白いかなーって」
「面白いか否かで物事判断しないでくださいよホントに!」
「冗談だ」とキャノノは改まって説明を始める。
「いいかユセセ。このバイオソルジャー『キママ』は軍人用研修プログラム、つまり新人研修が終わってない、赤ん坊同然の存在だ」
「赤ん坊同然!?」
「このキママの教育をユセセに任せたい!」
「何で!? 嫌です!」
ユセセは即効断った。なんせヤバそうなフレーズが乗っかった軍人(?)の世話をしろというのだから。バイオなんて普通つくわけねーだろ、って感じである。
「古来より伝わるだろ。新入り兵はデキる先輩について強くなんだよ」
「いや、そんな、私、そう言われるほどの実力なんて」
デキる先輩という言葉にぐらつく。自分のことを指してるかはわからないし、昔から言うのか疑問ではあるが、それでもちょっと嬉しかった。
「それだよ! その謙虚な姿勢こそ指導役!! ユセセ程できる奴ぁそうそういねぇ! まさに適材! 完璧ガール!」
キャノノが捲し立てて褒めた。間髪入れずにまだ続く。
「イヨッ、にくいねビューティー。世界一!! ユセセ先生!! 風林火山!!」
褒めがなんだか雑になっていく。そして、
「はい、これおみやげのまるごと宇宙バナナ」
* * * * *
「えー、というわけで」
「バーカ!!!」
教室へユセセに呼び出されるなり、思いっきりシャウトするアムム。ユセセのうしろには、バイオソルジャー、キママがいた。どうやら教育を引き受け、同期たちに協力を扇いだようである。
「まんまと乗せられやがって味卵! めんどくさい新人教育押し付けられたに決まってんだろうが!」
「う、うっさい! しょうがなかったのよ!」
アムムの文句を聞いて、OKしたときのキャノノのいい笑顔を思い出した。大方そのつもりで声をかけてきたのはわかってたのだが、雑な褒め言葉にも関わらずついつい乗っかってしまったのだ。
「ユセセ、その……面倒事を押し付けた姉の責任は俺の責任でもある。俺は協力する」
「キャタタ! ありがとう!」
「ニューフェイスが来たなら、可愛がるのがセンパイのワークってやつだろ! HEY」
「……わたしとかぶってる……」
男連中はユセセに協力的のようだが、マテテが何か怪しかった。一体どうしたというのか。とにかく頑張ろう、と意気込むユセセと男どもを見てアムムは呟いた。
「うーん、前途多難な雰囲気」
* * * * *
そんなわけで、訓練兵たち五人による新人教育が始まった。
「……しかし、本当にまっさらなんだな」
「つか何なんだよバイオソルジャーって」
「キャノノ教官が言うには、まだ誰の名前も覚えてないって。じゃあ自己紹介から始めましょう」
新人教育その1、自己紹介。
「わたしはユセセ、こっちは右から、キャタタ、ヴォイイ」
「よろしく」
「俺たちのことはセンパイと呼ぶといい!」
それぞれ声をかけると、キママから電子音が鳴り、彼女の音声が響く。
『<インストールしました_ ユセセ/センパイ_ キャタタ/センパイ_ ヴォイイ/センパイ_>』
「ウワー覚えた! なんか感激!」
次にアムムと、彼女に隠れてブツブツ言ってるマテテの紹介。
「そしてこちら、暴君不良さんとマテテセンパイ」
『<インストールしました_ 暴君不良/サン_ マテテ/センパイ>』
「ぶっ飛ばすぞ半人前!」
自分だけいい加減な呼び方をさせてキレるアムム。すぐさまキママの前へ出て改めさせようとする。
「私は大天才アムム、この小娘は三下ショボボ」
「黙りなさいヤンキー。私はユセセ、こいつは喋るオケラ」
「誰がオケラだ、突撃脳ミソ、イノシシ似のイノシシ」
言い合いながら教える二人の間へ、キャタタが割って入る。
「よせ二人とも、ちゃんとキママに名前を覚えてもらわないと。ユセセ、アムムだけ差別するのは良くない。アムムも、イノシシなんてヒドイじゃないか」
「じゃあ間を取ってイノシシ娘」
「何の間よ!」
アムムの声に反応してキママから電子音が鳴り、
『<更新しました_ イノシシ娘/サン_>』
ユセセの呼び方が変えられてしまった。
「ギャー!」
「ワーイ採用!」
「このオケラ!」
ユセセが怒鳴ると、またキママから電子音が鳴り、
『<更新しました_ オケラ/サン_>』
「誰がオケラだァ!」
アムムの呼び方まで変えられてしまう。アムムは再び、キママに名前を教えようと前へ出る。が、
「ア・ム・ム・様」
『<オ・ケ・ラ_>』
「ンガー!!」
呼び方が変わらず、アムムが思わず吠える。
「新しい名前で上書きされてしまったようだ」
「ポケモンの技みたいなシステムね……」
結果として、アムムはオケラ、ユセセはイノシシ娘、二人以外はセンパイ付けで名前を覚えてもらった。これ以降は何度覚えさせようとして無駄らしい。
「仕方ない、このまま新人教育を始めましょう……」
『<了解です_ イノシシ娘_>』
「ねぇ待って! これ私一会話ごとに罵られるの!?」
新人教育その2、心得教授
とりあえず各々の思う「軍人」というものを説明することになった。
まずユセセ。
「キママさん。軍人たるもの、仲間同士声を掛け合うといいわよ。連携を武器にしなさい」
『<インストールしました_ 仲間同士声を掛け合う_>』
続いてヴォイイ。
「軍人たるもの、バックドロップはヘソでスロウするといいぜ!」
『<ラーニングしました_ バックドロップはヘソでスロウ_>』
「プリーズウェイト!!」
いきなりろくでもないことを、実演して教えようとするヴォイイに、ユセセがストップをかける。ちなみに技をかけられていたのは置くタイプのサンドバッグなのでご安心ください。
「なんでプロレス技ラーニングさせてるのよ!!」
「ぐ、軍人は体こそが武器そのものと捉えろって前の訓練所で……」
「今の流れで教えたら十中八九その技喰らうの味方だから!」
そんなわけで仕切りなおし。
「え、と……仲間がミスをしてもあんまり強く責めないでね」
『<インストールしました_ 強く責めない_>』
ユセセの説明に割り込むように、マテテが置くタイプサンドバッグを掴みながらキママに話しかけた。
「アイアンクローはあいてのがんめんをにぎりつぶすつもりでつかむべし」
『<ラーニングしました_ 加えてデータに記載_>』
「ちょっと待ってマテテーーー!?」
「メモとる辺り優秀なヤツだな」
「今は困る!」
このままではマズイ。今後キママが配属した先で、無差別にプロレス技をキメてしまうかもしれない。もっとまともな教育をして、アウトレイジな情報を上書きしないといけない。
次はキャタタの説明が始まった。
「キママ、軍人たるもの、同じ軍人とは仲良くしなくては。そうだな……例えるなら、俺たちは互いが成長という壁を共に乗り越える存在だ」
なかなかいい指導がなされているのではないだろうか。ユセセも思わず頷く。
「他にも、訓練結果の的確なポイントを褒めるとか、えー……缶コーヒーを奢ったりとか。あと……あの……ババロア作ってやったりとか」
「なんで母性を求めてるんだ」
最初は良かったのに、後からいい例えが見つからず、ぐずぐずになってしまった。
次はとうとうアムム。
「常に私を畏怖と尊敬の目で見るべし!」
「何教えてるのよオケラ!」
するとキママから、モーターの動作不良のようなくぐもった音が出始めた。
「ホラ見なさい! 不可能なこと教えるから混乱しちゃったじゃない!」
「不可能ってなんだ! 単に情報過多になってんだろ!」
「キママさん! ゆっくり覚えればいいからね。要らない情報に惑わされないで」
と、ユセセが優しくなだめていると、戸を開いて教室に誰か入ってきた。青色のリボン付きポニーテールの──
「私が来た」
「お帰りください!!!」
……アムムの伯母、アタタである。どうやら懲りずに訓練所へ侵入して、今度は校舎まで来たようだ。
するとさっそくキママに興味を移した。
「見慣れない顔があるな、誰だ」
「いまわれわれはかのじょにほうふをかたりきかせていたところなのです」
「マテテ!? 嘘教えないで!?」
「やるとしてもそれもっと後から!」
しかし言うが早いか、アタタは咳払いしてキママに向き直り宣言する。
「30代後半(※ペコポン基準)のナイスガイとゴールインして子をもうけてみせる」
「何しに来たんですかあなたマジで帰ってください!!」
ユセセのツッコミに関わらず、ここぞとばかりにマテテが色々話しかける。
「このゲームのモッドでついかされるダンジョンでとうをすべてせいはすること」
「だから要らない情報やめてってマテテ!」
「ぬいぐるみにおかおをうめるとたのしい」
「マテッ……マテテ! メッ! 悪い子!」
「妹を抱く」
「ナイスガイは!!?」
新人教育その3、おさらい。
『<軍人たるもの_
仲間と声を掛け合う_
アイアンクローは相手の顔面を握りつぶすつもりで掴む_
成長という壁を共に乗り越える存在_
訓練結果の的確なポイントを褒める_
缶コーヒーを奢る_
ババロアを作る_
常にオケラを畏怖と尊敬の目で見る_
ナイスガイとゴールイン_
全ての塔を制覇_
ぬいぐるみに顔を埋めると楽しい_
妹を抱くックククククククkkkkkkkkkkkkkkk──>』
「キママさーーーーーーん!!」
電子音が絶え間なく鳴りまくり、変な挙動を始めたキママ。とうとうキャパオーバーしてしまったらしい。
ちなみにアタタはこの教室にいるのがバレてまた逃げていきました。
「まずいぞ! 私らアイツに余計な知識を吹き込みすぎてグヘェ!?」
とりあえずついでで制裁されたアムムを余所に、キママはめちゃくちゃに動き始めてしまった。
「キママさんどうなったの!?」
「だ、大丈夫だ! 恐らくちょっと混乱しただけで……!」
突然、キママがババロアを用意して顔を突っ込ませた。
『<軍人たるもの_ ババロア/を顔に埋めると楽しい_>』
「ハチャメチャに混乱してるー!!」
なんとキママは、教えられた事を出鱈目に実行しだしたのだ。なんだか止まる様子が見られない。
「キママさん落ち着い──」
『<軍人たるもの_ 仲間同士/缶コーヒーを/掛け合うべし_>』
「ギニャーッ!?」
『<壁/を畏怖と尊敬の目で見るべし_>』
「怖い怖い怖い怖い!」
『<妹/の的確なポイントを褒めるべし_ 目元がいい_>』
「知らんわ! いやなんで知ってるのよ!」
今度はヴォイイに近づいて、その巨大な手で、
「オイニューフェイス! これ以上は──」
『<ナイスガイ/の塔を/強く掴むべし_>』
「ヴエア」
男の塔にアイアンクローがかまされた、哀れなナイスガイが静かな悲鳴を上げる。
「ダッ、ダチン公ォーーーーーーー!!!」
「言い方ァ!!」
『<オケラ/をヘソでスロウすべし_>』
「オァアア!!」
「アムムー!」
もう収集つきそうにないカオスな状況になっていたとき、再び教室の戸が開かれた。
「なンだぁ、グゥワーってなってんじゃん」
「!!」
現れたのは、キママを押し付けた張本人キャノノ。
「キャノノ! 帰ったかと思ってたぞ!」
「ちげーよ、研究所に呼ばれて行ってたんだよ」
と、アムムをバックドロップしたキママが、キャノノに狙いをつけて突進した。両腕のハサミを振りかざしてキャノノに向ける。
『Gaaaaaa!!』
「いいかキママ、軍人としてまず覚えることは一つ」
キャノノは両腕のプロテクターでハサミを弾き、腕を交差させてキママのハサミを掴み、一歩踏み込んで腕を開き、逆にキママの腕を交差させ動きを封じた。そして、高らかに声を張る。
「──軍人たるもの、どんな時にも冷静であれ!!」
それを聞いた途端、不規則に鳴り響いていた電子音が収まっていった。同時に、キママから力が抜けていくのがわかった。
「キママが大人しく……」
「過酷な戦場じゃ、冷静さを欠けば即「死」だからな」
腕を組みながらフッと笑ってみせたキャノノ。まさに腐っても教官、を体現していた。
「全く……あんたがめんどくさがってなければ、俺たちはこんなことにならなくて済んだんだ」
「ワリィワリィ、お前みたいなナイスガイになら任せられると思ったんだよ」
「からかわんでくれ……大体──」
電子音が響いた瞬間、キママの手がキャタタの塔にアイアンクローした。
『<ナイスガイ/の塔を/強く強く掴むべし_>』
「ヴエア」
「キャタJr.ァァァァァァーーー!!!」
* * * * *
その後、キママは新設された培養液温泉に浸かり直し、無事研修プログラムが入力された。
『<アナライズしました_ ホウ・レン・ソウが大切_>』
訓練兵たちはというと、しばらくの間お嬢様が二人増えたのだった。
「キャタさん? 課題の進捗はいかがでして?」
「まずまずといったところですわ」
「象徴を無くすとお嬢様になるんだな」
「食らう方もみる方も地獄ね……」
終われ。