吸血鬼すぐ死ぬパロ オリケロ×「ドラちゃんいっぱいコレクション」宿舎、自分の部屋に帰ってきたユセセ。
「はー、疲れた。流石にオーバーワークね」
独り言を呟きながらドアに手を掛けて開く。
するとそこにキメ顔をしている二人のアムムが──
脳が理解する前に扉を閉めて、ユセセはよーく目を擦ってから扉を開く。
するとそこにキメ顔をしている数人のアムムが──
「ミュアアアアアアアア!!!!」
『宇宙戦隊キューアムムー!!』
「ジャークマター軍団!!!」
アイデア成功。ユセセは数人に増えたアムムを目撃してしまった。顔を青ざめさせたユセセにアムムの一人が説明する。
「少々やりたいことがあってな……メカユセやん特製"超再生型分裂飲料"を飲んだのさ」
「上手に使えば国家転覆とか出来そうなものを気軽に作ってもーーー!!」
説明しよう。
「メカユセやん」通称・アナザーユセセ。実体化するコンピューターウイルスがユセセの情報を元にして顕現した存在。ユセセに酷似しているが、高飛車で高慢、高テンションと3高揃い踏みな奴で、オリジナルのユセセとは似ても似つかない。アイテム作成の技術は神がかかっており、彼女一人で軍の科学技術を軽く凌ぐものが作れる。らしい。
「なんか異常な再生能力を持つ女の細胞をなんちゃらして……まぁ要は脳からの指示で、分裂ができる能力を付与してくれるヤバイ飲み物だ」
「で? そんなの使ってあんた何する気?」
フフン、と鼻を鳴らしてアムムはゲームの起動したテレビ画面を指差した。
「自分対自分対自分対自分対自分対自分対自分対自分の極限対戦をやってみたくて」
「やってみたくなるそれ日常生きてて!? てかそのゲーム最大8人対戦じゃないの何で9人いるのよ!」
「最下位の奴はゲームから外されて己の敗北を噛み締めるという……」
その説明を再現しようとしたのか、一人のアムムを他のアムムたちが煽り始め、一人のアムムが怒りで叫んだ。
「なんでそんなことするの!? どういう気持ちそのルール決めたのよ! 全員自分なのに!?」
「まぁまぁ、ところで。面白いことに分身にも微妙に個性があってな」
「興味無い」
「紹介しよう」
ユセセを無視してアムムたちが前口上風に名乗りだした。
「プライドスター! 高飛車アムム!」
「ひれ伏しなさい! わたくしが最強無欠のアムムでしてよ!」
「なんでお嬢様調なのよブッ飛ばすわよ」
「無限のかわいさ! カワイイアムム!」
「やっほーっ、アムムだよー☆」
「シンプルにムカつく」
「臆病厄介! ビビりアムム!」
「ふぇぇ……やるなら他の奴を先にしてよぉ」
「普通に最低」
「なんかキメラになっちゃったアムム!」
「よろしく」
「気持ち悪ーーーーい!!」
「愛嬌パワー! かわいいアムム!」
「夫~婦を越えて行け~」
「二人目じゃないかわいい名乗ってるの!」
「気だるい訓練兵! 怠惰なアムム!」
「録画した深夜アニメをいざ見るのがクソダルい」
「ねぇこれ9人分やるの!?」
「見栄はりの王者! 虚栄心アムム!」
「ま、わたくしには564万のアムちゃんファンがいますし」
「ロクな個性いないわね!」
「おふざけ精進! イタズラアムム!」
「ユセやんの歯磨き粉をねりわさびとすり替える」
「シバくぞ!!」
「大トリはこの人!
めんこいネズミ! 可愛いアムム!」
「ピッピカチュ──」
「自主規制パンチ」
「あーーーー!!」
ユセセが危ない所で暴力を発動した、するとぶっ飛ばした可愛いアムムが、二人になって起き上がってきた。
「増えたー!!」
「ワオ、おそらく殴られた時のダメージが防衛措置として分身能力になんかアレしてうまいこと増えるアレになったようだ」
「いやワヤワヤ言ってんじゃないわよ!!」
「うっせあのイカれユセやんの作ったモンの詳細とか分かるか!」
「どうするのよ! 4/10カワイイアムムじゃないの!」
「ガチャリザルトなら我ながらちょっとキレるレベル」
と──ここでアムムが、今得た特性であることを思い付いた。
(待てよ? ダメージを受ける度に倍々ゲームで増えるなら、一個師団アムムが数の力で教官とかに日頃の借りを返すのも可能なんじゃないか?)
「ユセやんさん。パンチなさってもよくってよ!」
「腹立つけどしないし思惑スケスケなのよアホ」
当然のように断られたアムムたちは、集まってゴニョゴニョ話し始めて、それから斜めに並んで歌いだした。
『♪アホッアホッアホッ
ユセやんは~
アホッアホッアホアーホーア~ホ~
アッホアッホホ
アホアッホ~
アホアホッホーアッホー
アッホホッホホ♪』(※輪唱&ケロっとマーチアレンジ)
「──ウンガアアアアア!」
ユセセは思わず、その辺にあったハエたたきでアムムを一人ずつ叩いてしまった。そんなわけで彼女は一気に18人に増える。
「しまったーッ!!」
このままではまずい。いつか読んだマンガの、炭に変えたと思ったら塵一つ一つが再生して増えたみたいな展開になる。とんでもないチート能力である。
(落ち着いてユセセ!! 爽やかになってッ!! 信じられないけど、この事態は暴力では解決できない!! 別の手段を考えるのよッ!!)
『♪アホユセやん 脳ミソ2グラム(アホアッホ♪アッホホッホ♪)
真水と塩水 区別つかない(アホアッホ♪アッホホッホ♪)
「これは味が付いた真水よ!何言ってるのよ!」(アホアッホ♪アッホホッホ♪)』(※君にジュースを買ってあげるアレンジ)
「──イヤアアアア私の中の本能のイノシシが猛進するゥー!!!」
この人数だからできるロールダンスで盛大に煽るアムム軍団。ユセセが突進するのも時間の問題だろう。仕上げとばかりにアムム軍団がユセセに群がり始めた。
『はいドンドンドラドラドンドンドラドラ』
「ウォアアアアアア被害はゼロだけど不愉快ーッ!」
結果、ユセセは怒りの連続18ビートを叩き込んで、アムムは36人になった。
「ハァーハッハッハッハーッ! 私には分身の才が溢れていたらしいなァーッ! 伊達に死にかけて生存本能極めてないわーッ!」
「才能じゃなくてほとんどあんたの自業自得による憂き目でしょ……っていうか」
何か違和感、というかアムムが36人になったのに部屋が全然狭く感じないことに気づく。改めてアムム軍団を見下ろして……見下ろす?
「──あなたたちなんか小さくなってない!?」
「あれー!?」
なんとアムムたちは、ユセセの腰の丈にも及ばない程縮んでいた。全く動かなければ、大きめの人形と見間違うかもしれないくらいのサイズだ。
「分かれた分だけ小さくなってるじゃない! 分身っていうか分割よそれ!」
「チクショー! なんてことしてくれたんだ小娘!」
「あんたが私のイノシシを呼び込んだのよ!」
アムムたちが喚く。これでは数で押しきるどころではない、ダメージを受ければ縮んで増える。縮めば些細なことでダメージを受けてしまいまた増える、それを繰り返すことになれば……。
「あなたこのまま攻撃受けまくったら、素粒子以下になって消し飛ぶんじゃない?」
「「「「やだーーーーっ!」」」」
そうやって拒むも、アムムたちの一部が何故かまた分裂してしまった。
「いかん、耐久性が低下してる。今のショックで防衛措置が働いてしまったようだ」
「サイズ差が出来てきちゃってる!」
分裂するだけ生存確率を上げる、という魂胆だろうか。アムムの身体は地味に危機的状況にあるようだ。
「ええいこんなのスライムと同じよ! くっつけたら戻るんじゃないの!?」
「やめろバカ! どっちかっていうとプラナリアみたいなもんだろ!」
半分ヤケになったユセセが適当に掴んだ小アムム二人を強引にくっつける。すると、
「くっつきました」
「スライムじゃん!!」
小アムム二人は、中アムムに進化した。しめた、と思いユセセが他の小アムムを掴んでくっつける。
「何よ簡単じゃない、全部ぎちぎちに圧着すれば──え」
「新たな私がー!」
しかし今度は握力によるダメージで、アムムが3人増えてしまった。
「ギャアア!? 鼻の角栓がムリムリ出てくるみたいに増えた!」
「「「よくそんな心ない形容ができるな!」」」
「くっつくんじゃなかったの!? どうなってるのよ!」
叫ぶ両者をよそに、小アムムの一人が、二人の小アムムを見て気づいた。
「……!! そうか、わかったぞ。
同じ属性の私同士ならくっつくんだ!!」
「いよいよどういう理屈で生きてるのよあんた!」
同じかわいいポーズをとる小アムム二人が、重なるように一つになる。今のはかわいいアムム同士でくっついた結果だろう。中アムムになったかわいいアムムがまたポーズをとる。その光景に汗を垂らすユセセだったが、気を取り直して、同じポーズをとるアムム同士を掴んで、今度は優しくくっつけた。
「ま、まぁいいわ。同じのをどんどん……あれ?」
さっきのようにいかない。少し力を強めても変わらなかったが、理由は小アムム二人が口を開いてからわかった。
「私はプライドスター高飛車アムム」
「私は見栄はりの王者虚栄心アムム」
「属性別に並びなさいバカども!!」
この二人はとりあえず放っておくことにして、別のアムムたちに手をつけることにした。
「分かりやすいキメラと、数の多いかわいいから片付けるわよ。
あれ、なんでこのキメラだけくっつかないの」
「私はキメラになっちゃったおふざけ精進イタズラアムム」
「ウザァアアアアイ!!」
キレてもどうにもならないので、とにかくストレスの溜まらない内に急いで元に戻すユセセ。無言で小アムムたちを合体させていっていると、どの属性にも該当しないアムムが現れた。
「愛とは」
「変なの増えてる!!」
真理求めて回す頭脳、スマートブレイン、哲学思想アムムの誕生である。
「わかんなくなるから、あんたはこっちにいなさい」
「「惨めさとは」」
「寂しくて死んじゃうウサギか!!」
等々、余計なショックや精神的ダメージで増えて戻しての紆余曲折あり──
属性もサイズも違うアムムが奇数人残ってしまった。
「「「うわあああああ!」」」
「眠い」
「虚無とは」
「考えてみればそうなるわね……」
いるのはキメラと大1人、中3人。属性はもうめんどくさいので割愛します。
「このまま元に戻らなかったらどうする気だー!」
「チクショー無為転変してやろうか!」
「グエー虚無ー!」
しまいには同じ自分同士でいがみ合いが始まろうとしてしまう。
「──もうやめなさい!」
それを見ていたユセセが、アムムたちを一喝して、優しく諭す。
「大丈夫、違う個性が表出しただけで、元はみんなアムムじゃない! 心を一つにするのよ! そうすれば必ず戻れるわ」
ユセセの言葉に、アムムたちはお互いの顔を見合わせた。
「…………フッ……小娘もたまには良い事いうわね」
「そうだ、私たちは皆キュートでかしこいアムちゃんだ」
「ぶふぅー」
今のアムムたちの思いは同じ、もはや信じて疑うこともない。これならうまくいくかもしれない。
いや──必ず成功するだろう。
「さぁみんな、集まって……」
意を決して、みんなユセセの元に歩みだす。ユセセは手を広げてアムムたちを──
「────1千トンの圧力!!!!」
「「「「「ウォエーーー!!」」」」」
……分裂させる間も許さない勢いで掴み潰した。結果。
「はい戻った」
「くしゃくしゃの折り紙かよ」
アムムの言った通り、シワッシワのヨレヨレになって復活。
「ったく、手間かけさせて……」
「ユセ姉ー、冷蔵庫と財布空んなって食うもんない、なんかちょーだい。あ、ジュースや、おおきにー」
2秒後、宇宙戦隊キューシビビーが現れるのだった。
完