君と過ごす平凡
「今日どうしようか」
「どっか行くか?」
朝起きて簡単に朝食を済ませている時だった。
今日は珍しく2人揃ってオフの日で、そういう時は2人の時間を優先しようと決めている。
とはいえ、観たい映画があるわけでも、何か買い物があるわけでも無くDVDでも借りてゆっくり過ごそうかと俺が提案し、それにノートンもいいねと頷いてスマホへと手を伸ばす。
レンタルランキングでも見ているんだろう、深爪気味の親指が上下に動く。
「あ」
「ん?」
「おやつコッペだって」
「へー、美味いのか?」
「わかんないけど、凄い人気みたいだ」
「ふーん……」
「…………」
「行くか」
「ん」
それだけ交わして2人で立ち上がる。
テーブルを片付けて、それぞれの部屋に一旦戻りパジャマをベッドの上に脱ぎ捨てた。
そうしてクローゼットから取り出すはブラウンのマウンテンパーカーに白のジャケニット、黒のスキニー。
すっかり秋めいた季節に合わせて、先日買った物だ。たまには違うファッションがしたいと、全てノートンに選んでもらったもの。
ひとつひとつを見た時は本当に俺の事考えた?と疑問に思ったものだが、着てみると不思議なことに落ち着いた揃えながらもカジュアルさがあって着せられている感は全く無かった。
今度は冬服もコーディネートしてもらおう。
「ノートン準備できたかぁー…って、それこの前俺が選んだやつじゃん」
「うん。でもやっぱり、僕には可愛すぎない?」
マイクとかが着てそうな感じ……そう言って落ち着かない様子のノートンはというと、白のオーバーサイズのフリースパーカーに黒のスキニー。シンプルでどちらかと言うと可愛い系統のものだが、ノートンのスタイルと甘さのある男らしい顔立ちによくマッチしていた。
うんうん、俺のセンスも悪くない。
「ちょっと外した方がいいんだって!それより俺は?どう?」
「うん、僕のセンスでもウィルが着ると素敵に見える」
「ノートンのセンスがいいからだって!ま!俺がかっこいいのは確かだけどな」
「うん、ウィルかっこいいよ」
「なっ……」
馬鹿言ってるとか、アホらしいといった呆れた返しが飛んでくると思ったのに。
こういう突然見せる素直な所が、心に甘い棘を刺してく。
顔はいいが男らしくて到底“可愛い”からは離れている筈なのに「なんて可愛いんだ」と、そう思わせる。
全く、とんだ魔性に惚れてしまった。
嬉しさと照れ臭さから赤くなった耳を誤魔化して、ノートンを急かす。
「支度できたし、早く行こうぜ!」
その声はどうにも上ずってしまって、声から異変を感じ取った可愛い男前の恋人は俺の真っ赤になった耳にも気づいてしまったらしい。
ふふっと楽しげに、この世で最も愛しい低音が揺れた。