まいにち無占(いつかめ) 泣いている?泣いているのだろうか。自分の目から溢れているこれは涙だというのだろうか。
ノワールは粥を掬っては口に運びを繰り返した。
美味しい、なんて、ここ数年感じたことはない。
食事の時間は作法の勉強の時間であり、毒に身体をならすための訓練の時間だった。
ノワールの手の甲に残る痛々しい蚯蚓腫れの痕はその名残だ。
食事は苦痛だった。ノワールにとって、食事とはそういうものだった。
それなのに、こんな見知らぬ場所で、見知らぬ他人に食事を施されてほっとするなんて。
気付けば粥は綺麗になくなっていた。
がつがつと必死に食べてはしたないと咎められるかもしれない。
それでも、それくらい食べたい味だったのだ。ノワールはスプーンを置いて目を伏せた。
「完食できたんですか? えらいえらい」
「ああ、栄養が摂れればそれだけ回復も早いからな」
──だが、予想に反してノワールがとがめられることはなかった。
それどころかノワールが食べ切ったことを喜ぶ彼らに、ノワールは面食らった。
「え、あ……」