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    まつり🦀

    妄想の箱
    文スト太と敦(上下左右非固定女体化多めR18有)が主成分。
    サイトに載せる前とかネタとか残骸とか。

    内容がアレなので成人未満の閲覧はご遠慮ください。

    https://ojigineco.fc2.page



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    55分に関する文豪に縁のある艦の名前

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    まつり🦀

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    何年か前のハロウィンのあつぴとがれ君の妄想がこうなって中途半端に止まってる。
    今度こそダークファンタジーぽくて最終的には太敦の工口に持ち込みたい。

    ##文スト##太敦##女体化

    forest:
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    「やつがれ達は贄の仔羊だからな」
     いったいどのぐらいこの暗い森の中を彷徨っていただろうか。森の入り口に立っていたときには、確か丸い月が東の空にあがり始めていたのを見たような気がする。
     今は天頂で冴え冴えとした光を、敦たちのいる森に向けていた。
     夕方、敦は幼なじみの龍之介と共に森の奥に棲む、村人達が賢者として恐れ敬う世捨て婆に祭の供物を届けるように村長から仰せつかった。
     賑やかな祭の様子に背を向けてふたりは森へと見送られる。
     とっぷりと日が暮れてもなお、目的である世捨て婆の根城にはたどり着かない。敦が疲れた、少し休もうと提案したところ、龍之介がいつも以上に冷めた声でそう言ったのだ。
    「贄だなんて、そんな事聞いてないし」
    「誰もその様なこと言ってはいないしやつがれも聞いてなどいない。然し明るい月夜とはいえこのような森にやつがれと貴様、齢もいかぬこども二人だけで行けと言うのは明らかにおかしなことだろう。それに今宵は年に一度、魑魅魍魎妖怪変化が縦横無尽に闊歩するという祭の晩だ。そんなときにこんな供物のような菓子を持たされてこの森奥深くに棲む世捨て婆にもって行けだなんて、贄以外の何だというのか」
     龍之介の言葉に敦は林檎を象った、毒々しいまでに赤い菓子を盛った籠を見た。
     持たされたときに一つ食べても良いと言われて齧ったところ、とても美味しかったけれど、それ以上食べようと言う気にはならなかった。齧ったところから零れ落ちた赤い蜜がまるで切り裂かれた肉から滴り落ちる血のように見えたからかもしれない。
    「贄というなら、ぼくらは何のための贄なんだよ」
    「五穀豊穣、世の安寧を願うのが常だろう」
    「そう、だけど。でも何で、ぼくらが」
    「やつがれは幼き頃故郷の騒乱から逃れこの地に辿り着いた。貴様も塵袋に入れられて教会の前に捨てられていた。この村の人々は出自も身の上も解らぬ我らにたいそう優しかった。衣食住も学も惜しみなく与えてくれた。邪険にすることなく村の子供たちと分け隔てなく養っていたのは、すべてはこのためだろう」
    「じゃあぼくたちはそのために、ずっと、ずっと」
    「善意ではないが悪気があったわけでもない。この村では60年に一度、この祭の日に魔王が巡ってくるという言い伝えがある。それが今年だっただけで、偶々やつがれたちがこの村にいた。全ては偶然と運命だ」
     龍之介の言うとおり敦は生まれて直ぐに塵袋に入れられて教会の前に捨てられていた。寡黙な神父はそのようなことを一言も言わなかったが敦は周囲の噂で知った。知ったところで神父は肯定も否定もせず、いつも通り背を向け日々のつとめを為せと言うばかりだったので、敦のそれ以上のことを聞くことはなかった。
     貧しい教会ではあったが食事と寝床は温かく、物静かな神父とともに平々凡々と過ごす日々だった。淡々とした、そんな変わらない日常がずっと続くのだと思っていたのに。ささやかながらも幸せだと信じていた現実が音もなくほろほろと崩れていく。ぽろりと、敦の夕暮れの瞳から涙が零れ落ちた。
    「ぼくら……どうなるの」
    「お伽噺にもあるだろう。赤いずきんを被った童女は婆の家で婆に化けた狼に食われる。親に捨てられ迷子になった兄妹はお菓子の家の魔女に招き入れられて竈で焼かれる。そういう運命やもしれぬ」
    「……でも、でも、それって、もしかしたら」
    「もしかしたら通りすがりの狩人が狼の腹を掻っ捌いてくれるかもしれないし、偶然魔女の企みに気付いて逃げ出せるかもしれないね」
     ぐずりと敦が鼻をすすると同時に、目の前の暗闇から声がした。身構えながらも龍之介は燈を翳す。ぼんやりと人影が二人の方へ近付いてきた。
    「可愛らしいこどもがこんな真夜中に森の中とは。どれだけの時が流れ世が移り変わってもあの村は相変わらず気紛れな魔王の呪いに怯えているんだね。可哀想なことに」
     黒い長外套に身を包んだ男が二人の目の前に姿を現した。深く被った頭巾を払うと、端整な顔が照らし出される。龍之介の持つ灯りが、その男の鳶色の瞳の中で不気味に揺らめいていた。
    「だ、誰……」
     声を震わせながらも敦は男に問い掛けた。この場から、この男から逃げた方がよい。逃げなければ。頭の中で警鐘が煩く鳴り響く。然し足が竦んで動けそうにない。隣に立つ龍之介を見ると彼も同じ様で微動だにしない。目の前に立つ男を凝視している。
     男が一歩足を踏み出すと同時にぴちゃりと濡れた音がした。男は長い柄のついた大鎌を持っていた。そして柄の先には何かがぶら下がっている。敦が目を凝らしてみたところ、それは老女の頸だった。敦たちが訪ねる筈だった森の奥に棲む世捨て婆。目を大きく開きだらしなく口を開けた醜い顔の老婆の頸からは色鮮やかな真っ赤な血がぽたぽたと地面に落ちていた。
    「ううっ!」
     敦は自分が持っている菓子から流れ出した赤い蜜を思い出してしまい思わずしゃがみ込んで嘔吐しそうになるのを何とか押さえ込んだ。けれど一口齧ったあの味が口一杯に広がるともう我慢できなかった。勢いよく吐き出してしまったそれも真っ赤だった。男はそれを気にすることなく踏みつけうずくまる敦を見下ろす。
    「嗚呼、もう、こんな所で粗相しちゃって。困った子だね、君は」
     呆れ果てたような声が、敦の頭上から降り注ぐ。
     ごめんなさい。しかし敦はその言葉を声にする事ができず地べたに顔を伏せて男の視線を受け流すしかなかった。
     敦の吐瀉物にまみれた男の爪先が敦の頬を掠め、そのまま顎にかかった。鼻を突く臭いに再び吐きそうになるが敦は何とか堪え、汚れた爪先で無理やり上げさせられた顔で男を真っ直ぐに見た。
     鳶色の瞳が穏やかな笑みを浮かべながら、闇夜に消えていった。

     気付くとそこは今の今までいた森の中ではなかった。蝋燭の炎が見知らぬ部屋の中を照らしている。机の上には供物として持たされた赤い菓子が盛られた籠があった。そして目の前にある大きな鏡に映る自分の姿に息を呑んだ。
    「何?これ……」
     頭から掛けられたら薄く柔らかい絽布越しに見えるの自分の姿は純白に身を包まれていた。真っ白なそれはまるで、花嫁衣装だ。何故こんな格好をしているのか。誰がこの様な服に着替えさせたのか湧き上がる疑問について答えてくれそうな気配はない。
    「ここは、どこだ」
     敦は立ち上がり辺りを見回す。長い裾が揺れて衣擦れの音が部屋に響く。それほどの静けさが満ちた空間。しかしこの薄暗い部屋は幼い頃から過ごしていた古い質素な教会や、村の家とは違う物々しい重厚な空間であった。
     座っていた椅子も今にも壊れてしまいそうなおんぼろ椅子とは違い片手で動かすにはかなり重たく、細やかな模様の入った布が張られている。
    「そうだ、りゅ……」
     ついさっきまで一緒にいた少年の名を口に出そうとしたところ何故か声が途切れた。自分の意志ではなく何者かが敦の声を態と切ったような、そんなおかしな感覚だ。
    「何だよ、ここ、り……、どこ?……!」
     何度となく龍之介の名を口にするがどれ一つとして声にはならなかった。取りあえず彼に扶けを求めることはできないようだ。
     幼い頃から兄のように、彼の実の妹、銀と同様に、自分に手を差し伸べてくれた存在はここにはない。一人で何とかしなくてはならない。
     敦は目を凝らし出口を探した。すると鈍く光る扉の取っ手が見えた。
    「あそこから、逃げよう」
     そう思い敦は着慣れない衣装の長い裾を引き摺りながら足早に扉に向かい取っ手に手を掛けた。けれど敦が開けるよりも先に扉は音もなく開かれた。
    「おやおやどうしたんだい?待ちきれなかったのかな?私の可愛い花嫁さんは」
     そこに立っていたのは自分と同じように白い衣装に身を包んだ、先ほど暗闇の中から現れた鳶色の瞳の男だった。いきなり差し込んできたまばゆい光に敦は目を細めながら、長躯の男の顔を絽布越しに見上げた。男の口元は緩い弧線を作っていたが、その目は昏く敦を見下ろしていた。敦のことを花嫁と呼ぶならこの男は花婿なのだろう。けれども男の目にはどうみても花婿の輝きは見られない。それは彼の目の中に映る敦も同じことなのだが。そもそも何故自分がいきなり花嫁になっているのか理解できない。
    「漸く君を見つけたんだ。ずっとずっとひとりで待っているのは退屈だったよ。退屈すぎて幾つ世界を造って滅ぼしたか、もう覚えていないや」
     男は敦の顔を覆っていた絽布を払いのけて、直接敦の頬に触れた。あまりにも冷たい指先に敦は肌を震わせる。頬を撫で、それから細やかなレースで飾られた襟元、そして純白の絹布越しに首筋、そして胸へと降りていく男の指先を敦は目で追いかける。指先は酷く冷たいのに、豪奢な花嫁衣装越しに残されたその軌跡は敦の肌に熱を残していた。燻るような感覚を持て余す敦の指先に男の指先が辿り着き絡み付いた。矢張りそれはとても冷たく、人間のものではない。
     贄だ。
     そう言った龍之介の声が遠くから聞こえて消えていく。
     男はやんわりと敦の左手を掲げると、その薬指に唇を落とした。きらりと光ったそこを見ると細かな宝石細工の花の中で2匹の蛇が絡み合い互いの尾を飲み込んでいる姿が見えた。
    「さあ、披露宴にいらっしゃったお客様が今か今かと待っている。ようこそ私の花嫁さん」

     男に手を取られ一緒に長い廊下を歩きたどり着いた先には敦のいた部屋同様に重圧感を漂わせる扉があった。男が足を止めると同時に扉が開く。そこは饗宴の真っ最中のようで喧噪と歓声が響き渡っていが、ふたりが部屋に入るやいなや、それは一瞬で静寂に変わる。
    「あ」
     大きな部屋に見渡す限りに並べられた長い卓に整然と座る人々がいた。しかし人ではなかった。人の姿をしているのだがその頭上には獣の角が有るのだ。敦は思わず隣に立つ男を見た。彼の頭上にも黒々と艶を帯びた角が天を穿つ様に生えていた。あの森の中で彼に出会ったときにもこんな角は有っただろうか。
    「あの時、世捨て婆のところへのお使いの指名が芥川君じゃなかったときのことを思ってね」
    「あ……?」
     男の視線が一番端の卓の末席に座る少年に向けられた。そこには龍之介が他の客人同様頭上に角が付いた状態で座っていた。少なくとも村で敦が彼とともに過ごしていた間にはあのような姿は見たこと無い。
    「り……?!」
    「あの子は従順ないい子なんだけど時々しょうもないヘマをするから。用心して引っ込めていたのさ。この姿を見た人間には呪いを掛けなくてはいけない。私とてできればそんな無駄なことはしたくないからね。しかし君がこの姿に怯えるなら客人達にも隠すように命じてもいいよ。ああそうだ、君はもう私以外の男の名を口にすることはできない。だから今までのように芥川君を呼ぶことは出来ないんだよ」
    「ど、う、して」
    「だってここにいる者は私の、そしてきみの下僕だ。もういちいち名を呼ぶなんていだそんな必要はないからね」
     男が敦の腰に手を回しそっと抱き寄せる。すると痺れるような、痛みにも似た感覚が脇腹に広がった。男の手が触れた敦の左の脇腹には跡がある。敦を育ててくれた神父が言うには生まれたときからあるものできっと消えることはないだろうと言っていた。しかし今までこんな感覚を齎すものではなかった。
     なにがどうなっているのか。さっぱり解らないまま宴の中を敦は男と共に客席の間を歩く。客人達は角が有ることを除けば、見た目は極普通の人の形をしていた。彼等は酒を満たした杯を掲げ口々に祝いの言葉を述べていく。男も嬉しそうに謝辞を述べていく。敦は男に促されるまま御辞儀をする。そしてその横で他人事のように男と客人達が会話をする様子を眺めていた。そこであることに気付く。
    「どうしたんだい?」
    「名前……」
    「え?」
    「あなたの名前が解らないんです」
    「……」
    「あの、お客様方があなたの名前を口にしていることは解ります。ちゃんと聞こえているんです。けれど……」
     客人達が男の名前を口にしているのは解る。耳も聞こえている。だけれどそれが敦の頭に残らないのだ。
    「……ああ、そういうことか」
     男は敦の言葉に表情を曇らせる。そうしてまだ宴は続いているというのに敦を連れて部屋を出てしまった。

     また長い廊下を歩く。男がつかむ手首が痛い。祝宴に連れ出される前に白い手袋を嵌められているがその布越しに長い爪が肌に食い込んで突き刺さりそうだ。自分より背の高い男の歩幅に合わせて足を動かすけれど着慣れない長い裾が足許に絡み付いて何度も転びそうになる。
    「……っ!」
     そして案の定、蹴躓いた。
    「ああ、済まない。私としたことが。どうも君を見ていると調子が狂ってしまうようだ」
     つかんだままの腕を引っ張られて敦は立ち上がる。と同時に抱き上げられ眼前に男の顔が来た。
     闇の中で出会った時にもそう思ったが美しい顔立ちをした男だ。村の中にいれば年頃の娘たちがほっとかないだろう。そんなことを思いながら敦がその顔に思わず見入っていると男は目を細めて敦に微笑みかけた。
    「そんなに熱の籠もった目で見られるとこちらの方が照れてしまうよ、敦君」
    「熱って……え、あ、その……」
     そんなつもりは毛頭無かったのだがと、敦は言い訳しようとしたところではたと気づいた。
    「え、何で、僕の名前……」
    「そりゃあ当たり前だろう。敦君。私はずっと君を待っていた。君が、何度生まれて死んでいくのを私は見届け続けただろうか」
     笑っていたはずの鳶色の瞳が不意に悲しげに揺らした。
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    まつり🦀

    MEMOあなたはダザアツについて 1いいねでお酒に弱いのはどちらか 5いいねで二人の対照的な点 7いいねでお姫様抱っこをしたらどうなるか 11いいねであなたがそのカプにハマった理由 を答えてください!
    https://shindanmaker.com/691650
    #shindanmaker

    てことで11rt来てたので書き上げてみました。
    現状の私のなかでの太と敦君の解釈だと思っていただければ。
    こんな感じで日々ぼんやり妄想
    いいねされたらCP語るったー1:お酒に弱いって…… アツシ君まだでしょ、っていう点は御理解頂いた上で。
    ふたりともザル。 飲んでも酔っ払ってきゃらきゃらしてる。そしてやらかしてもしっかり記憶は残ってる。朝思い出して太宰さんはにまにましてるけどアツシ君は青ざめる。 (何があったかは妄想補完ヨロシコ)

    5:二人の対照的な点、これを真面目に考えてたら長くなるな。
    まあ本に例えると太宰の本はみっちりと文字が書き込まれてるけれど敦は真っ白。これは知識云々とかじゃ無くて経験値の話。15の頃からマフィアにいてそれ以前も色々な系意見と知識を持って齢2000年の仙人で生きてきた太宰と孤児院という密閉空間の中が世界の全てだった敦の対比。真っ白ってのは楽描手帳でも35先生がちらっと言ってた。敦はその真っ白に共感したことが書き加えられていくんだろうなと思う。それが良いこと悪いこと分け隔て無い。太宰も己の知る全ての事象に良いも悪いも関係ない全てが等しい。ただ敦に書き加えられていく事象を見ながら己との齟齬を感じているかもしれない。そこが太宰がストーリーテラーでその話を読み進めながら時折己の予想を超えた動きをするトリックスターが敦君だったら面白いねぇという妄想。
    2120

    まつり🦀

    MAIKING太14歳アツピ♀19歳ぐらいの年の差逆転捏造設定。
    猫の日なので書き掛け途中までのものを出してみた。

    これ、根っこはビストとか言ってみるけどきっとだれも信じないだろうな🤣
    ミルクセェキクラウン 雨足が次第に強くなってくる中、敦はもう30分も其処から動けずにいた。
     しゃがみ込んだままで足がしびれてきた。そして頭のてっぺんから足の先までずぶぬれだ。薄手の襟衣がぺったりと肌に張り付いて気持ち悪い。運動靴もぐずぐずに濡れている。
     ちょっとそこまで買い物に行こうと寮を出たので、持っているのは財布と鍵と携帯電話だけだった。少ない荷物だということだけがせめてもの救いかもしれない。しかしこの状態では、もう店にはいることはできない。
     何事かと、そんな敦を見かねて時折声をかけてくる人はいた。しかし敦の足元を見て、事情を察して首を振るばかりだ。
    「ごめんね。こんな事ぐらいしかできなくて」
     敦は段ボール箱の中に蹲っている、産まれて間もない小さな仔猫達に傘を掲げていた。2匹の仔猫のうち1匹は大分弱っているようでほとんど動かない。もう一匹はその仔猫を護るかのように覆い被さり、か細い声で懸命に敦を威嚇していた。
    8015

    まつり🦀

    Deep Desire2019年1月初出。
    タグが使いたいが為に引っ張り出しました。
    そこはかとなく15、16巻その後ネタバレあり。
    そしてこれ書いたときはまさか3期のエンディングのタイトルがアレとは思わなかった。

    2022元日、太がまだ娑婆に出てきてないとはww
    手折り難き百合の花は:
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    :

     既に夜の帳が降りていた。遥か下に広がる街には無数の作り物の光が流れている。時折止まるのは信号のせいか。敦はぼんやりとそんな事を考えながら高層ビルの最上階から街を見下ろしていた。
    「っ、だざ……っ!」
     硝子窓に触れていた指先に、自分より一回り大きな手が重なった。もしかしたら、と、敦はあり得ない現実を一瞬だけ期待した。
     けれど振り返ると目に入ったのは煌びやかな招宴会場と、金色に輝く髪をかきあげる男だった。
    「そこまであからさまに落ち込まれると、流石の俺でも傷つくんだが」
     仕立ての良い背広を着こなす男、フィッツジェラルドが少し困惑気味な笑顔で肩をすくめた。上質な装いに洗練された身のこなしは、どこか現実離れをしている。そんな風に敦の目には映った。それこそ、つい先刻、ほんの数時間前までは敦もフィッツジェラルドも、血生臭い惨状の中で生きるか死ぬかの瀬戸際にいたはずなのに。一転してこれはどういう事なのだろうと、敦はまだ現状に思考が追い付かない。
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