机の上の花瓶…○月✕日
俺は麺太郎、2年前からここに監禁されているが誰も助けに来る気配がない
でも俺はそれよりも、机の上の花瓶がどぉ〜しても気になる
ただ花瓶があるだけで花も草も石もネギすらも飾っていない、面白みも欠けらも無い花瓶がただ机の上に乗っているだけ
仕方ないので花瓶にラー油を注ぐ
俺はラー油が好きだからだ
きっとこの花瓶も喜ぶことだろう
…○月△日
俺は麺太郎、湧いてくるメンマを食べ続けて1ヶ月たった
花瓶から何かが出ている
なんだろうこれは、麺かなにかの端くれだろうか
どうせならチャーシューを生やしてくれ
…○月□日
俺は麺太郎、湧いてくる海苔を壁に叩きつけて6ヶ月たった
花瓶が小刻みに移動している
震えだしたと思ったら3分後には机にめり込んでいる
ラー油がアレルギーだったのだろうか?いや、ラー油を嫌うなど万死に値する
仕方が無いのでラー油の素晴らしさを説くことにした
余程感動したのか暴れまくっている
…○月☆日
俺は麺太郎、チャーシューが湧いてきたので記念に飾ってから1週間たったが、一向に2枚目が来ない
花瓶にラー油をあげすぎてラー油を切らしてしまった
誤算だった、俺はラー油がないと生きていけないというのに…俺にはラー油しかいないというのに…
「お困りかい?」
…誰だ
誰の声だ
「俺だよォ…ラーメ瓶さ」
それは…この渋く脳裏に焼き付く声の持ち主は紛れもなく、机の上の花瓶だった
「おっと、間違ってもらっちゃあ困るぜェ旦那」
「俺は花瓶じゃあねェ」
「ラーメ瓶さ」
ラーメ瓶…ただの花瓶だったはずが、顔があり瓶の中から麺が数本飛び出ていて、時たま汁を飛ばしている
「お前さんから貰ったラー油、返してやってもいいぜ」
どうやらその口ぶりは、俺を助けてくれるようだ
「但し、条件があるがなァ」
違うようだ
「俺は今ラー油のおかげで息ができている、以前のお前さんと同じ状態ってこったァ」
「そォれが無くなっちゃあ大変だろォ?」
俺は大きく激しく頷いた
そうだ、ラー油のために生きラー油を崇めラー油を称えラー油を信じラー油で生きラー油で死ぬ
だから、無くなれば死んでしまうのだ
「そこでだ」
「お前さんと俺、良い相棒になれると思うんだよな」
「なァ…俺と一緒に来ねェか旦那」
答えは目に見えている
条件ということは、断ればラー油を返してもらえない、それは困る大変困る
だから俺は……………………………………………
……………………………………………断った
俺はラーメンが嫌いなんだぁああああああああぁぁぁーーーーーーーっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
最後の力を振り絞って、俺はラーメ瓶に壁に張り付いていた海苔と飾ってあったチャーシューを投げつけた
「ぐォ?!」
ダイレクトラー油スプラッシュムーンハリケーンウォーキングラー油突撃砲!!!!!!!!!!!!
「うぐァアッ!!!」
俺は必殺技を使ってラーメ瓶に向かって突進した
効果は絶大だ
ラーメ瓶が壁へと飛んで行ったその瞬間
世界が崩壊した
…○月♡日
俺は麺太郎、部屋の角に集まる卵を掃除し忘れていた
足場がぐらつく、体勢が保てない、海苔は四方八方に飛んでいき、視界がぼやける、壁が崩壊し初め、無限に湧き続けるメンマ……切れたラー油
俺はここで終わりなのか
諦めかけたその時、ラーメ瓶がこちらに何かを訴えてきた
「……ら……い……」
聞き取れなかった
今度こそ諦めて、俺はそのまま目を閉じ……
「旦那ァ!!!」
ヴッ?!
ラーメ瓶が物凄い速さで俺の口に何かを押し込んだ
なんだこれは…もしかして…ラー…メン…?
う、うあああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!
あまりの美味しさに感動し涙を流した
こんなの味わったことがない!
なんなのだこれは!どうして俺は今までラーメンを嫌っていたんだ!
美味しい!美味しい!ラーメン万歳!ラーメン万歳!ラーメンは!世界一ィイイ!!!
気づけば俺は、世界を救っていた
…(ラーメン)月🍜日
俺は麺太郎、監禁生活30年を突破したが一向に助けが来ない
…だが、もうそれはどうでもいいのだ
俺にはラーメンがいる
そして……
「おい旦那ァ、な〜んて顔してんだァ?」
「せっかくの晴れ舞台だぜェ?」
俺は幸せになった
机の上にあったオシャレのオの字もなかった花瓶に救われ、俺は壊れた世界を救った
「おいおいィ、何度も言ってんだろォ?」
ラーメ瓶、だろ?
「わかってんじゃねェか」
「ま、そんでお前さんは今日から"瓶 麺太郎"だ」
俺はこれからのラーメン生活が楽しみで仕方がない
どんな幸福が待っているのだろうか
コイツと離れることは無いってことは、わかってるけど
「よろしくな、麺太郎」
俺の…俺たちの新たなラーメン生活が今始まる