嘘つきはよくないね「長義、あんたが嫌いだ」
「……は?」
突然告げられた写しの言葉に、長義は不機嫌な顔を隠すことも忘れたまま国広に目を向けた。一体どういうつもりだと言いたげな表情の長義だが、国広は全く気に止めていないようであった。
「あんたが嫌いと言ったんだ。聞こえなかったのか?」
再度同じ言葉を投げかける国広に、長義は思わずため息を吐いて額に手を当てた。
この偽物くんは何も理解していない。
「いや、聞こえていた。聞こえた上での発言だ。急に何を言い出すのかと思えば……エイプリルフールはもう終わっている」
国広が本科を嫌うはずはない。
長義は確信を持ってそう言い切れる自信があった。
なぜなら、二人は世間で言う恋人という扱いであるからだ。
だとすれば、国広の言葉はエイプリルフール故の発言ではないのか。しかし、4月1日はとうに過ぎている。では何故国広はそのような発言をしたのだろうか。
長義は国広に問いかけながら自身で思考を巡らせせてみるも、これと言った選択肢は見つからなかった。
考え込んでいる長義に、国広は訳が分からないと首をかしげ、長義を見つめたまま答える。
「何を言っているんだ。4月いっぱいは嘘をついていいんだろう?」
「……一応聞いておくが、その話は誰から聞いたのかな」
「……黙秘させてもらう」
国広の発言にピキリと血管が浮き出そうになりながら長義は問いかけると、写しは一瞬身体を硬直させ、長義から視線を外す。国広に嘘を吹き込んだ相手は長義の中でほぼ確定しておりじっと写しを見つめるが、国広は長義の視線の内容を理解してもなお口を開くことはなかった。おそらく誰にも話すなと念を押されたのだろう。
長義は再びため息を漏らすと、視線を外していていた国広がちらっと長義の顔を確認してきた。
「先に言っておくが、お前が聞いた話は嘘だ。エイプリルフールは4月1日のみ。更に言えば午前中までとも言われている」
「はあっ!?どういうことだ!」
「どういうこともなにもない。お前が欺されただけだ」
長義がエイプリルフール説明を行うと、国広は驚きを隠せず叫びだし、自身の発言を思い出しては徐々に顔が青ざめていた。
(何故お前は戦いでは頭の回転が良いはずなのに、こうした日常でおばかな所が出るのか不思議で仕方が無い……)
呆れた顔で長義は慌てている写しを見つめるが、国広は冷静になることが出来ず「もしかしてさっきの発言は……」と口に出していた。
「俺のことが好きと言いたかったのかな。だが、今日は何もない日だ。嫌いが変わることはない」
「っ、待ってくれ、長義!」
だんだんと国広の反応が面白くなり、長義はわざと国広が動揺する言葉を投げかける。その顔は少しにやついているが、今の国広ではそれを判断することが出来ず、慌てて弁解しはじめた。
「あれはあんたの言う通り、反対のことを言えば良いと思ってああ言ったが、本当は好きと言いたかったんだ!長義を愛していると……」
「待て待て。お前どこからそんな話になった。好きか嫌いかの話じゃないのか」
「?何を言っているんだ。俺は長義が好きだ。それ以上に愛している。そう言いたかったんだが……」
更に上の愛情表現が来ると思わず、長義は国広の話を止めてしまうが国広は気にもとめず堂々と発言する。不意打ちを食らった長義は思わず頬が熱くなるのを感じ、慌てて大きなため息を吐きながら俯くことで顔を隠した。
極になった写しは言動もまっすぐで、たまに長義を困らせる天才でもある。極の前は布に隠れて頬を赤めながら思いを伝えていたはずなのだが……。成長することは良いことだが、ストレートすぎるのも困ったものだと長義は思わず小さくため息を吐いてしまう。
「長義?」
急に言葉を発しなくなったことが不思議に思い、国広が声をかける。長義はまだ話が途中であったことを思いだし、火照りが冷めたことを確認してから顔を上げた。
「いや、何でもない。それより、いつにも増して熱心に愛の言葉を叫ぶから少し驚いただけだ」
「愛の言葉など毎日言っているだろう。まあさっきのはちょっと驚かそうと思って反対の言葉を話したが……それでも長義が驚いてくれて嬉しい」
(だからストレートすぎる!!)
直球な言葉と曇り無き笑顔に自身の心臓の音がうるさくなるのを耳にしながら、長義は呼吸を整え国広に負けないほど笑いかける。
「俺も愛しているよ、国広。まあたまにはこうした遊び心があってもいいかな」
「っ、ああ。任せろ」
長義の言葉に少しだけ頬を染めて言葉に詰まった国広を見て、長義は心の中でガッツポーズを取る。
やられっぱなしも性に合わない。やるなら倍返しだ。
(長義がどんな言葉を吐いても俺の心に刺さってくる)
国広が長義の言葉に困っていることにも気づかずに、今日もお互いが愛の言葉を囁いた。