構ってほしいラスが一仕事終えて部屋に戻ると、読書をしているリオンの姿があった。ただいまと声をかけると、リオンは顔を上げておかえりと言ってまた視線を本に戻す。ピシッと背筋を伸ばして本をめくる姿も美しい。
リオンが夢中になって読んでいる本は、薔薇の剣士。それもラスが書かれている巻だ。特にラスと薔薇の剣士が剣を交え友となるシーンがお気に入りらしく、何度もページを戻して読み返している。自分が書かれているところを読んでくれるのは嬉しいが、リオンの美しい朱色の瞳がこちらを向かないのは面白くない。構ってほしい。
「リオン。」
「ん?」
リオンの隣に腰掛け、チラリとこちらを向いたタイミングで眉をハの字にして寂しそうな顔をする。
「本の中の俺の方がいいのかい?」
あえて上目遣いに見えるように下から覗き込むと、リオンはビシッと固まってボッと頬を赤く染めた。手を離した本がサリと音を立てて床に落ちる。
「か……、」
「か?」
「顔がいいぃ~……」
最愛の旦那であり最推しであるラスの寂しそうな顔を直視したリオンは両手で顔を覆って天井を仰ぎ、足をバタつかせて悶絶した。小動物みたい、何その可愛い顔、そんな顔もするの、普段カッコいいのにその顔ずるい、と呟いている。ラスの顔も大好きなリオンが、普段の余裕な顔とのギャップに萌え悶えるのは予想通り。
「で?本の中の俺と現実の俺、どっちがいい?」
身体を起こしニヤリと笑みを浮かべながら天井を仰いだままのリオンの耳元で囁くと、ビクッと身体を震わせてから一呼吸置いて、いきなりラスの顔をぐわしっと掴み唇にチュッと口付けた。
「っ!」
突然の行動に驚いているラスから唇を離したリオンの顔は真っ赤に染まったまま、口をへの字に曲げていた。
「……そんなの、現実のラスの方がいいに決まってる。」
むくれるリオンが可愛いくて、ラスはたまらず目の前の愛しい妻をぎゅっと抱きしめた。
「?どうしたんだ?ラス?」
「君が本の俺に夢中になっていたから、……構ってほしくなった。」
「ふふ。ラスも子供みたいなところあるんだな。」
「こんな感情久しぶりだよ。構ってほしくてちょっかい出すなんて。」
「じゃあ今は私だけの特権だな。カッコいいラスも可愛いラスも、全部私の。」
ふわりと微笑んで、ラスの背中に腕を回しぎゅうっと抱きしめ返す。ビクトールのような大の男を片手で投げられる力持ちのリオンの力のこもった抱擁は痛いが、その痛みすらも愛おしい。
「ああ。全部君のものだ。」
目の前の額にチュッと唇を落とすとリオンがラスの首筋に頭を預け甘えるように頬擦りして。そうしてお互いの存在を再確認した二人は甘い時間を過ごしていったのだった。
終わり