苦しみも半分昼間はいつも通りツンツンした態度を取るルックだが、夜中になると今までしてきたことへの罪悪感からとてつもない不安に襲われて、布団の中でぽろぽろ静かに泣いてることがある。ササライはルックが泣いていると彼をそっと抱きしめて、背中をとんとんと叩く。
紋章から魂が解放されていても、真の風は灰色の記憶を見せ続ける。それが彼の贖い。
だが、目の前で愛しい半身が苦しむのを黙って見ていられなかったササライは、ルックを抱きしめて自分の体温や匂いを認識させる。ここは灰色の世界ではないのだと。
「大丈夫、僕はここにいるよ、ルック。」
ササライの優しい声が、今のルックにとって唯一安心できる。けれど、かつてササライにしたことと、今も迷惑をかけている罪悪感は消えない。
「ごめん、ごめんね、兄さん。」
ササライの肩に顔を埋めてルックは謝り続ける。こんなに甘えていいのだろうか。のうのうとこの世界で生きて、いいのだろうか。
「ルックはここにいていいんだよ。」
「……兄さん……、僕は、兄さんを沢山傷つけたのに……。」
「それでも、ルックは僕を憎みながらもずっと愛してくれてた。」
ハルモニアから一番救い出したかった存在。自分を忘れていたササライを憎み、傷つけることしか出来なかったルック。真実を告げたササライの絶望した顔を思い出し、ルックの心が痛む。
「僕の方こそ、忘れててごめんね。」
「…あいつらのせいだったから、兄さんが謝ることじゃない。」
「それでも。ルックを忘れてたのは悔しい。僕はずっと一人だと思っていたし、神殿の中が全て正しいと思ってた。でも、どんなことをされても僕にあったのは虚無しかなかった。」
ササライが神殿で当時の神官将にされてきたことを思い出すだけでルックの腸が煮えくり返る。落ち着いてと言うようにササライはルックの背中を再びとんとん叩いた。
「彼らは処刑されたから。もういないよ。」
「……あいつが人間に、部下に目を向けなかったせいで兄さんは。」
「ヒクサク様もお怒りだったから。それに、今こうしていられるのは幸せだよ。」
「幸せで、いいのかな。僕はずっと苦しまなきゃいけないのに。」
「君がずっと苦しむなら僕がその半分を受け入れるよ。君を覚えていなかった、何も知ろうとしなかったのが僕の罪だから。僕たち、双子で恋人なんだもの。」
「…兄さん。」
愛しさがこみ上げてきたルックが目の前の首筋に頬擦りすると、ササライはくすぐったいのか身を捩る。
「ん、や、ルック。くすぐったい。」
「……したい。」
「明日僕早いのに。」
「アニマル国なら送ってく。」
「…仕方ないなぁ。」
ルックを抱きしめたままササライは後ろに傾き仰向けに寝転んだ。
「いいよ。僕の空虚、いっぱいルックで埋めて。」
「…ササライ。」
「あっ…。」