ワンライお題、嘘今日はエイプリルフール。嘘をついてもいい日。というわけで。
「お前の顔なんて好きじゃねぇ。」
隣に座って饅頭を頬張るエサウにそっぽ向きながら告げる。好きじゃないだなんて、もちろん嘘だ。エサウの顔は逆立ちしたって好みど真ん中。その顔に、嫌いという直接的な言葉を使いたくなかった。
どんな反応をしているのかチラリと横目で見ると。エサウはぱちくりと数回瞬きして饅頭を食べ終え、突如ガシッとユダの顔を掴んで無理やり自分側へ向けさせ固定した。
「ユダ。私の目をよく見て、もう一回言って下さい。」
長い睫毛に縁取られた瞼によって伏し目がちに細められたターコイズブルーの瞳が悲しさを物語るように潤んでいる。その顔でそれは卑怯だ。わざと顔を見ずに告げたのに。ああ、もう!
「っ!」
エサウの胸ぐら掴んで引っ張り、その勢いのまま桜色の唇をベロりと舐めた。すぐに離せば顔に熱が集まる。
「…嘘に、決まってんだろ。」
エイプリルフールなんだから察しろと言うように睨み付ける。唇に残っていた饅頭の餡の甘さに辟易していると、目の前の悲しげだった顔が一転、ほっと安心したのか花が綻ぶようにふわりと嬉しそうに微笑んだ。
「愛しい貴方に嫌われたらどうしようかと思いました。」
「見抜いてたくせによく言うぜ。」
「それでもどちらなのか判断がつかなかったんです。何しろエイプリルフールで嘘ついていいのは午前中だけなので。」
「は?」
「ご存知ありませんでしたか。」
つまり。本当に好きじゃないって言われたかもしれないから動揺してたのかあんたは。
「……俺があんたを嫌ってたらそんなにショックかよ。」
「ええ、私は貴方が大好きですから。」
「そうかよ。」
「貴方は?」
「嫌いじゃない。」
「ユダ。私の目を見てちゃんと言ってください。」
頭を固定されてるから振りほどけない。いや、本気で抵抗すれば振りほどけるのだが、それをしないのは惚れた弱味。顔の熱が更に増したのを感じつつも、フゥと息を吐いてその瞳を見つめる。
「…好きに、決まってんだろ。」
「よろしい。」
そのままギュッと抱きついてきて頭を撫でるものだから、背中に腕を回して。想いを返してくれる存在が嬉しい。
暖かな陽気とエサウの優しさに包まれながら、次のエイプリルフールには午前中に嘘ついてやろうと決めたユダであった。
終わり。