【弓鄭】祈り 燃える炎のような夕陽の橙。
いつからだろう、この、夜が訪れる前の、太陽が融けて消えていく僅かの時間を愛するようになったのは。
自分はそんな感傷的な人間ではなかったはずだ。
きっとアーチャーだって笑うさ。こんな、橙の中に佇んで夕陽を眺めている俺なんて見たら。
そう思うのに、うつくしく陽が落ちていく日にそうせずにはいられないのは、こうしていたらいつものように彼が隣にやって来てくれるような気がして。
「アーチャー、」
かつて隣にいた、今はもういないひと。
それは戦いの折、彼が見せてくれた景色の色とよく似ていた。
時間に換算したらきっと瞬きのような短さであっただろう。
それでも。
それでも誰より近くて、誰より深く繋がって、同じ夢を見て、同じ速度で歩いた。
そんなひとを忘れることなんてできるわけがない。
骨も灰も残らない、ひかりの粒子になって消えて、自分と彼を繋ぐものであった手の甲の痣ももうすっかり消えてしまったけれど。
今の自分は、誇り高く気高く真っ直ぐでうつくしい彼がマスターと呼んだ人間として相応しい歩みができているだろうか。
約束をした、だからこの足を止めることは許されない。
それが、それだけが自分達に残された、かつてここに確かに共にいたという証左で、
だから、
嗚呼、陽が落ちる。
陽が落ちて、空の端から夜が世界を浸蝕していく。
アーチャー、お前の魂は今どこにある?
呼んでも返る声のない、その空白は夜に似ていた。
永遠に朝は来ない、終わりのない夜。
『マスター』
目を閉じればまだ思い出せる、呼ぶ声も、笑う顔も、触れる指先の温度も、やわらかなまなざしも、いつか少しずつ思い出せなくなっていってしまうのだろうか。
残るものがないならせめて、この胸の内に在るお前のかたちをした空白だけは、どうかずっと、このままずっと、変わらないままで。