欧州某国に本拠地を置く巨大企業スターピースカンパニー。その技術顧問として籍を置く博識学会の天才Dr.レイシオと、戦略投資部の長ダイアモンドの懐刀たる十人のオーヴァードのひとり“アベンチュリン”との仕事が決まった。
「やあ、“ヌースの愛子”サン。」
「その名で呼ぶなと伝えたはずだが。」
「あはは、ごめんね。コードネームで呼ぶのってマナーみたいなもんだろう?癖になっててさ。じゃあ、改めて名乗ろう。僕は同胞喰らいの“アベンチュリン”。カンパニーの技術顧問なら聞いたことあるだろう?僕は他者のレネゲイドを喰らい、己の幸運に変換するオーヴァードだ。人生を台無しにされないよう、気をつけて?」
「…ウロボロスか。問題ない。」
「なんだ、知っていたのか。さすが教授。」
ウロボロス。レネゲイド食いのオーヴァードと称される13番目のシンドローム。近年発見されたそれは模倣に長け、影を操り、他者のオーヴァード能力を霧散させる力を持つ。歴史の浅さ故に未知の部分も多いこのシンドロームに忌避感を持つ者も少なからず存在する。
「そのウロボロスが発現している貴重なオーヴァードが僕ってわけさ。これも幸運ってやつなのかもしれない。他者を食い潰せるおかげで僕は負けを知らないのさ。」
「ふん、どうだか。」
アベンチュリンの言葉にレイシオは鼻白んだ。
「“ヌースの愛子”は他人の知識を喰む。」
「レイシオ…?」
「オーヴァード能力を発現させてから言われ続けた陰口だ。…訂正しよう。僕のブリードは、正しくはクロスブリード。シンドロームはノイマンと……ウロボロスだ。」
「じゃあ……。」
「君の幸運喰らいがバカアホマヌケの戯言だと、最初から知っていた。いくら未知のシンドロームとはいえ、サンプルが集まれば証明は容易い。ウロボロスはレネゲイドを喰らうだけのレネゲイドだ。僕の功績は僕自身の研鑽の賜物であり、君の幸運は君自身が引き寄せたものだ。ウロボロスにそんな力はない。
そもそもノイマン能力自体も『理解の有無に関わらず事象を処理できる能力の獲得』にすぎない。閃いた公式は愚鈍にも理解できるように理屈を噛み砕き、誰にでも再現できるようにしなければならない。僕はそれを怠ったつもりはない。ないのだが…。」
「……。」
レイシオの言わんとしていること。アベンチュリンには痛々しい程にわかってしまった。
レイシオの知恵喰らいも、アベンチュリンの幸運喰らいも、そうあれかしと望む世界が見続けた影絵芝居に過ぎない。