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    ジャンル雑多・色々上げる/@f_ACTV

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    方向性が固まってきたので切りのいいところまで上げる。
    二人が再会するまでの話が描きたいなって思ってます。
    11/3 TETSUというか真田兄弟パート追加。

    #譲テツ

    一等星へ続く轍・進捗兼サンプル/1995・運命の子・譲介

     一九九五年。阪神淡路大震災、それから間もなく地下鉄で毒物を用いた無差別テロで多くの人が亡くなるなど、波乱に満ちた年であり、人類初の完璧なクローンが生まれたのもまたこの年であった。

     その完璧な「ドクターK」こと西城KAZUYAのクローンである黒須一也、彼と同じ高校の同級生だった宮坂詩織。受験を控えた高三のタイミングで彼らの高校に編入してきた和久井譲介。進学してもなお同じ時間を重ねて道を共にし、研修医として邁進する一也と詩織、異国の地で医学を学び、研鑽を積み上げ憧れの人を追う譲介。道はそれぞれ違えども、今でも長く続く高校生同士の友情を体現している、といっても過言ではない。

    『アメリカってのはいいモンだ。なんせ出自もムラ社会的なしがらみも全部ねえ。テメェ自身の“今の実力”さえありゃあどうにでもなっちまうぜ。まあ俺も今じゃあこんなザマだけどよ、来いって言われりゃあ行っちまうかもな』
     ククク……とソファに寛ぎ、コーヒーを飲みつつ不敵に笑うあの人の顔を思い出す。旧知らしい現クエイド会長・朝倉雄吾氏がホワイトハウス周辺の要人の治療に招聘(しょうへい)したり、シリコンバレーの最新医療機器の治験に来たりとかなんとか言って本当に逢えないだろうか。カーテン越しから薄らと夜の闇が退けつつあった。
    「貴方がいて今の僕がいるんです……徹郎さん……僕は絶対にあなたに追いつきますから」
     和久井譲介は十六時間先にいる相手――真田徹郎――を想いながら薄らと陽が昇る前の月を見ていた。きっと貴方も同じ月を見ている。それだけで医学や語学をはじめとした無理難題でも突き破っていける。
     譲介は書きかけの論文を保存してノートPCの電源を切った。未だに自分がクエイド大の学生である実感がしない。シングルベッドにダイブし、あの時「選ばれた」のがほかの子供や、一也だったらとか考えてしまう。あの手紙も燃やされているかもしれない。
     ――あの人が手を差し伸べてくれなかったら、僕は何にもなれないままだった。「父」のような何かをした男のようなしょうもない人生を歩んでいたかもしれない。

     ――僕には、家族なんていなかったんだ

     一番古い記憶は、うっすらとではあるが無人駅でずっと誰かを待っていたことだった。どういう経緯で保護され、施設へ入れられたのかはあまり覚えてない。ただ、誰にも見つからず死ぬかもしれない恐怖を抱いて泣いていたことは覚えている。出来ることなら、「母」と呼ぶはずであった人に見つけて欲しかった。
     それから小学生に上がると、同級生はおろか因縁を付けてくる上級生をも力でねじ伏せながら、大人の前では巧く猫を被る術を自然と身に着けていた。裏で誰かがチクっていたのか、厄介払いとばかりに幾つかの施設を転々とし、十五歳であさひ園に辿り着いた。それが始まりだった。

    あの人には最初から敵わなかった。

     同年代の子供から「時々白いコートのおじさんが現れる」と聞いていた。毎月何が入っているかわからない荷物を園長に渡している。それに留まらず子供たちの健康診断、予防接種を行っていた。七夕やハロウィン、クリスマスといったイベントごとにありえない量のお菓子やプレゼントを貰っているという。医療関係者なのだろうが、入ってふた月ほどその人を遠巻きに見ていたが、肝が据わっているというか、普通の医者にはないような「何か」を感じていた。
     始めは目を付けられないよう、透明な存在であろうと必死で大人しく繕っていた。しかし施設の窮屈さはどこも変わらず、衝動でナイフを手にした。フラストレーションの矛先は人間を苦しめるだけで飽き足らず、動物にも手を出した。しかし大人の前でうまい具合にかわい子ぶっていれば怒られはしない。不良連中とも付き合いはあったが、飯の時間にはきちんと帰って、温かい飯にありついた。たとえ周囲の子供が気に食わなかろうが、施設である建前上、どんなものも分け合うことが当然だった。
     その日は学校の先公に謂れのないことで説教され、不良連中とゲーセンで長くたむろしていた。そのために飯の時間に少し遅れてしまった。
     僕よりも先に勝手に飯を食われた。抑えられていたと思われた憤りが、数分の差で呼び戻され、勝手に飯を食った奴を表に出して脅した。
    「くだらねぇなァ」
     脅しに掴んでいたウサギが手から逃げ出した。すらっとした長身、大ぶりの襟のロングコートに、足の長さを見せつけるような黒いロングブーツが夜目に薄らと映る。気障ったらしい前髪を半分覆った例の「白いコートのおじさん」に全てを見抜かれていた。思えば、その「何か」というのは、幾度も修羅場を抜けてきた雰囲気であったと今では思う。拙いなりにそういうことをしてきた僕とどことなく似ている気がした。でも僕は子供だった。すべて呪われた運命であるならば、いっそあの人も巻き込んで僕も死ねばすべて収まる。本当にそう思っていた。

    ◇◆◇

    /1980・訣別・真田兄弟 

     富山県。小さな町で父が一代で築いた小さな診療所があった。善良な父と優しい母に育てられた兄弟がいた。父は医者であり、母は看護師ではなかったものの、出来る範囲で父の仕事を支えていた。
     夫婦の間には男の兄弟が二人いた。兄の名は武志、三つ下の弟は徹郎という。
     父はあまりにも人が良すぎた。「来る者は拒まず、貧しきからは受け取らず」を地で行く人だった。武志も徹郎も、そんな父の背を見て育っていった。この診療所を二人で継ごうと互いに口にすることはなかったが、兄弟は医学部以外の進路を考えたことはなかった。武志が陸橋大医学部へ、徹郎が地元難関の公立高校への入学が決まった頃に、事件は起こった。父は人への施しこそが善いことであると信じ続け、未認可の薬に手を出してあっけなく捕まった。「病で苦しんでいる人を一人でも助けたかった、医者とは常にかくあるべきではないのか」そう家族に残し、悔しそうに警察に連行された。留置所に放り投げられ、善良と紙一重にあった狂気と、多くの人を救えなかった悔しさを表に出した途端、すぐに町中に広がり「真田医院で人体実験をしていた」と一瞬で噂されるほどになった。世間の冷たい眼に耐え切れなかった父は隠し持っていたメスで動脈を切り裂き獄中死した。
     途端、本家や他の親類からは一瞬にして縁を切られ、診療所も畳まざるを得なくなった。
     それでも、この兄弟にとって医者であることがステータスであり、スタートラインであった。医師免許を持たなければ、真田家という土俵にも上がれない。だが父が亡くなり、真田医院の復興のために医者になるという思考は立ち消え、兄弟は強くなるために目的は違えど、父と同じ「医者」という道を選んだ。ひたすら研究を行い、己自身を強くさせるか、己自身が持つ技術で人に懐柔して、父のように弱かった連中に喰いついてやるか。
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    SakuraK_0414

    DONE譲テツのなんかポエミーな話です。
    譲テツと芸術と27階時代からアメリカ寛解同居ラブラブ時空の話になりました。
    最初のジャズは You’d Be Nice to Come Home Toです。裸婦画はルネサンス期の任意の裸婦画、文学は遠藤周作「海と毒薬」のイメージです。引き取ったなりの責任として旅行とか連れて行ってたテツセンセの話です。
    ムーサ、あるいは裸のマハ。副題:神の不在と実在について。ムーサ:音楽、韻律の女神。ブルーノート東京にて。

     いつだったかの夏。
     学校から帰ってくるなり来週の診察は譲介、お前も付いて来い、と言われた。家を出るのは夕方からだと聞かされてちょっと安心したものの熱帯夜の続く8月の上旬のこと、内心うんざりしたが拒否権は無かった。この間の期末テストで学年1位だったご褒美だ、と言われたからだ。
     成績トップのご褒美が患者の診察についていく権利って何だよ、と思いはしたがこのドクターTETSUという様々な武勇伝を引っ提げた色々とんでもない身元引受人が医学を教えるという約束を反故にしないでいてくれたのが嬉しかったのもある。
     当日の夕方の移動中ドクターTETSUは僕に患者の状態などを説明してくれたが、内心落ち着かず、どこに連れていかれるのか気になって話はあまり聞けていなかった。これを着ていけ、と上から下まで真新しい服一式を渡されたからだ。サックスブルーと白のボーダーシャツにネイビーの麻のサマージャケットをメインに、靴は通学に使うのとは違うウィングチップの革靴まで差し出されたのだ。普段は政界・財界に影響力を持つ患者の対応をいつもの制服で対応させるこの人がこんな服を持ってくるなんてよっぽどの患者なのか、と身構えてしまった。多分それは横にいる大人にはバレていたのだけれど、彼は指摘して叱るようなことはしなかった。
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