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    BMB_hatomaru

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    BMB_hatomaru

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    謎時空の譲テツ。譲介とテツさんがお布団に寝ています。譲介がまあまあ大人の謎時空です。相棒は不在です。全年齢だけどキスシーンあるのでご注意を。あと、譲介が泣く

    #譲テツ

    あなたは不思議な人膀胱がうずく。
    なんとも言えない不快感で、TETSUの瞼は開く。
    視界には、闇。明かりのない部屋の天井の輪郭が、うっすら網膜に像を結ぶ程度。
    視覚の次に、触覚と温覚が覚醒する。柔らかい布団と、片腕に絡んだ人肌の温かみと圧。布団からはみ出た顔の皮膚は、冬の寒気の鋭さを受け取る。外気は寒いと自覚すると、膀胱がまた疼き、TETSUは暗闇の中で渋面になる。
    『寄る年波にゃあ勝てねェのかね』という、表には決して出さない自嘲が、ぼんやりと思い浮かんだ。細いため息が出た。トイレに向かうべく、包み込んでいる腕から自分の腕を引き抜こうと試みる。
    隣にいる人物を起こしたくない。が、離れなくてはならない。動きは小さく、それでいて確実にその腕を払えるよう力を込めて、TETSUは腕を引き抜こうとする。そっと、かつ、力強く。
    しかし、その時、TETSUの腕にがっしりと絡む腕は、より力強く絡んで来たのだった。『起きてやがったか…』TETSUは盛大にため気をついた。
    「どこへ行くんです」
    布団の中から鋭い視線が注がれる。布団の中、長い前髪の下に、恨めしそうな、それでいてどこか愛嬌のある、重さのある眼差しがある。TETSUが一方的に助け一方的に育てた結果、TETSUへの何かしらの気持ちが芽生えてしまったようで、TETSUには理解しがたい不思議な感情を向けてくるようになった男、和久井譲介である。
    …起きているのなら、起こさないよう配慮する必要はない。
    「便所だよ。行って悪ぃかよ」
    TETSUは切り捨てるように言った。
    「悪くないです。でも、あなた一人で勝手に行くのは許せません」
    …暗闇は心を赤裸々にさせ、鋭い本音を吐き出させてしまうのかも知れない。なかなか恐ろしい発言であるが、譲介の声にはいっぺんの震えもなく、堂々としていた。
    TETSUは天を仰ぐ。
    「おめぇ…なに言ってんだ?オレは確かに病人だが、用くらい一人で足せるぜ」
    「そういう話じゃない。分かっていて話を反らすの、あなたの悪い癖ですよ」
    譲介は起き上がる。TETSUの顔を、しっかりと見つめる。灯りのない部屋の中だったが、揺らぎの無い重たく澄んだその目が、TETSUにははっきりと見えた。
    「僕の傍を離れないでくださいと言ってるんです!」
    譲介の力強いもの言いに、TETSUは内心舌を巻いた。
    TETSUは、小さい譲介を大人になるまで見ていたから知っている。幼い頃…いや身体は大人になってからもしばらくは、譲介は不安定だった。欲しいものは分からず、自分の好きなものは何かを考えることが出来ないような、自分のことをあまりに知らない、知る術を奪われていたばかりに自分の進む道がわからない、哀れな子供であった。それが、今はこれだ。揺らぎのない目と堂々とした声で、自分の意志を表に出している。成長か退化かはTETSUには判断し兼ねるが、譲介の変化を認めざるを得ない。
    …何となく座りの悪さを感じ、TETSUは俯く。
    「そうは言うが、おめぇ…」
    TETSUは小声になる。
    「便所だぜ?付き添いがいるもんではねェよ」
    「そう言ってあなたは…」
    譲介は興奮しつつある。TETSUは苦笑いする。
    「ジジィを近くに置きたいんなら、夜間頻尿くらい許せよ」
    「いやだから、それを許していないわけではなくて…あ、僕も行きますからね!」
    TETSUが立ち上がり歩き始めると、譲介も横に並んで歩き出した。

    ◼️◼️◼️

    トイレに入り、用を済ませ、トイレから出る。廊下には灯りが灯っている。
    一連の動作の間、譲介はドアの近くの壁沿いに立って、TETSUを待っていた。
    ふさふさと伸びる前髪の具合も相まって、TETSUは譲介を、何か従順な小動物のようだと思って見つめてしまう。傍にいたがる割には、顔がいつでも怒り気味だが。
    「…ドクターTETSU」
    ムスッとしたまま、譲介は話しかける。何故だか、譲介は頬はほんのりと赤く染まり、きまり悪そうだった。
    「僕はあなたの…その。トイレ事情に…興味があるわけではないんですよ」
    『トイレ事情に』というところだけ変に声が小さくなり、それが面白くて、TETSUは人相が悪いまま吹き出してしまう。ムッと譲介は顔を上げる。
    「笑わないでくれます?僕は本気で言ってるんですよ?変な趣味があると思われたくないです」
    「わかってるぜ。何も説明しなくても、お前は十分変だ」
    「あなたに言われたく無いんですけど!」
    「いや、お前は本当に変だ」
    会話しながら寝室に戻る。二人で布団に包まる。
    布団に入った途端、譲介はTETSUの体躯に腕を回す。譲介ときたら、明るいときはシャイだが、暗くなると途端に強気になるのだ。
    譲介はTETSUの心臓の位置に頭を置く。TETSUの心音は、聴診器がなくとも譲介には丸聞こえになるわけで、何故だか急に顔に熱が上った。
    「…怖いんです」
    譲介はTETSUの胸元でつぶやいた。
    「あなたが突然いなくなるのが、怖いんです。もしあなたが……。僕の傍から、またいなくなったとしても…」
    譲介の声が震え出した。
    「僕は、絶対に、見つけ出しますけれど。あなたは突然に旅に出る人だとは、分かって、いますけれど。それを、僕には、止められないけど」
    譲介の声に嗚咽が混ざり、TETSUを抱く手にさらに力が籠る。TETSUは譲介の髪に触れる。譲介はピクリと震えたが、TETSUの手を拒まなかった。
    「どこかへ行ってしまうのは、嫌です。いなくなったと気付いた瞬間、いつも僕の心には穴が空きます。それが本当に、怖くて、怖くて…」
    うええんと、譲介は子供のように声を上げて泣き出した。譲介の涙がTETSUの衣服を濡らす。TETSUにはかける言葉がない。譲介の言う通りで、TETSUはひとつの場所には留まれない。そういう性なのだ。誰が泣こうが、それは変われないと悟っている。
    しかし…TETSUは動揺していた。
    TETSUは何度も譲介の前から、譲介に別れを告げずに消えている。当然だが置き去られた瞬間の譲介の顔を見たことはない。そのときの譲介を、想像したことすらない。譲介が憎いからではなくて、想像すると胸が痛くなりそうだから。
    自分が譲介を置いて消えるのは、譲介という若い才能を考えてこそである。譲介は、自分のことなんか忘れて大人になるべき。本来はそれが正しく、自分なんぞのために涙を流す譲介は間違っていると思う。 
    『正しい在り方』は、それだ。しかし、正しくないはずのものを見て、TETSUの心は驚くほど揺れていた。
    俺のような裏ぶれた老いぼれを慕ってなんの意味がある…と頭では思いながら、TETSUがいなくなるのが怖いと泣いて縋る譲介の姿に、気持ちが揺れる。
    「…おめぇ…譲介」
    TETSUは乱暴に譲介の髪をくしゃくしゃいじった。
    「大人だろ。泣くなよ」
    TETSUが見つけた言葉は、なんだか不恰好だった。急にTETSUを抱きしめる腕に力が籠る。内臓が絞られる感覚がして、TETSUはウエッとえづいた。鼻水混じりにわんわん泣く譲介は、TETSUにぎゅうぎゅうに縋りつきながら、顔を上げる。
    「僕が!泣く゛は!今は!だ!前だけ、でず!」
    ぐすぐすしゃくり上げながら抗議する譲介。
    譲介はTETSUのタンクトップで涙と鼻水を拭う。
    「て、てめ…!」
    譲介は顔を左右にプルプル振ってから上げる。
    そして譲介はTETSUの唇に唇を重ねた。
    TETSUは、何も言えなかった。
    譲介の唇の柔らかさとか温かさに、絆された。考えていたことが、全て白くなって吹き飛んでしまう。TETSUにとって、譲介という人は結局それなのだ。正しさとか考えとかが、譲介その人の前では紙切れに見える。誰よりも大きな存在で、その質感は唯一無二。どんな悪漢よりも強く、どんな美女よりも深く入り込んでくる。それが、譲介なのだ。
    …しばらくしてから、譲介は唇を離した。
    「…あなたの前では子供になってしまいます。許して欲しい。子供のような自分を抑えられません」
    譲介の声にはまだ涙の色が混ざっている。
    「でも本当は、あなたより強く、あなたより大人で、あなたの横に並び立てる人間になりたいです。不甲斐ない上わがままでごめんなさい」
    譲介はTETSUを離し、自分の手で涙を拭い、俯く。
    「…。簡単に謝るなよ、大人だろ」
    「そうですね」
    「譲介、お前は…」
    TETSUは笑う。珍しく、力の抜けた柔らかい笑みが溢れた。
    「悪くねえな。そのままでいい」
    TETSUはそのまま、素早く後ろを向いて不貞寝した。
    「はあ…えっ?い、今、褒めてくれました?」
    譲介はTETSUの肩を揺すったが、TETSUは寝たふりをして反応しなかった。
    次に出て行く時は一言くらいは言って行くべきか、それも柄じゃないかな等、考えたことがなかったことを考える。TETSUの長い人生で、こうしたホカホカとした気持ちと迷いは初めてだ。譲介は、不思議な人。こんな人は他にはいない。それだけに、どう扱ったものか迷うところはあるが…考えるのが面倒くさくなり、譲介の手を背中に感じながらTETSUは眠りに落ちた。
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