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    heartyou_irir

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    heartyou_irir

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    記憶喪失ジャクレオ。仮2話ー2(タイトル未定)。レオナとクルーウェルのやりとり。

    ランプの明かりが手元を照らす。カサリ。夜の帳が下りきった保健室に紙がめくれる音がした。クルーウェルは本に羅列された文字を目で追い、ページをめくっていく。

    依然としてジャックに異常は見られない。しかしこればかりは何が起こるか分からないため、クルーウェルは不測の事態に備え、今日は保健室に泊まることにした。
    カサリ、カサリとページが読み進められていく。物音一つしない校舎は沈黙を保っている。しかし、突如としてその均衡は破られた。

    突然、勢いよく保健室のドアが開かれる。だが、ここにはクルーウェル以外誰もいないはずだ。廊下から近づいてくる足音なども耳にしていない。もしかしたら学園内にいるゴーストの可能性も考えられるが、彼らはわざわざドアを開ける必要はない。

    クルーウェルは胸ポケットに差していた指示棒に手を伸ばす。腰を上げ、臨戦態勢でドアに鋭く視線を投げる。すると、そこには久しく学園を離れていた生徒の姿があった。

    「よお、遅くまでご苦労だな。クルーウェル」
    「……キングスカラーか」

    そこにいたのはスーツに身を包んだ元サバナクロー寮長、レオナ・キングスカラーだった。開けたドアにだらしなく寄りかかりこちらを見ている。

    「戻っていたのか」
    「今日帰ってきた。うちのが面倒をかけてるって聞いてな」
    「なるほど」

    ナイトレイヴンカレッジの四年生は基本的に外部研修が主であり、この学園にいることはほとんどない。それでも数か月には一度はこうして帰って来て、レポートやら新たに見つけてきた課題に勤しんでいる。

    クルーウェルは警戒を解いて再び腰を下ろす。やって来たのが獣人族のレオナであれば足音がしなかったことにも説明はつく。彼らは気配を断つことに長けた種族だ。

    「研修はどうだった。といっても、お前が行ったのは生家だったか」
    「まぁな」

    薄ぼんやりとした室内にレオナが入ってくる。適当にあった椅子を掴み、クルーウェルの反対側に腰を下ろした。夕方にも同じ光景を見たな。頭の片隅でクルーウェルはそう思った。

    「それにしても何の用だ。お前がたとえ元寮長だったとしても、後輩のためにわざわざこんな時間にこんなところまで来るとは考えづらいが」
    「……」

    驚きと同時に浮かんでいた疑問をぶつけると、レオナは口を閉ざした。けして面倒見が良い質ではないこの生徒がここまでやって来た理由とはなにか。
    考えたところで、そう簡単に答えは分かるものではない。ならば遠回りせず、直接聞いてしまった方が早い。ジャックも同席しているが、今のこの状態ではいないも同然である。

    必要ならば少し離れたところにでも移動するか、と声をかけようとしたところでレオナが動いた。

    「こいつの恋人を探してるんだってな」

    こいつ、と顎で示されたジャックは静かに目を閉じたままだ。

    「誰から聞いた?」

    耳が早い。帰って来たといっても、恰好からしてそれほど時間は経っていないはずだ。人の口には戸は立てられない。どこかから漏れてしまったのだろう。

    「誰だっていいだろう」

    ジャックを眺めるレオナ。そこからはなんの感情が読み取れない。
    クルーウェルはつられるようにジャックを見る。レオナもまた、ラギー同様相手を知っているのか。
    しかしよくよく思い返してみると、レオナはジャックが入学した当初からあれこれと目をかけていた。そう驚くことでもないのかもしれない。

    「そうだ。少々厄介なことになっていてな。一つ手っ取り早い解決策があるんだが、それが……」
    「俺だ」
    「……なに?」
    「俺がこいつと付き合っている」

    だからとっととこいつを起こせ。
    坦々と語られる口調からは、やはりなんの感情も読み取れなかった。ジャックを見つめる瞳はまるで感情を削げ落としたかのように、怒りも悲しみも浮かんでいない。
    その姿にクルーウェルはとっさに言葉が出てこなかった。
    ベッドに横たわる姿を見下ろしていた瞳が上がり、真っすぐに、今度はクルーウェルへと向けられた。

    「嘘だと思うなら証拠でも見せてやろうか?なにがいい。メッセージのやりとりか、揃いで買ったものか」

    それかラギーにでも聞いてみるか。坦々と続けられる言葉たち。
    一瞬だけ、ランプの光が揺らいだ気がした。クルーウェルは知らず知らずのうちに止まっていた息を吐き出した。

    「なぁ、どれがいい?それとも信用できないか?」

    急かすレオナを手を上げて制する。

    「待て。信じていないわけじゃない。だが……」
    「だが、なんだ。話は知っている。さっさと起こすためにはこいつの記憶を消しちまうのが一番手っ取り早いんだろう」

    レオナが言っていることは真実だ。ラギーを通じて恋人を探していたのも、結局のところ記憶を消す承諾をもらうためだ。その恋人が自ら名乗り出て、ジャックの記憶について協力的な申し出をしてくれるのなら、それ以上のことはない。けれど。

    「いや、わざわざここまで来たお前がそんな嘘を吐く必要なんてない。信じよう。……しかし」

    願ってもいない展開のはずなのに、どうしてかクルーウェルは手放しでは喜べなかった。切れの悪い言葉が口から出ていく。
    笑ったのはレオナの方だった。

    「どうせここいる間だけのお遊びの関係だ。後腐れもなく簡単に別れられるんだったら、それにこしたことはねぇよ」

    せいせいする。逸らされない瞳が笑っている。求めていた答えはとても簡単で、とても残酷だった。
    クルーウェルはその瞳を脳に焼きつけるように、静かに目を閉じる。そして息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。返す言葉は決まっていた。

    「準備には少し時間がかかる。整い次第報告しよう」
    「分かった」

    材料は実験室に全て揃っている。求めていた了承も得られ、遅くとも二日後には魔法薬は完成することだろう。あと二日。ジャックをただじっと見下ろすレオナが今何を考えているのか、クルーウェルには分からなかった。
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