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    heartyou_irir

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    記憶喪失ジャクレオ。仮3話ー1(タイトル未定)。ジャックが卒業してから三年、レオナと再会する。

    第三話



    一つ先輩のラギーの背中を送り出し、自身もナイトレイヴンカレッジを卒業して早三年。ジャックは寮対抗マジフト大会での雄姿を見初められ、夕焼けの草原のプロチームに所属していた。

    夕焼けの草原では国をあげてマジフトチームを応援しているらしく、数か月に一度、選手達を労う宴が開かれている。参加できるのはチームの二軍までであり、ジャックもようやく最近参加できるようになった。

    初めて王宮に足を踏み入れた時の衝撃は今でも忘れられない。右を見ても左を見ても、周りには黄金だらけ。見るからに高そうな壺や装飾品に囲まれる空間はとても居心地が悪かった。今でも何かの拍子にぶつかってしまわないかそわそわしてしまう。

    ジャックは話しかけてきたどこぞの紳士との会話を終え、会場内に目を走らせる。すると視界の端で国王陛下と何やら話し込んでいるチームの監督を見つけた。にこやかな表情から、二人が盛り上がっていることがうかがえる。
    ジャックはその二人を横目に、こっそりとその場を後にした。



    着いた先は中庭だった。来賓客もいない中庭はシンと静まりかえり、ジャックは無意識のうちに詰まっていた息を吐き出した。パーティ会場と違い、ここではパチパチという篝火の音だけが耳に入る。

    静かなこの場所で、ジャックはようやく人心地がつく。元来一人でいることを好むジャックは、群衆の中にいるとどうしても気疲れしてしまうのだ。

    火の粉の弾ける音が心地良い。まだ一軍で試合に出場したことがないジャックでも声をかけてくれる人たちはちらほらといる。君が出るのを楽しみにしているよ、と言われることは嬉しいのだが、それが何度も続くとさすがにくたびれてしまう。それに、笑顔を浮かべ続けるにも限界がある。

    少しだけ、そう思いながらジャックはここで休んでいくことにした。



    喧騒が遠い。吹き抜けの中庭からは満天に輝く星空が見える。もうそろそろ戻らなければ。そう思い、一歩足を動かしたところで、カツンと何かが踵に当たる感覚があった。

    「ん?なんだこれ」

    身を屈ませ、ぶつかった正体を拾い上げる。

    「瓶?なんでこんなところに」

    それは片手で簡単に握れるほどの小さな瓶だった。木製のコルクで蓋がしてあり、瓶の括れたところには長い紐が括り付けられている。紐は何かの拍子にちぎれたのか、円ではなく瓶から二股に分かれていた。

    ジャックはそれを持ち上げ篝火に透かす。傾けると中身がさらりと動いた。そこには何の飾り気もない茶色い砂が入っていた。誰かの落とし物だろうか。そう思っていると突然背後から声をかけられた。

    「それを返してもらおうか」

    鼓膜を震わせた艶のある低音に、ハッと後ろを振り返る。そこには長くゆったりとした装いの男が立っていた。背中まで伸びた髪が風に揺れる。
    ドクンと大きく心臓が脈打つ。ジャックは魔法にかけられたかのように、その男から視線を逸らせなくなった。瞬きすらも惜しく、意識が男へ引き寄せられる。
    すると、男は金の腕輪が付いた右腕をジャックへ伸ばし、こう言った。

    「返せ」
    「え、あ、はい」

    言われるがまま、ジャックは朧気な頭で手に持っていた小瓶を男に差し出した。薄い篝火に照らされた褐色の肌がそれを受け取る。そこでようやくジャックは我に返り、慌てて頭を垂れた。

    「もっ、申し訳ございません」

    一目で気づくべきだった。その男の容姿を見れば明らかだ。
    獅子の耳を持ちながら、兵士でも正装もなしにこの王宮内をうろつける者など限られている。ジャックは背中に嫌な汗が流れるのを感じながら、頭を下げ続ける。

    「頭を上げろ」
    「ですがっ」
    「いいって言ってんだよ」

    その物言いにおずおずと顔を上げと、その男はジャックと同じように瓶を火に向けて掲げていた。右へ左へと倒し、中の砂が動く様を見ている。しばらくそうしていたが、やがて満足したのか瓶を懐へしまった。ジャックはその姿に我慢できずに声をかけた。

    「あの……」
    「あ?」
    「それ、なにか大事なものなんですか?想い出の品、とか」

    この男が熱心に瓶を傾けていたのは、どこかにヒビが入っていないか確認するためだ。ジャックにはなんの変哲もないただの砂のように見えたが、この男にとってはジャックよりも優先されるほどの大事なものなのかもしれない。

    知りたい。何故突然そう思ったのか分からないが、ジャックの頭は瓶のことでいっぱいになった。

    「思い出……。ハッ、そんな大層なもんじゃねぇよ。ただの、捨てられねぇ残骸だ」

    それだけ言うと、男は別れも告げずジャックを置いて去っていった。
    残骸。どうしてだかジャックには、そう吐き捨てる男の横顔がとても苦しそうに歪んでいるような気がした。
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