その日、レオナはとてつもない睡魔に襲われていた。
三秒と言わず、ベッドに横になった瞬間に眠れる。そう思うほどに瞼は重く、ふとした拍子に夢の世界に飛び立ってしまいそうだった。
けれどそれと同時に、ものすごく体が欲を持て余していた。端的に言えばセックスをしたかった。
誰も触れることができない秘所を熱い肉棒で突いて欲しい。
容赦のない快楽にイかされて、おぼろげな脳がぐずぐずになるほどに溶かされたい。
体内に渦巻く肉欲が、健やかな睡眠の邪魔をする。持ち上がった尻尾が落ち着かなく右へ左へとゆらゆら揺れる。
この無視できない大きすぎる二つの欲求をいったいどうしたらよいか。
自分で自身を慰めてもいいのだが、きっとそれは睡魔に邪魔をされ中途半端な状態で終わることだろう。逆に睡魔に身を任せてみるとどうなるか。結果は既に兆し始めている下半身のせいで健やかとは程遠い、もんもんとした不快感を伴うものになるに違いない。
眠い。けどヤりたい。反する二つの欲求に喉がグルルと唸った。するとその時、突然ポコンとどこかまぬけな音が鳴った。音の発生源に視線を送ると、それは枕元に転がされていたレオナの携帯だった。
チカチカとした光が新しくメッセージが送られてきたことを伝えてくる。レオナが携帯に手を伸ばし電源ボタンを押すと、そこにはこの状況の全てを解決できる人物の名前があった。
レオナの唇が弧を描く。レオナは画面に映ったメッセージをタップすることなく、そのまま電話のツールを開き、目的の人物に電話を入れる。
二コール。相手もすぐ手に取れる位置に携帯を置いていたのだろう。電話はすぐに繋がった。
「おい、今すぐ俺の部屋に来い」
向こうから戸惑うような声が聞こえたが、一切の聞き耳を持たず通話を切る。どうせ、部屋に行ってもいいかの伺いのメッセージだろう。結果的に呼びつけるのだから、電話だろうがメッセージだろうが、どちらでも構わないはずだ。
レオナは目的の人物が来るまでの準備として、ベッド横にあるクローゼットからあるものを取り出す。箱の中身を確認すると、今日使うには十分の量が入っていた。そしてもう一つ取り出したボトルも、半分ほど中身は残っている。
優れた聴覚が小さな音を聞き取る。部屋の外からは聞きなれた足音が近づいてきていた。こちらの言いつけ通り、すぐに部屋から飛び出してきたのだろう。
レオナは手に持ったボトルを上機嫌に転がした。そして、部屋のドアがノックされる。
「すいません、レオナ先輩。ジャックです」
予想通りの人物にレオナの目が細まる。
「入れ」
「失礼します」
ドアを開けて入ってきたジャックは、髪が下ろされ、いつもりもいくぶんか幼さを感じさせる格好だった。
部屋で寛いでいたのだろう。服装は上下ともグレーのナイトウェアだ。
レオナは部屋に入ってきたジャックに腕を伸ばす。
「ジャック。こっちに来い」
レオナはベッドの上に腰かけ、指先を軽く曲げてジャックを誘う。その意図が理解できないほど初な関係は築いていない。
ジャックは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、次の瞬間には少し頬を赤らせながらおとなしくレオナのもとに歩み寄ってきた。
これでレオナの欲が満たされる。誘われるまま素直にベッドに腰かけたジャックを見て、レオナは満足そうに微笑んだ。