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    はなねこ

    胃腸が弱いおじいちゃんです
    美少年シリーズ(ながこだ・みちまゆ・探偵団)や水星の魔女(シャディミオ)のSSを投稿しています
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    はなねこ

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    美茶謎展示のみちまゆっぽいSSその2です。みちまゆ推進委員会様のラジオを聴いている時に、某少年漫画の桜餅のエピソードをみちまゆでやってほしいなあと思い書いてみた、双方無自覚なみちまゆ小話です。

    #みちまゆ
    eyebrowsOnTheRoad

    恋する桜餅 今日も今日とて、〇・一秒も思い迷うことなく美術室の扉を開けたわたし瞳島眉美を持ち受けていたのは、季節外れの桜の香りと、世にも奇妙な光景だった――ソファに腰を下ろした美少年達が、そろいもそろってタオルで顔を覆っているのだ。
     これが漫画なら、彼らの頭上に「しくしく」という擬音が踊っていたかもしれない。一瞬、涙を拭っているのかと思ったが、どうやら違う。よくよく見てみれば、洗顔を終えた後に濡れた顔をタオルで拭いている、という表現が近い。
    「みんなそろって、どうしたっていうのよ?」
     訊ねながら、わたしはテーブルの上に用意された本日のお茶請け――季節外れの桜の香りの正体――漆器の銘々皿にひとつだけ残っていた桜餅へ手を伸ばした。
    「どうもこうも……って、眉美ちゃん! ストップ! ステイ!」
    「おいこら食うなっ!」
     わたしを止めようとする生足くんと不良くんの声がシンクロしたけれど、一歩遅かった。逆に急に声を掛けられたので、わたしは驚いて、ひと口かじった桜餅をじっくり味わう前にごくんと飲み込んでしまった。喉が詰まりそうになる。不良くんが咄嗟に湯呑みを差し出してくれたから、喉を詰まらせる前にほどよい熱さの煎茶で桜餅のかけらを流し込めたけれど……。
    「けほっ……、死ぬかと思ったわ……」
     ひと息つく間もなく、視線を感じてはっと目を上げると、美しい十の瞳がわたしを見つめていた。それはもう、穴が開いてしまうんじゃあないかと思えるほどじっくりと。
    「な、なによ、みんなして。わたしの顔に何かついているっていうの?」
    「いえ、むしろ『ついていない』と思いまして」
     先輩くんが歯切れの悪い声でつぶやいた。
    「はあ?」
     ついていないって、何がついていないっていうのよ、ちっとも意味が分からない。
     それより何より本日の課業を終えて腹ぺこなのよ、疲れた脳が糖分を欲しているのよ。いいから桜餅を食べさせてよ。
     もうひと口、桜餅にかぶりつこうとしたわたしを、
    「食うなっつってんだろ!」
     今度は不良くんが実力行使で止めた。正確にいえば、桜餅にかぶりつく前に、大きく開けたわたしの口は不良くんの手のひらで一部の隙もなくふさがれてしまったのだ。――殺す気か! 酸欠で死ぬなんてまっぴらごめんだわ!
    「ぷはっ! そんなにわたしに桜餅を食べさせたくないの? ひとつだけ残っていたってことは、この桜餅はわたし用だし、みんなは自分の分を食べたってことでしょ? わたしだけ食べちゃダメなんて、どういう仲間はずれなのよ」
    「確かに食べたけどよ……」
     心なしか不良くんの歯切れも悪い。桜餅ひとつに、何を狼狽えているのだろう。
     不良くんに代わって、詳細を述べたのはリーダーだった。
    「眉美くん、誤解を与えてしまって申し訳ない。君を仲間はずれにしようだなんて僕達はこれっぽっちも考えていないとも。君も察していると思うが、この桜餅はミチルのお手製だ。だがしかし、この桜餅はただの桜餅ではない。実は驚くような仕掛けが施されていたのだよ。君を止めたのは、その仕掛けのためだ」
    「仕掛け?」
    「そう、まるで魔法のような仕掛けだ!」
     リーダーが説明してくれた内容を簡潔にまとめると、この桜餅は、数日前に人通りの少ない路地を歩いていた不良くんが、たまたま見かけた露店で入手した手作り桜餅キットを使って本日のお茶請け用に作ったものとのこと。季節外れではあるけれど、桜餅の手作りキットなんて珍しいから、あまり深く考えずについ購入してしまったらしい(人通りの少ない路地の露店って時点でもうちょっと怪しんでほしい)。桜の葉の塩漬けや白玉粉、あんこといった材料がきっちり六人前セットされていたので、特に味見はせず(そして、わたしの到着も待たずに!)、不良くんも含めた五人全員で桜餅にかぶりついたところ、五人の顔に思いがけない変化があらわれたのだ。
    「変化って、どんな変化?」
    「バツマークだ」
     ある者は頬に、ある者は額に、ある者は鼻の頭に、握りこぶしほどの大きさの黒いバツマークが浮かび上がったというのだ。
    「何それ! めちゃくちゃ見たいんだけど!」
    「笑いごとじゃないよー、眉美ちゃん。いきなりバッテンが浮かんできから、もうびっくりどころの騒ぎじゃなかったんだよ。このまま一生バッテンが落ちなかったらどうしようかと思ったし」
     桜餅の作り手である不良くんは、バツマーク以外にも大事があってはいけないと思い、慌ててトリセツを確認した。実はこの手作り桜餅キットには世にもふしぎないたずら成分が仕込まれており、桜餅を食べたひとの顔にバツマークが浮かび上がるのも、このいたずら成分に拠るものだったらしい。ちなみに人体に害はないとのこと。不良くんは作り方しか見ていなかったので、この仕掛けの説明にまったく気づいていなかったそうだ(大事ないと判明した後、かぶりつかれた桜餅は美少年達によっておいしく完食されたという次第)。
    「バツマークは水性だと取扱説明書に但し書きが添えてあったそうなので試しに石けんで洗ってみたところ、こうして無事にバツマークを落とすことができたのだ!」
     顔を洗って僕はたいそうさっぱりしたぞ、怪我の功名というヤツだ、と、つるつるつやつやの美しい頬をほころばせてリーダーが笑う。
    「だからわたしが美術室に入ってきた時に、みんなはタオルで顔を拭いていたのね。って、桜餅を食べたら顔にバツマークが出るってことは、え? わたしの顔にも? ひと口食べちゃったけど、わたしの顔にも今現在バツマークが出ちゃっているの?」
    「いえ、安心してください。理由は不明ですが、眉美さんの顔にはバツマークは出ていません。先ほど我々が眉美さんの顔を凝視していたのは、どこかに小さくてもバツマークが浮かんでいないだろうかと確認していたからですよ」
    「そうなんだ。バツマークを免れたのはうれしいけれど、わたしに印がでなかったのはなぜかしら……。わたしが食べた桜餅は、実は不良くんが作ったものじゃなかったとか?」
     不良くんが心外だと言わんばかりに眉根を寄せる。
    「ああ? 世迷いごとを抜かしてんじゃねえよ。この場所で俺がおまえに、俺以外が作ったものを食わせるわけがねえだろ」
    「まゆ、ここに」
     と、ふいに伸びてきた天才児くんの白衣の袖が、わたしの頬に触れた。
    「桜だ」
     ――さくら?
    「本当だ。さっきは気づかなかったけど、ソーサクの言う通り、眉美ちゃんの右のほっぺたにバツマークじゃなくて桜の花びらみたいな模様が浮かんでいるよ」
    「え? マジかよ?」
     鏡を持ち合わせていなかったので、壁際のアンティークなデザインのドレッシングチェストの前まで行き、ぴかぴかに磨き込まれた鏡に自分の顔を映してみる。確かに、わたしの右の頬には、淡いピンク色の口紅で描いたような桜の花びらの模様がくっきり浮かんでいた。見ようによってはハートマークに見えないこともない。
    「バツマークではなく桜の花びらの印……? これはいったいどういうことなのでしょうか……」
    「なあに、極めて簡単なことだ」
     首を傾げる先輩くんに向かって、リーダーは自信たっぷりにうなずいてみせた。
    「この桜餅は、眉美くんを寿いでいるのだよ」
     桜餅がわたしをことほぐ?
     リーダーのひと言をいまいち理解できないわたしとは逆に、先輩くんは「なるほど」と手を打ち、腑に落ちた様子で言葉を継いだ。
    「桜餅は上巳の節句でふるまわれる雛菓子のひとつといわれていますからね。子女の健やかな健康や厄除を願って食されるものであるのに、祝われるはずの子女の顔に否定を意味するバツマークを浮かび上がらせるなんて、慶祝の意を逆走して忌まわしいにもほどがあります。バツマークの代わりに桜の花びらの印が浮かんだのは、おそらくこの桜餅の粋な計らいなのでしょう。さすがは我らが団長。目のつけどころがひと味違いますね」
    「はあ……。要するに、わたしが女子だから、バツマークじゃなくて桜の花びらの印が浮かんだってことか」
     桜餅が自我を持つ――なかなか面妖な話だ。
     ふしぎよね、不良くん、と声を掛けたのに、不良くんから芳しい反応が返ってこない。無視かよ。
     さっきから黙りこくっていた不良くんは、わたしの視線に気づいたのか、熱心に目を通していた紙(おそらく手作り桜餅キットのトリセツ)から顔を上げた。切れ長の瞳がまっすぐにわたしの右頬――桜の花びらの印をとらえた。とらえたのは確かなのに、次の瞬間、不良くんはわたしから目線を逸らせた。態度が悪いぞ。
    「何よ」
    「何でもねえよ」
    「何でもないってことはないでしょ。明らかにギクリとしていたくせに。どうもそのトリセツが怪しい気がするわ。ちょっと見せてよ」
    「断る」
     短く言い放つや否や、不良くんはくしゃくしゃに丸めたトリセツを、荒々しい手つきで制服のポケットへ突っ込んだ。結局わたしと視線を合わせないまま、不良くんはトレイに湯呑みと急須をのせて、そそくさと厨房へ去っていってしまった。
    「無視だけじゃなくて知らんぷりって何なのよ。失礼しちゃうわ」
     胸の内側にモヤモヤ(――モヤモヤ?)を残したまま、ソファのひとつに再び腰を落ち着け、わたしはひと口かじりついたきり放置していた桜餅の続きを食べ始めた。
     さっきはすぐに飲み込んでしまったから桜の香りや風味を味わうどころじゃなかったけれど、やっぱりおいしい。くやしいくらいにおいしい。あまりのおいしさに口の中がとろけてしまいそうになる。ほっぺたが落ちそうになる。モヤモヤだってするするほどけていく。
     おそらくあと数分もすれば、不良くんはわたしのために淹れ直した熱い煎茶をトレイにのせて厨房から戻ってくるだろう。桜餅の感想は、それから伝えればいいし、知らんぷりの理由も、それから聞けばいい。
     さて、その時のわたしは、桜餅を食べることにすっかり夢中になっていたので、リラックスした様子で向かい側のソファに腹這いになっていた生足くんが美脚をぶらぶらさせながらこぼしたつぶやきを聞き逃してしまった。
    「――ミチルが丸めたトリセツの二枚目に『恋占い』って文字が見えた気がするけど、ボクの気のせいかなー。ふふん、あの桜餅、ひょっとすると、作ったひとの運命の相手が食べるとバッテンじゃなくて桜の印が浮かぶっていうロマンティックなカラクリが仕掛けてあるのかもしれないねー」
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