ねえ?(サイド美食)「――だから、今のは、なし。全部なし。わたしは何も言わなかったし、不良くんも何も聞かなかったことにして」
そうよそうだよ、そういうことにしよう……と、まくし立てて、眉美は俺に背を向けた。――向けようとした。
できなかったのは、させなかったのは、俺が引き止めたからだ。ほぼ無意識に。
伸ばした手で眉美の肩をつかむ。俺の手を振り払うことなく、それでも戸惑いをにじませた目で、眉美が俺を見上げる。
小さな顔に覆い被さるように、俺はゆっくりと上体を傾けた。
「不良くん?」
ふざけたあだ名で俺を呼ぶ唇に、かすめるように触れた。とくん……と、俺のものなのか眉美のものなのか分からねえが、心臓が跳ねる音が聞こえた。
そっと、唇を離す。
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