「今日はお姉さんになんでもおねだりなさい!」
エレンくんを連れてやって来たのは駅前の商業施設。平日に休みをもぎ取って春休み中のエレンくんを連れ出したのだが、当の本人はというと遠慮がちに「この歳になってそんな物欲ねえよ」などとすかした事を言っている。
「カルラさんから言われてるの。エレンくん、この休み実家帰らないんでしょ? 次会えるのいつになるかわかんないから、代わりに誕生日プレゼント買いに連れてってやってって」
「母さんの言うこといちいち聞かなくていいのに……」
「お母さんの言うことはちゃんと聞きなさい」
「うるせえ……」
夜は去年と同じく、ミカサちゃんとアルミンくんをはじめ、同期のお友達が祝ってくれるようなのでそれまでに帰宅しなくてはならない。今年はアルミンくんが「お姉さんもどうですか」と誘ってくれたので、夜のパーティーにも参加する予定だ。そして、その会場はわたしの隣の部屋、リヴァイさんの部屋ということもあり、お邪魔するにあたって手土産も見繕わなければならない。インフォメーションセンターで貰ったフロアガイドを片手に、スイーツコーナーはあっちか……などと考えながら売り場を歩いていた。それにしてもリヴァイさん、よく部屋使わせてくれたなあ。彼の部屋は単身者向けのわたしとエレンくんの部屋よりも広く、部屋数も多い。とはいえ、若い子たちが集まって騒ぐのをよく許可してくれたなと思う。
「ねえエレンくん、リヴァイさん家に持ってくお土産なんだけど、やっぱり紅茶……」
ふと顔を上げ、前を歩いていたエレンくんに話しかけた。振り向いたのは見知らぬ男性。訝しげにこちらを見る男性は「人違いです」と言い残し、そのまま立ち去ってしまった。
「エレンくん……? あれ?」
やってしまった。意気揚々とお姉さん風を吹かせておいて迷子になるなんて。あまりにも恥ずかしすぎる。売り場をきょろきょろと見渡してみるが、エレンくんらしき人物の姿はどこにもない。
「え、うそ……」
慌ててスマートフォンを取り出し、エレンくんに電話をかける。しかし、鞄に入れたまま気付かないのか、何度鳴らしてもエレンくんが電話に出ることはなかった。
「どうしよ……迷子のアナウンスしかない? でも絶対怒られるよな~……」
「何をブツブツ抜かしてやがる。相変わらず妙な女だな」
「……え?」
突然背後から罵倒され、振り返るとそこにはリヴァイさんが立っていた。
「り、リヴァイさん……!」
「お前一人か?」
「よくぞ聞いてくれました!! 実は、エレンくんと来てたんですけどはぐれてしまって……」
「はあ? エレンなら後ろにいるだろうが」
「え……っ? え、」
さらに振り返るとそこにはさっき確かにはぐれたはずのエレンくんの姿。手には濡れたハンカチが握られている。
「わりい。トイレ行ってた……ってリヴァイさん!?」
「おい、エレン。こいつがえらく探してたぞ。人混みでちょろちょろすんじゃねえ」
リヴァイさんからの指摘に「すみません」と素直に謝るエレンくん。もっとわたしにも素直になってくれてもいいのに。と思いながら二人を見守る。まあ、そういうところもかわいいんだけど。
「今日の準備に来たんだが……エレン、お前がいるなら話は早い。食いたい物を自分で選べ」
「え、いいんすか?」
「ガキどもが食いてえ飯なんか考えても分からねえからな。探す手間が省けた」
結局二人して買い出しに付いていくことになり、リヴァイさん家への手土産は選べずじまいとなった。また今度お礼にちょっと良い紅茶でも差し上げようと思う。両手いっぱいに袋を抱えるエレンくんの姿をこっそり写真に収め、カルラさんに送信した。