0629 はいめつ、って一体どこまで滅するおつもりなんでしょう。冷たい石壁に頬を付けて凭れ掛かる女が私にそう尋ねた。
「それは勿論、人類を廃滅させるのでしょう」
「それはわかってます」
女は私が拾った漂流者擬きだ。私が拾って連れて来たのでこの女の世話は私が焼くことになっている。この女も漂流者同様、異世界から飛来した異物だった。女には廃城の侍共のような戦闘力こそ無いものの、女の生まれた時代は我々の居た時代より遥か先の未来であることが女との会話で判明した。戦闘のうえでは脅威にすら成り得ないが、我々黒王軍にも漂流者側にもない新しい時代の知識は、いつか何らかの利用価値を見出せるやも知れない。女を囲うことに決めたのはそう企んでのことだった。
「黒王さまの念願が成就したら、どうなるんでしょうか。わたしたち」
「さあ」
「さあ、って……棄てられちゃったらどうするんですか。あなたたちは廃棄物なんでしょ。役目が終わった廃棄物を黒王さまがどうするか、考えたことないんですか」
女は目を丸くし、信じられないといった顔をした。女は以前から私への忠誠心は滲ませていたものの、黒王様にはどこか懐疑的だった。しかし私はそれを見逃し、黒王様にもひた隠していた。いつかこの女が過ちを犯そうとするなら私で粛清すれば良い。この女の命を握っているのは私なのだから。
私は顎に手を添えわざとらしく考える素振りを見せた。いくら黒王様とて念願成就したからと言ってそう簡単に我々を手放す訳がない。何処からか漂流者が送られてくるその仕組みも不明であるのに、それを迎え撃つ戦力を手放すものか。理屈ではそう思いながら、私は女のその浅はかさがかわいらしかった。
「そうですねえ、そしたらふたりで逃げましょうか」
私がそう愚かな提案をすると、女は頬を染めた。