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    asumafriday

    遊馬(@asumafriday)の壁です。五悠。

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    【その2】呪力はなくなったけど記憶と金と顔と足の長さは繰り越したさとるが、呪力も記憶も無い恵と野薔薇を拾って育ててたら、悠仁と出会っちゃった話。の続き〜!

    #五悠
    fiveYo

    かぞくのとびら(The way to say I'm home.)2.


    ずっとずっと昔、僕たちが出会ったのも、確かこんな季節だった。


    悠仁は、幼稚園教諭免許と保育士資格の両方を武器に、産休代理や急な人手不足を助けるフリーランスとして各地の幼稚園や保育園、こども園を転々としているらしかった。
    なにその絶対失敗しない医者、みたいな話。保育士Xか?
    どこの園で働いても、あっという間に園児の人気を掻っさらい、職員と保護者の信頼を掻っさらい、さらに、園の周りをうろつく不審者や早朝の園を狙った空き巣なんかも捕まえるもんだから「保育士傭兵」なんて呼ばれ生ける伝説と化していると、今日本来の目的であった園長との面談で雑談ついでに教えてもらった。ほ、保育士Xどころじゃなかった。

    ちなみに、面談の内容は家での子供たちの様子や僕の仕事と育児とのバランスのことが主で、話せば虐待やネグレクトなんかの疑いはちゃんと晴れたようだった。
    僕のような男、金と社会的地位はそれなりにあっても(あと、顔が非常に良くて足がやたら長くても)〝園で預かる子供の保護者〟としては信用されないのは当然で、僕は僕で幼稚園のことを金を払って受けるサービスのひとつ、くらいの認識でいたし、〝大切な子供を預けている大人〟として信用していたかといえば、あまりそうではなかった。
    今回こうやって面と向かって話をしたことで、ここの大人たちは僕が思っている以上に、子供たちを見てくれていることがわかった。僕のことも、多少なりともわかってもらえたと思う。
    入園以来、見えないけれど確かにあった壁は、少し、薄くなった。

    子供たちの未来は、きっと明るい。

    そして、僕も。


    恵と野薔薇同様、記憶は無いようだったけれど、あの髪、顔、声、間違える訳がなかった。


    悠仁に、逢えた。


    その日は、家に帰ってもなにも手につかず、とてもじゃないけど夕飯なんか作る気にはなれなかった。
    結局近所の回る寿司に行って、寿司特急にはしゃぎながら寿司を頬張る二人を、僕はふわふわした気持ちでただただ眺めていた。サーモン、いくら、はまち、ハンバーグ、ハンバーグ、ハンバーグ……君たちハンバーグ好きだね…。

    そのせいなのか何なのか、夜には新幹線に乗って悠仁がやって来る夢を見た。せんせーおかえり〜!出張どうだった?え、強かった?怪我……するわけねーか!ふは、やっぱ最強かっけえね!あ、おみやげ?あんがとー!一緒に食べよ!
    なんか、そんなことを言っていた気がする。

    目が覚めて、なんだ夢かよと落ち込みそうになったけれど、そうだ、夢じゃ、なかった。

    悠仁に、逢えた。




    「あ、五条さん、おかえりなさーい」
    「どーも」
    「今週もお疲れ様でした」
    「虎杖先生も」
    「へへ」

    今日も、動物がデカデカとプリントされたエプロンをつけた悠仁が僕を迎えてくれた。
    あれから1ヶ月。子供達は相変わらず、毎日競い合うように幼稚園へ行き、閉園時間までひたすら悠仁を取り合っているらしかった。僕はといえば、5日、つまり1週間に一回くらいのペースで迎えに行くようになった。金曜日の今日も、なんとか仕事は片付けた。
    二人からは、保護者と先生方がやたら騒ぐから迎えには来るなと言われているけれど(いつのまにかそういう事を言ってくるようになった)部下たちだってどうしても抜けられない仕事が入る日はあるし、シッターもいい歳なんだ、休みが欲しいだろ。それらを入れるのは、まあ、僕なんだけれど。

    ほとんどの園児が園バスで登降園している中で、自分たちは毎日と言っていいほど延長保育を利用し、保護者である僕が直接迎えに行っている。悠仁と会えるチャンスは多い。

    「五条恵〜野薔薇〜!お迎えきたぞ〜」

    悠仁が、教室の中にいる二人に声をかける。こんなとき彼らは決まって「なんでお前なんだよ」って顔をする。僕で悪かったな。

    二人は自分でカバンを背負い、教室の外で待つ僕のところへやってきて

    「先生、さようなら」
    「はい、さようなら」

    一緒に待っていた悠仁とハイタッチをした。普段は「いたどり!」呼ばわりなのに、こういう儀式めいたことはちゃんと「先生」と呼ぶところが子供らしい。

    「あ、そだ!五条さん、来週からプールが始まるんで、水着と水泳帽とタオル、持たせてくださいね」
    「あ!忘れてた」
    「だろうと思った!まだ週末あるから大丈夫でしょ」
    「うん、言ってくれて助かった。ありがと」
    「じゃあ、また来週!」

    子供たちの手をひいて、「今日もありがとうございました」と悠仁に頭を下げる。
    男親と男性教諭だからか、子供たちが懐いているからか、他の保護者よりもフランクに接してくれている気はするけれど、まあ、それどまりだった。「先生さようなら」以上になるには何をしたらいいんだっけ。指食わせて拉致監禁?今思えばドンびき事案でも、それでうまくいった過去があるだけに他の手段が思いつかない。
    生まれてこの方、いや、そのずっと前から、大概のことを顔と金でゴリ押ししてきた五条悟の手数は、実は少ない。

    車の後部座席に並べて取り付けてあるジュニアシートに二人を乗せて、シートベルトを締めてやる、これがなかなか時間がかかる。カーナビのモニタであれが見たいこれが見たいと野薔薇のリクエストを聞きながら、自分も乗り込みエンジンのボタンを押す。同時に恵が口を開いた。

    「いたどりだ」

    パーキングブレーキを解除してアクセルを踏もうとした瞬間だった。職員用の門から悠仁がマウンテンバイクを押しながら出てくるのが見えた。自転車通勤してるのか。
    手元のスイッチでうしろのパワーウィンドウを下げてやると、野薔薇が顔を出した。

    「いたどり〜!」
    「お、さっきさよならしたのにまた会っちゃったな」

    にか!と笑って応える悠仁は太めのワイヤーロックを身体に斜めがけにしていた。かわいい。運転席側の窓もあけて、僕も声をかける。

    「虎杖先生今日はもう上がり?自転車?似合うね、赤いマウンテンバイク」
    「うん。チャリ通!五条さんこそ、車かっけえね!」

    子供を乗せるから、でかいやつなら何でも、と思って買った車だったけれど、こいつにして良かった。グッジョブGクラス。(五条なだけにね!)

    「ありがと。でも自転車だと乗ってく?って言えないじゃん」
    「あはは!」

    あははじゃねーよ口説いてんだよ。心の中で呟く。悠仁と再会してから、いつもそう。届きそうなのに、ちっとも届かない。
    本当は、少しかさついた手に触れたい。ふわふわの髪を撫でたい。筋肉質な身体を抱きしめたい。すぐ真っ赤になる耳元でだいすきだよって囁きたい。その先だって。

    だけど現実は「じゃあね!」と手を振り合って、おしまい。
    まさしく先生さようなら。

    一体どうすれば悠仁との、先生と保護者の距離は縮まるのかな、いや、常識的に考えてそんなものおいそれと縮まってもらっちゃ困るんだろうけど、この際それは置いておく。グッバイコンプライアンス。そんなことばかりを考えながら、今日も夕飯の準備を始める。宅配サービスのミールキットは子供たちになかなか好評だった。
    その彼らは、僕が料理している間、キッチンから見えるリビングでサブスクのアニメを見る。いつものルーティンだった。
    二人が最近夢中になっているのは名前だけは聞いたことのある野球少年の話で、驚くことに割と早い段階で、母親のいない主人公が通う保育園の先生と、主人公の父親がくっついた。

    は、もしかして。

    「何、これ参考にしろって…?」

    か…可愛いとこあんじゃん…。

    夜、二人が寝た後にこっそり続きを見たら、早々に父親がこの世を去った。おい嘘だろ。
    でも、普通に面白かったからその日のうちに通販サイトで原作を全巻買った。予想以上の御長寿まんがだった。

    ついでに、来週から始まるプールのために、水着と水泳帽、ラップタオル、バッグも注文した。明日届くらしい。サンキュープライム。

    「プールかあ…」

    あの頃は、死と隣り合わせの世界で、そういう楽しいこと、あまりさせてあげられなかったな。

    来週の天気はどうだろうか。
    晴れるといいな。
    なんならめちゃくちゃ暑くなりますように。


    夏が、すぐそこまできていた。



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