ついぞ使う機会のなかった書き散らしシーン「ちょ……っ、何で同じとこ入って来んだよ!?」
「仕方ないでしょ!? 他に隠れるとこなかったんだもん!!」
押し殺した声で問えば、同じように押し殺した声で返される答え。
明らかに無理がある、と言うのは、ミツキも重々承知しているのだろう。人一人がぎりぎり身を潜ませられるか否か、と言う狭いロッカーである。閃光は日本人男性としては、決して小柄ではない。
それでもえいや、と無理矢理に扉を閉めたのは、追手の影がすぐそこまで迫っていたからだ。躊躇も思考も遠慮もしている暇などなかった。
命大事に、はお互い様だと判断したのか、閃光は小さく舌打ちを溢すとミツキの腰を抱き寄せた。
「ひぇあ……っ!?」
と上げかけた悲鳴を寸手で飲み込んだのは、その行為が決して色っぽい理由からではなかったからだ。身体を盾にするように閃光は扉に背を向け、ジャケットの内側へ庇われる。
ーーあ、
がしゃん、がしゃん、と規則正しく近付いて来る金属製の足音。果たしてあれは、二人に気づかずそのまま見過ごしてくれるだろうか。
頭を抱え込まれているせいで、何も見えない。
いつもの閃光の煙草と整髪料の匂いが、閉ざした五感の中で唯一確かに感じられる。ぎゅっ、と力が込められる腕が熱い。低くした呼吸、シャツ越しに早鐘のような鼓動。この不遜な怪盗でも緊張することなどあるのだと、場違いなことがミツキの脳裏をよぎった。
がしゃん、がしゃん……
大きくなった足音はもうすぐそこだ。
ーーお願い、そのままあっち行って……っ!!