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    ゆうに

    五悠!!!!!!!!!!!

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    ゆうに

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    キス顔でパケ死する五悠の話
    配布したものに、最後五視点追加あります。

    12/11無配小説『キス顔送ってよ』
     虎杖は寝転がっていた身体を、飛び上がるように起こした。スマートフォンを落とし掛けて、慌てて手の中で転がす。五条から送られてきたラインには、語尾にハートマークが踊る絵文字が付いていた。更にダメ押しのように、『おねがい』とのスタンプが届く。五条は出張中で、ラインでそのことを知らされた。いってらっしゃいを直接伝えたかった、なんて狭いベッドの上を転がりながら、ちょっぴり虎杖は拗ねていた。ひとりきりの寮の部屋はさびしい。そして恋人である五条から送られて来た、キス顔とやらを催促するメッセージが、黄色い背景で踊っていた。虎杖のラインは、虎のアイコンに合わせて、着せ替えも虎柄になっている。キス顔、ってどんなん? と、虎杖はどきどきしながら返信する。
    『こんなん』送るが早いか、すぐに五条から画像が送られて来る。
    「ンぐっっ」
     サムネイルの時点でやばかったが、タップで開くと、もっと破壊力があった。上から撮影したらしく、五条を見下ろすような角度で撮影されている自撮りだ。五条より背の低い虎杖には、中々叶わないシュチュエーション。自動販売機の最上部のジュースくらいにしか出来ない、いや、五条は自販機よりも大きいのだった。
     目を瞑っていると、雪のような睫毛とその長さが際立つ。唇はいつものごとくつやっつやだった。「普段からどんなケアしてんだアイツ、いや知りたくない、同じケアとか別にしたくない」なんて釘崎がぼやいていたっけ。虎杖はすっぽりと枕に顔を埋めた。
    「ンあああああァぃっ!」と虎杖は意味のない雄叫びを上げた。一応隣室の伏黒に気を遣った感情の爆発である。
    「俺の彼氏なんだよねぇねぇ見て見て!」とスキップで高専中に見せびらかしたい衝動と、「こんなん絶対誰にも見せられんし! 俺だけのもん!」と宝物を隠すように内緒にしていたい昂りにサンドイッチされて、虎杖はどうにかなってしまいそうだった。
    「すき!」虎杖はすかさず返信する。
    『僕も悠仁すき! だからねっ、悠仁もキス顔送って! ね!』
    「よし来た! 度肝抜かせちゃる!」
    『たのしみ!』
     虎杖はスマホを構えて自撮りを始めた。しかしこれが案外難しい。五条の写真のように目を瞑ると、ピントがずれる。薄目を開けたまま撮っていると、一気に冷めてしまった。
    (五条先生が見ておもしろいのかな、これ)
     いつも五条がこのキス顔を見ているのだと思うと、なんだか恥ずかしい。
    「やっぱやめない? なんかさぁ、撮ってみたけど全米が度肝抜いたって感じになっちゃって」
    『撮ったんなら全部余さず送ってよ! 悠仁の全部ちょうだいプリーズ!』
    「なんかきもい感じになったからやめといた方がいいよ」
     すぐに五条から着信が掛かった。ラインの音声通話からではなく電話だった。虎杖はメッセージの続きをフリックしていたので、出る出ないを迷う前に画面を押してしまい、電話に出てしまった。
    『きもくねーから』
     五条の口調は、はっきりと断言するものだった。
    『僕の彼氏、世界一だから。かっこいいし、世界に自慢出来る、写真だって全人類に見せびらかしてやりたいくらいに。いや、僕が独り占めしてやる』
    「――ふはっ」
     同じことを考えていた。虎杖だって五条を独り占めしていたいし、虎杖の全部をあげたい。
     撮った写真は全て送信した。ピントが合わないものも、半目になっているものも全部。
    『最高! 動画も送って!』
    「注文多! つかもうビデオ通話しない?」
     ここで虎杖は、あることに気が付いた。五条の声の後ろから、聞き慣れない言葉が聞こえたのだ。一人二人じゃない、雑踏の中のような。声の大きい集団が居るようで、日本語ではなく、英語を喋っているようだった。
    「……五条先生? 今何処にいんの……?」
    『ん? カフェだけど』
    「……場所は……?」
    『場所って、カフェはカフェだよ? あ、周りうるさかった? 移動しよっか?』
    「日本じゃないよねそこ? 何かアメリカ語が聞こえるよ」
    『アメリカだからアメリカ語は聞こえるだろうね』
    「ちょま……っ、せ、先生、国際ローミング大丈夫 いや、画像お互いめちゃ送ったけど、や、やばいっしょ! 海外じゃん! 通信費アホみたいに高くなんじゃん」
    『僕からの発信だから気にしなくていーよぉ』
    「よくねーよぉ 切るよ! んでもう日本帰って来るまで連絡しないで! 俺もしねぇから!」
     一秒でも早く通信を遮断せねば。通話終了ボタンを押して会話を無理矢理終わらせた。
     キス顔写真を送っただけで何十万円掛けるとかありえないから! と、虎杖はスマホをベッドに放り投げた。そんな値打ちが俺の自撮りにあるものか、と虎杖は頭を抱えた。五条の写真を欲しがる者は掃いて捨てる程居るだろうし、金額を惜しまない人も居るかもしれない。そもそも日本に居れば月々の通信費で済む金額なのに、よりにもよって海外に居るせいで、とんでもない請求が五条に来るなんて。虎杖だって五条からラインを受信しているが、定額サービスに加入しているので、高額な請求は来ない筈だが、五条の方はどうだかわからない。俺が払うべきだ、と虎杖は決意する。そもそも海外出張してるならそう言って欲しい。虎杖は溜め息で肺活量新記録を狙える程に、長い時間を掛けて肺の空気を吐き出した。
     ベッドの上のスマホが震える。着信音が、五条からの電話を教えていた。すぐさま通話拒否ボタンを押した。何考えているのだ。こんなことの為に高級取りの呪術師やってるわけじゃないだろ。
     ノックの音がして、返事の前に隣室の友だちが入って来た。
    「虎杖、電話なら談話室にでも行ってやれ、会話聞かれたくないんなら外行け」
     話し声がうるさかったのか、伏黒が苦情を伝えに来た。迷惑そうに目付きを細める伏黒に、虎杖はわっと泣き付いた。
    「伏黒きゅん〜! 実はかくかくしかじかで!」
    「スマホの電源落とせ」
    「俺まだかくかくしかじかとしか言ってねぇよ これって俺らマブダチ以心伝心ってる」
    「五条先生からの鬼電に出ないってことは理由あんだろ、で、あの人が全面的に悪いんだろ、着信拒否しろ」
    「いや俺も悪いし、つか着拒はちょっと」
    「オマエが出来ないんなら俺が代行してやる」
    「いや、それが……」
     虎杖ははしょらずに、きちんと現状を伝えた。伏黒の意見は変わらず、「ブロックしろ」と五条との断絶を薦めるだけだった。
     今後の関係悪化が目的じゃない、わざわざ高額な通信費を払う必要など、ないだけなのだ。しかし五条からの鬼電は止まない。病んでるかのように止まない。
    「別にわざわざ高い金払ってまで海外電話とかしなくてもいーじゃん! ただ話すだけってんなら、日本帰ってからでもいーじゃんか!」
    「前は、五条先生の出張の間に、オマエ死んだからな」
     伏黒の目は、指を気付かぬ間に切ってしまう紙のようだった。
    「呪術界は、人が知らない間に死んでるなんて当たり前だ。だからこそ、声を聞いておきたいってことも、あるんじゃないか」
     冷たい空気を震わせる、弾んだ声音がリフレインする。湿気くさい処置室で、目覚めたばかりの虎杖を迎えた声が蘇る。
     ――『おかえり!』
     五条は目隠しだったけれど、喜んでいるのだと、掲げた手のひらと声が教えていた。
     ただいま、とハイタッチして、手を叩いた乾いた痛みと、手の熱が、生き返ったことを一番に虎杖に教えた。死んでいたから身体が冷たかったのだろうけれど、五条の熱が、痛いくらいに皮膚を焦がした。いつだって、五条は教えてくれる。最強を、戦い方を、必殺技を、居場所がここにあるのだと。
    「出張が多い人だし、海外渡航経験も少なくないだろ、通信費のことだってわかってるだろうし、学生が大人の懐具合を気にする必要はねぇんじゃねぇか。本人が大丈夫って言ってんだし、どうせ五条先生の金だし。海外定額だかに入ってるかも知れないし」
    「……ありがとう、伏黒」
     着信が途切れては一秒後に着信が入るスマホは割りかしホラーではあるが、晴れやかな気持ちで応答ボタンを押す。伏黒は背を向け、右手を振りながら部屋を去った。
    「五条先生。ごめんね電話切って、そんで今まで無視して」
    『悠仁! いいんだよ出てくれれば! スマホ画面通して身体行き来する方法考えてたところだったけど』
    「貞子じゃんホラーじゃん! でもいいの、通信費とか」
    『歳下の恋人にお金のこと心配されるほど、甲斐性なしじゃないよ、悠仁と話したかったし、キス顔欲しかったから』
    「うん、俺も五条先生と話したかった」
     離れているとどうしようもなくさびしくて、声が聴けると飛び跳ねたいほど嬉しい。
    「でもやっぱ画像送信に何十万も掛かるのはやべーよ、俺のキス顔に誰もそんな値打ち付けないだろ」
    『ここに居るし、画像全部保存したし! ロック画面とホーム画面に設定したし、クラウドにバックアップしたし、日本に帰ったらプリントアウトして部屋に飾るし!』
    「もー、そんなおもしろいことばっか言ってぇ」
    『まじまじ、あはは』
    「あはは〜」
     五条の言葉が全て真実だと虎杖が知るのは、もう少し後の話、虎杖が五条の部屋に訪れた時である。
    「でも、お金が心配ないっつってもさ、一方的に負担が掛かるんじゃだめだよ、負担に思わなくてもさ、俺がいやだ」
     五条だけに、金銭を負担させるわけにはいかない。大人とか子どもとか、年俸とかの問題じゃない、片方だけに背負わせる関係じゃあ、きっと長続きしない。
    「だから、国際電話はこれでおしまい、電話しても出ないから」
    「……わかったよ」
     五条は明らかに声がしょぼくれていた。犬だったら耳が垂れ下がるくらいに落ち込んでいる。
     ちょっとだけ踏ん切りがつかなかったけれど、慣れていないから恥ずかしいだけだ。言い聞かせて、口付けを落とす。スピーカー越しに温度が伝わるように、ちゅ、と音を立てて柔らかく唇を押し当てた。
    「おやすみ五条先生、またね」
     すぐ帰って来て欲しい、とわがままな願いを込めて、別れを惜しんだ。
    『……おやすみ悠仁。すぐ帰るからね』
    「うん!」
    『またね』
     これ以上は離れ難くなる。通話終了ボタンは二人同時に押した。途端に寮の部屋はまっさらな無音になる。ばふ、とベッドに倒れ込んで、枕に顔を沈めた。
     五条先生が帰って来たら、俺からおかえりって言うんだ。緩む頬はそのままに、虎杖はスマートフォンを胸に抱いた。
     生き返った時に、なんでもないように、昨日の地続きのように、おかえりと迎えてくれたことが、どれだけ嬉しかったか。五条にも伝わるように。

     *

    「ンぁっ……ァァァ〜っ!」
     人目も憚らず、カフェの机に顔を伏せ、脚をばたばたする青年は、それでなくても人目をひいた。ナンパ目的で女性が声を掛けるが、五条の耳には入らない。
     僕の彼氏かわいすぎなんですけど! 見て見て! なんて、誰彼構わずスマホの写真を見せびらかしたかったが、独り占めにしたかったので、理性で堪えた。
     ロック画面は、とびきりかわいいキス顔をした虎杖の写真になっている。唇をにゅっと突き出して、ブラウンの睫毛は少し濡れて際立っていた。気合いを入れているらしく、前髪が上げられている。おでこが元気そうに出ていた。
     少年院の事件では、虎杖に出張を伝える暇もなく、いってきますも言えずに出掛けた。帰って来た時には全てが終わっていた。
     いってきますを永遠に言えることもなく、おかえりと迎えることも出来ずに、永遠の別れになってしまうことなんて、この世界じゃありふれた悲劇だ。
     だからこそ、生き返った虎杖に、おかえりと手を掲げて、ハイタッチを交わしたことが、どれだけ嬉しかったか。おかえりのキスをして伝えよう。
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