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    owl47etc

    @owl47etc

    🦉。呪の文字置き場。

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    owl47etc

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    夏七で教祖夏と社畜七の密会…というか食べながらだべってる話。付き合ってるかは微妙。
    七詰めで展示していたものから、若干修正してます。

    依然として遥か上空、頭上を通り過ぎる身の毛がよだつおぞましい気配に、またか、と独りごちる。
    手にしていたハードカバーの本に栞を挟んで本棚に戻す。続きはまた来週、きちんと休みが取れたら読むことになるだろう。気になるところだが、この後にやってくる面倒事のことを考えると、このまま読み続けるという選択肢は取れなかった。
    寝るだけのために存在すると言っても過言ではない部屋を見渡す。溜まっていた埃はハタキで落とし、自動掃除機を隅々まで走らせて取り除いた。換気もしている最中だ。寝に帰るような家が散らかっていることもなく、気になることと言えば部屋着なことくらいだろうか。着替えるかどうか、クローゼットに手をかけ悩んだのち、止めた。期待に満ちて待ち侘びていたようで、相手を図に乗せそうだ。貴重な休日を潰されるのだから、こちらとしては癪なのだ。
    ソファーに座り、さて、どうやって暇を潰すかとスマホを手にしたところでタイミング良くインターホンが鳴る。何もかもを見通されているようで居心地が悪い。しかしながらインターホンを鳴らした相手ならそれもありうる、と思ってしまうのだから我ながら毒されている。
    これまた急いで迎えば変に勘違いされそうだからと、なるべくゆっくりと玄関へ出迎えに行くことにする。

    「やあ。いなかったらどうしようかと思ったよ。」
    「分かっていてやっているでしょうに。」
    「まあね。」

    インターホンを鳴らした相手ーー夏油傑ーーを、とても来客を持て成すとはいえない態度で出迎える。
    アポ無しなのだから当然の対応だろう。こちらの塩対応など慣れたもので、私を押し退け、相変わらず何も無い家だねぇ、などとこれまた失礼なことを言いながら勝手知ったる様子で廊下を歩いていく。
    かつて呪術高専に通い、呪術師を目指していた1つ上の先輩で、今や呪詛師として高専から命を狙われているはずの夏油さん。理由は違えど同じく呪術師を止め、一般社会に戻った私の元にふらっと現れたのはいつからだったか。何を考えているのかは分からないが、こうして時折、思い出したかのようにここへとやってくる。3人しかいない特級術師だったうちの1人だ。呪詛師の夏油さんが死刑宣告が解除されたとは考えにくい。

    「こんな真昼間に平然とやって来れるものなんですね。」

    高専に通っていたのだから、顔も知られているだろうに。距離はあるが、高専のある東京都内であるここに、よくもまあ度々来られるものだ。都会は人が多く、呼応して呪霊も多く強力である。それらを調べ見張る窓や御三家、呪術界の者と遭遇する機会は多いはずだ。

    「案外、堂々としている方が気付かれないものだよ。」

    指名手配犯が何をしているのだ、と嫌味を口にしたつもりだった。当の夏油さんは何処吹く風。私のことを心配してくれるなんて七海は優しいね、などと喜んでいる。しまった、図に乗らせてしまった。
    連勤続きで眠りたいときや、本当に嫌なときなら、夏油さんはそれを察して帰ってくれる。しかし、喜ばせてしまった。これはもう絶対気が済むまで帰ってくれないな。ソファーに座ってくつろぎ始める夏油さんに、深く深くため息を吐いて、促されるまま向かい側に腰を下ろす。ここは私の家なのに、何故家主が座るよう言われなければならないのだろうか。
    動く気のない夏油さんは、芋虫のような体型の呪霊を呼び出し、呪霊の口元に手をかざす。すると呪霊は顔よりも大きく口を開き、体積に見合わぬ、ビニール袋に覆われた箱を吐き出した。体液塗れのビニール袋は呪霊の口に戻し、意気揚々と箱の中身を取り出していく。

    「窯を作ってね。やっと上手く焼けたからお裾分けさ。」

    机の上に並べられたサンドイッチを前に、某寿司屋社長のように両腕を広げ、どや、と効果音でも聞こえそうな笑みで笑っている。確かに、サンドイッチに使われている食パンの耳は良い色をしていた。
    中の具は今日絞めた鶏と、その卵を使ってる。野菜も1番いいものを選んで収穫してきたんだ。
    こっちはタマゴサンド、こっちはサラダチキン、それからチーズにベーコンレタス…、とあれこれ指差しながら中身について説明し始めるのを聞き流す。呪詛師が堂々と、元とはいえ高専出の人間に会いに来るのは百歩譲るとして、だ。食べ物を呪霊に入れて運ぶのは未だにどうかと思う。
    初めて見た時に夏油さんからは、体内に何でも収納できる術式持ちの低級呪霊、と聞いている。箱には厳重に札が貼られていたし、誰かの残穢も感じるから呪いはかかっていないだろう。今も目の前のサンドイッチからは呪力は感じない。食べ物に罪はないが、呪霊の口から取り出されるのを見ては食欲は失せるというもの。

    「遠慮なく食べていいよ。」
    「…いただきます。」

    美味しそうな見た目と匂い、そしてパンであることを天秤に掛ける。辛うじて傾いたので目の前のタマゴサンドに手を伸ばし、一口。流石、可能な限り非術師のものは避けたいと言うだけあって、自分、あるいは僅かでも呪力を持つもの達に作らせた食材を使っただけのことはある。素朴だが素材の旨味が凝縮されていて、一口、もう一口と食べ進めてしまう。
    私が食べ始めたのを確認したのち、夏油さんも同様にサンドイッチに手を伸ばす。
    そう、夏油さんはこうして食べ物を持参しては、何かとお裾分けをしにくるのだ。いざと言うときのために手荷物を無くしたいのは理解できるが、呪霊に、それも体内に収納するのだけは私の理解の範疇を超えているけれど。

    「で、今日は呪霊ですか。」
    「この前は呪詛師を唆したからね。」

    連続は怪しまれるし、丁度いい奴もいなかったから。あっけらかんとしている夏油さんは、早くも3つ目のサンドイッチに手を付けている。あ、サラダチキンがあと1つしか残っていない。まだ食べていないのに。

    「そろそろこの辺り、高専に監視されるようになりません?」
    「まだ平気かな。次は隣の県で見つけた、古びた神社に細工をするから。」

    夏油さんがこうも堂々としているのには訳がある。窓の目を掻い潜るため、意図的に呪霊の主従関係を切り離し街へと解き放つのだ。手放しても問題ないものがいれば呪霊を、時には自分とは相容れない呪詛師を言葉巧みに騙して。当然、窓はそちらに人員を割く。その間に私の前に現れる寸法だ。この人が来るということは、どこかで誰かが襲われ、怪我をし、最悪死んでいるということと同義である。呑気に食事をしている場合ではないのだろうけど、生憎私は最早一般人。例え連絡先を知っていようが呪術界とは関わりたくない。

    「次にくるときは、もっと上手く焼けるようになってると思う。」

    気付けば机の上は綺麗に片付いていた。勝手に来て、勝手に作ってきたのは夏油さんなのに、大半を夏油さんが食べるのはどうも釈然としない。
    食べかけのサンドイッチを手にしたままの私を尻目に、テキパキとゴミやら皿を再び呪霊に収納し、立ち上がり、廊下へと消えていく。ドアを開ける音が聞こえ、夏油さんは来た時同様、勝手に帰っていった。
    呪霊にも呪術師にも呪詛師さえ関わるのは御免だと言うのに。もう来なくていい。その一言がいつも喉の奥でつっかえって出てこない。それもこれも、あの人がただならぬ雰囲気を纏ってやってきて、帰る頃には憑き物が落ちたように朗らかに笑っているせいだ。理由は違えど、呪術界から出て行った夏油さんを、どうにも突き放す気にはなれないのだ。
    次にくるときはバケットを持ってきてくれればいいのに。食べかけのサンドイッチを齧りながら、次のことを考える私も大概、似たようなものなのかもしれない。


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