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    owl47etc

    @owl47etc

    🦉。呪の文字置き場。

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    owl47etc

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    夏七で転生もの。記憶なしにゃんこな七視点。夏は記憶あり。猫の日、とは。

    私は猫である。名前は『ななみ』と付けられた。今は私の飼い主の膝の上に乗り、大人しく撫でられているところだ。何が面白いのか、この人はかれこれ1時間は、私の名前を呼びながら頭や背を撫で続けている。膝の上は暖かく、毛並みを整えるように動かされる大きな手は心地良いので悪い気はしない。

    「ななみは本当に、綺麗な目をしている。」

    この人は私の目がお気に入りらしく、毎日のように口にしている。はちみつ色がうつくしい。はちみつ、が何なのかは知らないけれど、褒められているのは分かる。うっそりとした声に尻尾を緩く振ってみせれば、ぱぁ、と纏う空気が華やぐ。
    この人と出会ったのはまだ私が子猫、と呼ばれるときのころ。この人ではない別の人に、上がぽっかりと空いた、薄く冷たい寝床に移された。外の寝床は寒く、いつになってもご飯もこない、あの人も帰ってこない。空腹のあまり、寝床の壁に爪を立ててもがきながらもよじ登って寝床から出ると、見知らぬ場所にいた。
    きっと知らないところだから、あの人もここが分からなくなってしまったに違いない。勝手に出歩くのはどうかと思ったが、本能には抗えず、何か食べるものを探しに寝床の周りを歩き回っていると、突然周りが暗くなった。
    なんだろうかと上を見上げると、見知らぬ人が見ていた。あの人よりも大きな人間で、私と、私の寝床を何度も見遣り、それからおもむろに着ていた服を脱いで私をくるんだ。久方ぶりの温もりはおなかを空かせた私をいとも簡単に眠りへと誘った。
    それから目を覚ますと、私をくるんだ人間が、ミルクとご飯を持って目の前にいた。そっと置かれたそれらに、がっついた。いつもあの人がくれていたものよりもおいしい。夢中になって食べ、腹も満ちて気付く。ここはどこだろう。私の寝床は?またも知らない場所へ来てしまった。きょろきょろと周囲を見渡し、無意識に尻尾を山なりに持ち上げる。そんな私に、ご飯をくれた人はゆっくりと手を伸ばした。

    「今日からお前はななみ。私と一緒に暮らすんだよ。」

    この人の手にすっぽり収まっていた私も、今は両手でないと持ち上げられないほど大きくなった。私はあの人にすてられ、この人にひろわれ、『かぞく』となった。
    『かぞく』になってからというもの、私は快適な暮らしを満喫している。ふわふわでふかふかの新しい寝床で日向ぼっこをし、時間になるとでてくるご飯を食べ、暇になったら住み処を歩き回る。私が手の中に収まらなくなったころに用意された『きゃっとたわー』なるものに登るのも日課だ。1番上まで登って降りる。はじめてできたときに褒められてから、毎日のように繰り返して今では軽快に駆け登るようになれた。今日も上手くいった。さて、次はどうしようかと、きゃっとたわーの前に座って考えていると、がちゃり、と音がする。次いで一定のリズムで床が重く響く。

    「ただいま、ななみ。今日もいい子にしてたんだね。」

    しごと、というものに行っていた飼い主が戻ってくるなり私を持ち上げる。それになう、と返事をすると気を良くして頬をくっつけてくる。

    「すぐご飯の用意するから待っててね。」

    忙しない人だ。床に下ろされ、頭をひと撫でしたあと、バタバタと音を立ててドアの奥へと消えてしまう。それから違う見た目になって戻ってきて、キッチンと呼ばれる場所に立った。この場所は危ないから近付いちゃダメ、という言いつけを守り、離れた位置からご飯ができあがるのを待つ。ご飯は私のでは無く、この人のご飯だ。人間は私と違うご飯を食べる。私のはカリカリした粒がじゃらじゃらと袋から出てくるか、柔らかくしっとりした食感の塊が硬い缶を空けるだけ。人間は違うらしく、ご飯はつくる、という。不便だと思う。
    つくったご飯を机の上に乗せ、それから私のご飯も同じように机に置かれる。机の上に乗ってはいけないけれど、この人とご飯を食べるときは特別に登ってもいい。手足を布で優しく拭かれ、ご飯の前に運ばれる。

    「いただきます。」
    「にゃう」

    ご飯を食べる前にはあいさつ、をする。この人がしているので、私も真似をする。それから2人でご飯を食べる。その間、この人は今日は何があった、しごとがどうだった、と話しかけてくる。
    しごとは見たことがないから知らないけれど、疲れて、大変で、でもやらなければいけないことらしい。人間とは大変である。しごと、はこの人以外の人間もやっていて、よく『さとる』と『しょうこ』という名前がでてくる。さとる、という人間はこの人を困らせているようで、なのにさとるの話をしているときは楽しそうでもあるので、人間は不思議だ。
    ご飯を食べ終わったあとは、大体この人の膝の上で過ごす。ソファーに座ったこの人が、膝を叩いてくる。おいで、の合図だ。こういうときは素直に膝の上に座る。そうすると喜ぶのだ。膝の上で寝そべると、頭を撫でられる。大きな手のひらは私の頭をすっぽり包む。

    「ななみは変わらないね。」

    大人しくて、賢くて、とても優しい。止まった手を持ち上げるように、頭を上げて、遥か上にある顔を覗き込む。この人は時々、空気が重くなる。悲しそうな、寂しそうな、うまく表現できないのだけれども、いつもと違う様子になる。
    そういうときに私を膝に乗せたがるから、知っている。この人は私にあたたかい場所をくれた人だから。人間ではない私にできることといえば、合図のとおりに膝に乗り、乗せられた手に頭を押し付けもっと撫でろとねだることくらいだ。しごとを変わってあげられたらいいのに。こういうとき、人間だったら、と考えることもある。人間のことはこの人と、びょういん、の人しか見たことがなくて、考えたところでちっとも分からないのだけれど。
    押し付けても乗せられたままの手のひら。これは相当重症だ。身体をずらして手を退ける。慌てて動かそうとした手を上から押さえ、ぺろり、と舐める。この人が撫でるときを真似て、そっと、手の甲、それから指先の爪を舐める。私の舌は痛いらしいから、人間の手の硬いところを丁寧に舐める。人間には私と違って毛が生えてなくて毛繕いができないから、その代わりだ。時折歯が刺さらないように甘く噛んでやれば、この人はたちまち機嫌を良くする。人間とは複雑なのか簡単なのか、謎の多い生き物だ。

    「やっぱり優しいよ、ななみ。ありがとう。」

    重苦しい空気がなりを潜める。舐められている手はそのままに、反対の手で私の背を撫ではじめた。今度ちゅーる買ってくるね。その言葉に耳をぴんと立てる。特別な時にしか食べられないおやつ。美味しくてついつい食べすぎてしまうそれを、今度くれるという。早く食べたくて、かぷかぷと甘噛みを繰り返す。

    「はは、ななみは相変わらず食いしん坊だね。」
    「な〜う」

    ぽんぽん、と背中を軽く叩かれたので噛むのを止め、膝から降りる。これからおふろに入るのだろう。水浴びは嫌いではないけれど、毎日入るのは面倒だ。毛繕いできないから水で綺麗にするのだろうか。やはり人間とは難儀なものだ。

    「今度の休み、はいばらのところにも遊びに行こうね」
    「にゃ!」
    「ははっ、本当にななみははいばらのこと好きだな。」

    はいばらは、私のともだちだ。『やが』というびょういんの人のところにいる。生まれつき足が悪く、びょういんで足がよくなるようにしているらしい。はいばらは、とても元気で、早く一緒にお外を見て回ろうね、と約束をしている。はじめてびょういんに行ったときに会って以来、すっかり仲良くなった私たちのために、用もないのにびょういんに連れて行ってくれる。
    びょういんは、痛いことがあるから好きじゃないけれど、そのあとにはいばらと遊べるから嫌ではない。早く休みがこないだろうか。はいばらと何を話そうか、もう歩き回れるようになったのだろうか。今から楽しみで仕方ない。
    お風呂から出てきてほかほかの足に、邪魔にならないように気を付けながら寄り添うようにして一緒に歩く。こうすると、この人はより一層喜ぶのだ。明日の支度、とやらの間もあとをついて行き、寝る部屋へと向かう。この人の寝床がよく見える場所に置かれた私のふわふわふかふかの寝床。いつもはそこで身体を丸めるが、今日は特別だ。布団をめくり、寝床に入ったところで私もこの人の寝床に乗る。顔の横、邪魔にならないところでくるりと丸まる。随分とお疲れの様子だから、添い寝、をする。暖かいから、布団の中に入らなくてもいい。私もこの人も寝ている間は動かないから、潰される心配もない。一瞬驚かれたが、私に動く気がないことを悟り、部屋の電気が落とされる。

    「お休み、ななみ。」

    かけられたあいさつに、喉を鳴らして応える。おやすみなさい。疲れたあなたこそ、ゆっくりやすんで良い夢を見てくださいね、げとうさん。


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