自我なき男の独白 バルナバスは神の器を腕に抱えながら、今となってはただ虚ろなだけの玉座に座している。神の為に己が意思で捨てた自我無き瞳で、この腕の中の器に視線を落とす。
この器…ミュトスは、神の器となる誉を理解せずに、かの地カンベルで私に闘いを挑んできた。ミュトスの技量は私に遠く及ばずとも、鍛錬を積めば私と同等の剣を操る事ができるのだろう。
神の器として選ばれた身には自我を捨てる事こそ誉なのだ。そんな未来は訪れないのだろう。
神が導く新しい世界の創世。その世界の内には、人を導く役目を神に委ねた私と御方の器となったミュトスは居ないのだろう。
だが、それで良い。それでこそ神の御業で人が正しき道へと導かれるのだ。
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