瞳を褒め合うさたいぶ強い視線を感じている。
いや、何か得体の知れないもの、例えば幽霊とかそういうものに見られているというわけではないんだけど。先程からずっとサタンに見つめられているのである。
「サタン、何?」
「いや別に」
「そっか」
何の意味も持たないやりとりを何回したことだろうか。サタンの部屋にしかない本を読みにきたっていうのに、正直もうそれどころじゃない。さっきから文字が滑りまくっているし、ページをめくる手も止まっているのは自覚していた。
ええい、埒があかない。
読んでいた本を閉じてソファーから立ち上がり、ズカズカとサタンが座っているベッドの方へと歩く。本が沢山あるというか、バカほどある部屋だけど合間を縫って歩くのも慣れたものだ。それくらいにはサタンの部屋を訪れているし、ソレを許されている。ほんの少しの優越感は私を満足させてくれる。
「もう一度聞くね。さっきからずっと私のこと見てたよね。どうしたの?」
ベッドの前に立ち、しっかりと彼の目を見つめて問う。サタンは一瞬目を見開いた後、眉を下げてくしゃりと笑った。そしてぽんぽん、とベッドの空いているスペースを叩いている。座れ、ということだろうか。素直に腰掛けると「ふふ、いい子だな」という声が耳のすぐそばで響いた。不意打ちは本当にやめてほしい。心臓が跳ねてバカみたいになっちゃうじゃんか。
「それで、何で見てたの?」
「君にしては珍しく、こちらを向いてくれないんだな」
「質問に質問で返すのはなし!」
「……君の目が、綺麗だなと思ったんだ。改めて」
「えっ」
思わず隣にいる悪魔のことを見上げると、悪戯っぽい上に艶を帯びて輝いている目が飛び込んできた。
「君の瞳は深い黒色をしているだろう。光を全部飲み込んでいくような、そういう色だ。その君の目が、俺だけに向けられていると思うと」
そこまで言って、サタンはクツクツと低い声で笑っている。ジワリと頬に集まっていく熱を誤魔化したくて、反撃に出ることにした。
「サタンの方こそ。サタンのエメラルドの目、すごく綺麗だと思う。宝石みたいだなって」
じっと彼の目を観察して、改めてそう思った。私の黒が光を飲み込むんだとしたら、彼の緑は光を吸い込んでいくような。そういう感じ。ひとりでうんうんと頷いていたら、サタンはフフ、と笑っていた。
あれ、段々と緑色が近くなってきてる?と思えばキスをされていた。そのまま柔らかく触れるくらいの口付けが2、3度と降ってくる。
唇が離れていった、と思っても、サタンとの距離がかなり近いのは変わらない。おでこをくっつけているままだし、彼の目から目を逸らすことなんてできないとさえ思った。目の前の世界が、綺麗な緑に満ちている。
「いいよな?」
質問のフリをしたただの確認事項の問いかけには、サタンの首に手を回すことで返事にした。