あともう少しで年が明けるといった頃。年末特有の、そわそわとした賑やかさに満ちたリビングを抜け出して、ルシファーの部屋へと足を運ぶ。
いつものように重々しい扉を3回ノックすれば、「開いてる」と中から声をかけられた。
そっと扉を開けて、部屋の中へと身体を滑り込ませる。部屋はその持ち主の陣地、領域、という感じがするけれど、ルシファーの部屋に行くと、それを強く意識してしまう。
当の本人はというと、デモナスを飲んでいるらしい。机の上にデモナスのボトルが数本と、グラスが2つあるのが見える。ソファーをポンポンと叩いているので、そのまま彼の隣に座りにいった。
「あいつらはどうしたんだ?」
「2次会するって言ってたから先に上がらせてもらっちゃった。ルシファーと過ごしたかったし」
「そうか」
頭を引き寄せられたかと思えば、私の頭の上でリップ音が響いた。びっくりして顔を上げれば、楽しげに口角を上げた彼と目が合う。
「……ッ、不意打ちはびっくりするから!」
「不意打ちじゃなければいいのか?」
またもやリップ音が響いた。今度は額に口づけを落とされたのだと気付く。たぶん、今の私の顔は熟れたりんごみたいに真っ赤だ。
「ふふ、かわいいな」
「もう!」
じっとりとした目線を向けたところで、彼の意地の悪そうな笑みは深まるばかりだ。仕方ない。彼の領域に踏み込んだ地点で、こうなるのは決まりきっていることだ。ふぅ、と息を吐いてそのままルシファーの身体にもたれかかった。
「今日は付き合ってくれるな?」
彼は、流れるようにして私の肩を抱きながら言う。もう片方の手にはデモナスのボトルが握られていた。
一応こちら側に選択が委ねられているように見えるけれど、実のところノーという道はあり得なかった。その証拠に、ルシファーは空いていたグラスに迷いなくデモナスを注いでいる。